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社会福祉法人シオン福祉会(青森県青森市)

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社会福祉法人シオン福祉会(青森県青森市)

シオン福祉会の概要

 シオン福祉会は、待望園(就労継続支援B型事業)、茶ちゃhouse(「待望園」の従たる事業所)、リーフ壱番館・弐番館(グループホーム)等の障がい者支援事業を行っている社会福祉法人である。

 施設の原点となったのは、1970年頃に身体障がいの当事者でもあった初代園長が立ち上げた小規模作業所だった。縫製の好きな仲間たちが集まり、楽しみながら少しでもお金を稼ごうという方針でスタートしたのだ。その後、1991年に法人認可されると翌年に身体障害者通所授産施設(当時)待望園が設立されたのである。

 作業としては、縫製関連が8割以上を占める。大手自動車メーカーの自動車部品の縫製作業(受託作業)を中心にこなし、空いた時間を活用してエコバッグ、ブックカバー、ポコポコクッション、マスクといった自主製品も製造販売する。これらは毎月近隣で開催されるマルシェ等に出品し、好評を得ているという。近年では、完熟カシスソース、濃厚毛豆味噌等の食品開発にも力を入れ、「他にはない唯一無二の味」を醸し出す製品として注目を浴びているところだ。

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「できないを できるにかえる」をスローガンに掲げる

 待望園という施設のスローガンは、「できないを できるにかえる」である。2014年、法人理事長に就任した浅井壽美子さんが自ら考え、全員に広く呼びかけた。その意図について、浅井理事長は次のように説明する。

「障がいのある人たちは、どうしても『この仕事は自分には難しい』と諦めてしまっていることが多いのです。けれども職員が上手にサポートすると、やり方を少し変えるだけで作業性が向上し、本人のモチベーションも上がる事例を私はたくさん見てきました。良い支援と工賃向上の両立というのはとても難しいテーマですが、それこそがB型事業所の醍醐味でもあります。そんな私の考えを、事業所全体で意識してもらいたいと思いました」

 スローガンは、施設内の目立つところに貼られ、浅井理事長から何度もその意図が説明されたため、職員たちに少しずつ意識が浸透していった。職業指導員の本荘隼人さんは次のように語る。

「スローガンを掲げる学校や職場は多いですが、決して『飾り物で終わっていない』のが待望園の特色だと思います。普段の仕事の中でも、私たちはことあるごとにスローガンを口にします。仮に後ろ向きな発言をする人がいたとしても、『でも、できないことをできるにかえるのが待望園だよね』と話します。すると次第に気持ちが切り替わり、『じゃあ、一緒に頑張ろう』という雰囲気になっていくのです」

 具体的には、どんなことが「できるようになった」のだろうか。職業指導員の太田好美さんが説明する。

「決められた枠の中に印鑑を大量に押す仕事があります。手が不自由な人だと、どうしても曲がってしまったり、枠からはみ出てしまったりします。そこで私はあるとき、利用者さんのために印鑑を押す紙枠を治具としてつくりました。ちょっとしたアイデアを加えるだけで、作業性は大幅に向上するケースがあります。『納期と品質』を守るだけでなく、『利用者さんの笑顔』を作ることも、私たちの大切な役割だと思うのです」

 このように浅井理事長が掲げたスローガンは、今や施設でのあらゆる行動の基本となっている。たとえば畑での収穫作業への参加を希望する利用者がいるならば、それが車いすの方であったとしても構わない。なんとかしてその人が参加できるように、職員は無理を承知で対策を考えていく……そんな習慣が自然と生まれていったそうだ。

社会福祉法人シオン福祉会(青森県青森市)
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カシスの味をそのまま閉じ込めた、完熟カシスソース

 待望園には、食品の自主製品として2つの大ヒット商品がある。どちらもこの事業所らしいユニークな個性をもった商品なので、詳しく紹介してみよう。
1つ目は、完熟カシスソースだ。カシスとは、直径1センチ程度の艶やかな赤黒い実のベリーの一種だ。海外では肉料理のソース、ジャム、ジュース、リキュールとしても普及しているが、ブルーベリーと比較すると日本ではまだまだ知名度が薄いのも事実だろう。酸味も非常に強いため、一般的にはジャムに加工することが多いこのフルーツを、待望園ではあえてソースとして販売している。浅井理事長は、言う。
「ジャムにしないのは、素材そのものの美味しさを味わってほしいからです。その意味ではソースにするのが一番だと思いました。これを加えてパウンドケーキやシフォンケーキなどを作ると、爽やかな香りでとても美味しいのですよ」
 そうはいっても、イベント等でお客さんにカシスソースを試食してもらうと「ちょっと酸っぱい!」という意見も多いのだと本荘さんは言う。
「でも変に甘く加工しないで、カシスの味そのものを楽しんでもらうというのが、この商品のコンセプトです。八甲田山の麓にある待望園の畑で育てたカシス100%の美味しいソース。低糖なので、ヨーグルトやサラダにはもちろんのこと、ウォッカやソーダと混ぜてオリジナルのカシスサワーも楽しめます。万人受けはしないかもしれませんが、好きな人にはリピートしていただける自慢の商品だと思います」
カシスソースは、1本800円/200グラム。地元では土産店にて購入できるほか、メルカリShopsにてネット販売もされている(2本入りセット限定/送料込み2,500円)。

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濃厚毛豆味噌は、半年待ちの大ヒット商品に

 もう一つの人気商品が、「濃厚毛豆味噌」だ。毛豆とは、青森県で栽培されている在来の枝豆のことだ。名前の通り、さや、茎、葉など、全体がびっしりと茶褐色の毛に覆われている。一般的な枝豆と比較すると、濃厚で甘みが強い味わいが特色であり、地元では茹でてビールのつまみにする他、さまざまな料理やスイーツに使われている。豊かな風味ゆえ、何に加工しても豆の風味をしっかりと味わえるのだそうだ。

 待望園では、そんな地元特産の毛豆を使って手づくりの味噌を作り上げた。カシス同様に事業所の畑で栽培・収穫した毛豆を天日干しし、赤穂の塩と県内産麹を使用して、数ヶ月間発酵させると完成である。毛豆独特の濃厚な味と、赤穂の塩のミネラル成分の甘さがベストマッチ。食べた瞬間、思わず「うなるような美味しさ」だと待望園のホームページにも書かれている。

「毛豆を使った商品はいろいろありますが、味噌というのはとても珍しいと思います。1口食べるとその美味しさにやみつきになるのは間違いありません。そのままご飯に載せて食べるのがとくにおすすめです」と、浅井理事長。これに対して、太田さんは、味噌汁派だそうだ。

「私は、味噌汁に使うのが好きですね。他の味噌と比べると、明らかに味が濃くて美味しいんです。コクがあるというか、豆の味が強いというか…。味噌汁を飲んだ後に口の中にふわっと残る独特の香りもやみつきになります」

 どちらにしろ、「濃厚毛豆味噌」が素晴らしく美味しいことは間違いないようだ。派手な宣伝活動をした覚えはないと言うが、口コミで少しずつその味が広まり、今では入手できるのは半年待ちという幻の商品になってしまった。在庫はまったくないものの、マルシェに出品するときには「濃厚毛豆味噌」の宣伝ポスターを必ず店の前に貼っておく。すると「お届けできるのは、半年先」という条件にもかかわらず、申込者が後を絶たないそうだ。

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SNSを活用して、施設の存在をアピールしたい

 最後に、浅井理事長が掲げた明確な方針の下で一致団結している待望園が、これからめざすテーマについて伺ってみた。

「コロナ禍の影響で、大きな取引先だった健康器具メーカーが倒産してしまった他、自動車部品の製造ラインもストップするなど、ここ数年は待望園の縫製事業が大きな打撃を受けています。その代わりとして、防護服や布マスク製造の仕事を国や県からいただけたので大幅な工賃ダウンは避けられましたが、いつまでもそれに頼ってはいられません。自主製品づくりにも積極的に取り組み、若い職員たちに積極的なアイデアを出し合ってもらいたいと考えています」と、浅井理事長。

 太田さんと本荘さんは、この取材を受けるに当たって理事長に同席するように頼まれたという。入職2年目の新人ながら、2人とも他業界からの転職組でもあるためか、自分たちの強みと弱みをしっかり把握した上で、今後の可能性についてしっかりと意見を語ってくれた。

「待望園のメリットは、一般の縫製工場なら請け負わないような小ロットの仕事でも受けられる点にあると思います。企業と違ってスケジュールがそれほど詰まっているわけではないので、納期が多少短くても融通が利きます。つまり他がしない仕事を拾うことができるわけです。利用者さんには難しい作業かな?と最初は躊躇しても、しっかりサポートすれば大丈夫。一人ひとりは小さなチカラかもしれませんが、まとまれば大きなパワーが生まれます。それを信じて、利用者の皆さんの工賃アップのために努力したいと思っています」(太田さん)

「待望園でも、最近はITスキルに長けた30代の若手職員が増えてきました。幸い、やりたいことは自由に挑戦できる環境にあるので、FacebookやInstagram等のSNSを活用して事業所のPRを行っていきたいと考えています。自分たちの存在を知ってもらうには、SNSの活用はとても重要です。通販サイトとしてメルカリShopsもオープンしましたので、ポコポコクッション、あみぐるみ等の可愛い手工芸品も積極的にアピールしていきたいですね」(本荘さん)

 二人のような若い職員たちが、このようなしっかりした展望をもてるようになったのは、浅井理事長が「できないを できるにかえる」というスローガンを掲げたためだろう。企業広報の基本は「知られざる企業(事業所)に発展なし」とも言われている。ネットを活用して積極的にさまざまな発信を続ける待望園の未来に、ぜひとも期待したい。

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(写真提供:社会福祉法人シオン福祉会、文:戸原一男/Kプランニング

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※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年05月17日)のものです。予めご了承ください。