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社会福祉法人秀愛会(富山県富山市)

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秀愛会の概要

秀愛会は、1998年に富山県初の民間の重度心身障害児(者)施設あゆみの郷を設立したのを皮切りにして、高齢者専用ケアハウスそよかぜの郷、大沢野ちゅうおう保育こども園、生活介護事業、児童発達支援事業、そして障がい者就労支援事業と、事業対象を広げてきた。

法人理念は「共生社会の実現と地域貢献」である。総合的な共生社会の実現に向け、福祉について地域と共に考え、地域におけるセーフティネットの構築をめざしている。

秀愛会が運営する障がい者就労系事業所として最も新しいハーベストは、2014年の設立である。その特色は、農業に特化したA型事業所であることだ。農福連携が最近大きく注目されるようになってきたが、農業だけでA型事業にチャレンジする事例はまだまだ珍しい。その取り組みの成果は、全国からも注目されている。

アルギットにらで勝負する

ハーベストの農業のメイン作物は、アルギットにらである。事業の中心をにらに絞った経緯について、坂田俊久支援員(40歳)は次のように説明する。

「もともと私たちは、ステップ事業所の農業部門で近隣の耕作困難な複数の高齢農家から農地を借り受けて多品目の野菜や花を栽培し、地元の直売所で販売するという事業を行っていました。しかし、増える利用希望者のニーズに応え、その工賃向上のため、引き続き地域に広がる耕作放棄地問題にも取り組みながらより収益性の高い事業運営を目指して、新たにハーベストを立ち上げることになりました。独立したA型事業所となると、それまでと同じスタイルではとても経営を維持することはできません。もっと利益率のいい作物はないかといろいろ検討していたときにアルギットにらのことを知り、これを中心とした事業展開に切り替えることになりました」

アルギットにらとは、ノルウェー産の天然海藻アルギットや有機肥料をつかって育てるにらのことである。「アルギット」を肥料として使うことで、病気になりにくく、収量が多い。また、シャッキリした食感で甘みも強くて美味しいにらを生み出すことができる。にらの葉は、先端までハリがあり、色鮮やかで美しい。しかも、既存のものと比較すると日持ちの良さに特徴がある。

富山県内では数年前から有志によるアルギットにら生産組合が結成され、現在では40名程度の生産者が力を合わせてにらづくりに励んでいる。地元はもとより北陸や、中京、近畿地区でも大人気となっていて、今や富山県産野菜のNo.2にまでその生産額が拡大した。こうした結果を受けて富山県では、アルギットにらのブランド化を進めているという。

「県生産者協議会は独自の栽培マニュアルを確立し、ベテラン生産者によるバックアップ体制も充実させるなど、積極的に新規生産者を育成し、規模の拡大化を図っています。また、県推奨品目として最低価格保障があり、生産者に有益な品目と考え選定しました」と、坂田さん。

栽培が非常に手間のかかるアルギットにら

もちろんアルギットにらの製品化には多くの課題がある。その最大の問題は、出荷前作業の手間暇が尋常ではないことだ。畑で育ったにらを一株ずつ鎌で刈り、倉庫にもってくる。ここから草の根についた泥を洗い、袴といわれるにら下部の下葉や薄皮をきれいに取り除いていかねばならない。収穫した何千本のにらに対してこの作業を行うのである。人件費を考えると、とても労力に見合うとは思えない。富山県の生産者はこの工程のほとんどを手作業によって行っているのだ。坂田さんは言う。

「私たちはA型事業所の事業としてアルギットにらの生産を成立させようと思いましたから、なんとかこの作業を機械化できないかと思いました。他の農家の手伝いをやってみた結果として、同じことをしていたら高い工賃を支払うことなど不可能だと思ったからです。また、アルギットにらは高い鮮度をブランドの大きな特徴としているため、出荷はその日に収穫したものに限られます。そのため、目標販売数量を毎日出荷するためには、出荷前作業の機械化は必須と考えました」

すべて自前で制作した、アルギットにらの散水システム

しかしアルギットにらが難しいのは、収穫後だけではない。栽培するにあたって、畑には独自の土壌づくりと散水システムを必要とする。ハーベストでは現在50a(アール)の畑でにらを生産している。この広大な畑を耕すだけでも大変な作業だが、すごいのはこれからだ。アルギットにらの生育には水と肥料の管理が非常に大切なため、畑中にパイプを張り巡らせ、安定的に水を供給するシステムが必要となる。

「システムというと立派ですが、細かい穴の空いた点滴チューブを畝ごとに設置し、その中を水道水が流れるようにした簡易なものです。業者に依頼するととんでもない費用がかかるので、私たちは生産者に習いながら設置しました。また、通路には防草シートを貼り、除草の手間ひまを減らしています。出荷作業も大変ですが、畑づくりにはとてつもない労力が必要ですね」と、坂田さん。

こうして苦労の末に畑を完成させると、6月〜10月の間の1シーズンで4〜5回、にらを収穫することができる。1年目は定植のみで管理を行い、2年目、3年目が収穫年である。3年たつともう一度畑はゼロから作り直す必要がある。サイクルを考えると毎年にらを常時安定的に出荷するには、目標収穫量の3倍の畑を準備しておかないといけないわけである。

栽培、収穫、出荷準備、そして畑づくり…。収穫できる時期は限られているが、アルギットにらづくりには1年間十分すぎるほどの作業量が確保されている。取材に訪れた日は天候にも恵まれ、暑い中でみんなが汗水流しながら必死に農作業にいそしむ姿が印象的であった。

耕作地の大幅拡大と、シフト制勤務の導入

ハーベストでは、今年ようやく本格的にアルギットにらの収穫が始まったところだ。20人の利用者に対して、平均約60,000円の工賃を保証する事業がスタートした。年間売上目標は、約2,000万円。もちろん、市場を通じて全国に出荷されていくアルギットにらの生産販売が中心である。現在は利用者の労働時間は1日約4時間平均だが、いずれは働く意欲があり8時間働ける方にはその工賃を支払う事業所にしたいと考えている。そのためには、今後何が課題になるのだろうか。坂田さんは言う。

「なんといっても収穫量の拡大と、生産効率のアップ。それにつきますね。収穫高をさらに上げるための畑の確保はできています。富山市から140aの土地を貸してもらえることになりました。畑づくりを考えると気が遠くなりそうですが(笑)、とにかく栽培する場所の目処はたちました。あとは生産効率のアップですね。機械や作業環境の細かい見直しによって、どれだけ出荷量を増やせるかに、みんなの知恵を出し合っているところです」

労働時間の変更も検討中である。現在は7:00〜12:00の早出班と8:30〜13:30の日勤班の二つに分かれているが、近いうちに早出班を6:00にしようと考えている。利用者の出勤時間が6:00になれば、職員は5:00に来て作業の準備をする必要があるだろう。しかし本格的に農業をやる以上は、それくらいの覚悟は当然と坂田さんは割り切っている。

「他の農家さんが当たり前のようにやっている早朝作業を、福祉施設だからできないというのは問題だと思います。A型事業というのは、企業と同じ感覚で取り組まないと成立するはずがありませんから。これからも富山県を代表する作物の生産担い手として、働く意欲のある障がい者の自立に向けた支援を行いながら頑張っていきたいですね」

アルギットにらが全国へと普及すればするほど、ハーベストの事業も拡大していくことだろう。農業でどこまで高い工賃を実現することができるかというテーマに向かい、坂田さんたちの挑戦は続いていく。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人秀愛会(富山県富山市)
http://www.ayumi-toyama.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2016年12月01日)のものです。予めご了承ください。