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社会福祉法人白百合会(京都府京都市)

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社会福祉法人白百合会(京都府京都市)

白百合会の概要

 白百合会は、リ・ブラン京都中京(就労継続支援B型事業)、リ・ブラン京都西京(就労継続支援B型事業)、セカンドテーブル(子ども食堂:京都府こどもの居場所づくり支援事業)を運営する社会福祉法人である。

 原点となったのは、1984年に聖マリア養護学校の卒業生を中心として結成された「重度身体障害者マリアの会」である。働く意欲があっても、障がいが重いために就職先を見つけることが難しい人たちの社会的自立を目標として、同年に無認可の「衣笠共同作業所」を設立。その後、京都市内各地に「洛陽共同作業所」、「西京共同作業所」を開設していった。

 2001年に社会福祉法人化されてからは、各作業所ともに小規模通所授産施設へと変更。さらに新体系への移行時に、西京授産所が「リ・ブラン京都西京」(2010年)、衣笠授産所と洛陽授産所が合併して「リ・ブラン京都中京」(2011年)となり、新たなスタートを切ったのである。

 どちらの事業所も、京都に根付いたものづくりを基本とする。具体的な作業科目は、織物・刺繍・キャンドル、製菓(以上、2事業所共通)、喫茶(リ・ブラン京都中京のみ)である。美大出身の職員や専門家によるきめ細やかな技術指導と、徹底した品質へのこだわりで、ハイクオリティな製品を次々に生み出している。

社会福祉法人白百合会(京都府京都市)
社会福祉法人白百合会(京都府京都市)

ハイクオリティな製品を作れる理由

 白百合会の素晴らしい製品の数々は、ホームページやInstagramで確認することができる。どれも京都の一般の土産物店に並んでいるような、素敵な製品ばかりである。しかもその品質レベルは、共同作業所時代から変わっていないのだと、楠りつこ理事長は明言する。

「共同作業所を始めたのは私の父ですが、一般企業(メーカー)に勤務していました。そのため障がい者が作ったものだという甘えを捨て、お客さんが本当にほしがるような商品を作らないとダメだという考えが徹底していたのです」

 楠理事長自身、以前は大手アパレルメーカーでテキスタイルデザイナーとして活動していた経歴があるのだという。理事長を中心としてハンドクラフトや製菓が得意な若手職員、フランス刺繍の師範資格を持ったベテラン職員たちが一体となって商品企画会議を開催。市場分析、ターゲティング、コンセプトの決定、マーケティング…等々を経た上で新製品を生み出すため、プロのバイヤーたちを唸らせるほど品質の高い商品が生まれていくわけだ。

社会福祉法人白百合会(京都府京都市)
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雑貨品は、京都クチュールとしてブランド化

 白百合会では、刺繍・織物・キャンドルなどの雑貨品を2019年より「京都クチュール」としてブランド化し、商標登録も済ませている。その理由について、楠理事長は次のように説明する。

「私たちが作っているのは、丹精込めた手づくり品ばかりです。お客様一人ひとりがどんなふうに使ってくれるのかを想像しながら製造していきます。決して大量生産できないけれど、1つとして同じモノはないという点は、まさに高級仕立て服『オートクチュール』そのものです。この名前を少しもじって『京都クチュール』とし、製品に付加価値を与えてみました」

 ラインナップとしては、花ふきん(家紋・祇園祭・五山送り火・ネコなどの動物モチーフ・童話シリーズ・千鳥・フラワーモチーフ・季節シリーズ)、家紋巾着袋、手織りマフラー、手織りショール、ヘアアクセサリー、刺繍ハンドミラー、刺繍カードケース、カルトナージュ、ポーチ、リールストラップチャーム、アロマワックスサシェ、モザイクキャンドル、月つくうさぎキャンドル、フローティングキャンドル…等々である。

 どの製品も、デザイン性に優れ、京都土産としても女性たちから人気を誇っている。とくに刺繍製品は、名前を聞けば誰もが知っている著名な刺繍作家の指導を受けたこともあり、洒落た図案と高い刺繍技術が注目の的だ。2018年には、皇后杯全国都道府県対抗女子駅伝参加記念トートバッグ(京都北ライオンズクラブが製作)の刺繍を任され、桜の花びらの刺繍を7ヶ月かけて1,000個も仕上げたそうだ。

「当法人では作業班を分けず、どの製品もすべての利用者さんに担当してもらっています。刺繍のように細かい作業は、誰もが得意なわけではありませんが、じっくり時間をかけて覚えてもらいます。最初は並縫い程度しかできなかった人でも、何年かたつとバックステッチとかアウトラインステッチまでできるように成長する姿を見ると、本当にうれしくなりますね」

社会福祉法人白百合会(京都府京都市)
社会福祉法人白百合会(京都府京都市)

地域に愛される事業所をめざして

 もう一つの目玉事業が、リ・ブラン京都中京の入口に併設された京町家ふうカフェだろう。町屋建設の匠によってデザイン設計されたという店内は、誰もが落ち着く空間となっている。ここで提供されるコーヒーもすごい。創業1940年、京都における珈琲文化をつくってきた老舗喫茶店の「イノダコーヒ」が味わえるのだ。

「カフェをオープンすることになったとき、戦前から母(前理事長)と知り合いだった猪田彰郎(アキオ)さん(創業者の甥:故人)が、ボランティアで1年間カフェを手伝いに来てくれたのです。彰郎さんはイノダコーヒ三条店の初代店長で、全国にも熱烈なファンがいるほどの珈琲職人でしたから、『アキオさんの珈琲がリ・ブランで飲める!』と、大きな話題になりました。職員たちは彰郎さんから徹底的に珈琲の淹れ方を指導され、今では『アキオブレンド』として提供しています」

 スイーツ・食事メニューも高いクオリティのものばかりだ。二条城の梅園から摘んだ梅から作ったジュースやジャム、甘さ控えめで優しい味のシフォンケーキ、見た目もお洒落なシフォンサンドプレートやカレーセット…、等々。センス溢れる女性職員の手によるオリジナルメニューは好評で、リピーターも多い。

「京都・ザグレブ姉妹都市提携40周年記念事業(2021年)として、市内の洋菓子店が期間限定でクロアチア名物のお菓子『クレームシュニッタ』を製造販売するイベントがありました。私たちもこの企画に参加し、まったく作ったこともないお菓子の製造にチャレンジ。担当職員は本当に苦労したみたいですが、最高に美味しいクレームシュニッタが完成したのです。イベント開催中にクロアチアの方が食べに来てくれたことがあったのですが、『いろんな店の味を比較してみたけれど、この店のクレームシュニッタが一番美味しい!』と、褒めてくれたらしいです。本場の人が言うのだから、間違いないでしょう」と、楠理事長はうれしそうに笑う。

 この他にも、京都女子大学デザイン研究所とのコラボ企画を実施したり(2020年)、祇園祭と猫フェア「ねこてん」を開催したり(2021年)と、地域と密着したイベントを次々と企画している。「ねこてん」の写真を見ると、可愛い猫の柄が刺繍されたバッグ・ポーチ・花ふきん、祇園祭モチーフの花ふきん・ティーマットなどがカフェ内の販売コーナーに所狭しと陳列されていた。

 コロナ禍で観光客が激減したこともあり、三条通の好立地にあるこの素敵なショップの存在は、地元の人以外の一般観光客にはまだあまり認知されていないのが現状だ。しかしこれだけのクオリティの商品群、落ち着いた店舗空間、美味しい珈琲と軽食が楽しめる店ならば、人の流れが増えることによって間違いなく大いに注目されていくことだろう。「京都クチュール」ブランドが大空へと舞い上がる日まで、もう少しの辛抱なのかもしれない。

社会福祉法人白百合会(京都府京都市)
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(写真提供:社会福祉法人白百合会、文:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人白百合会】
https://kyoto-shirayurikai.com/

【Instagram(リ・ブラン京都中京)】
https://www.instagram.com/kyoto_couture_nakagyo/

【Instagram(カフェ:cafe&patisserie Lis blanc)】
https://www.instagram.com/cafe.lisblanc.kyoto/

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年06月01日)のものです。予めご了承ください。