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社会福祉法人新潟市中央福祉会(新潟県新潟市)

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新潟市中央福祉会の概要

新潟市中央福祉会は、ワークセンター日和山(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、就労センター白山浦(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、ワークセンターふじみ(就労継続支援B型事業)、ワークセンターひがし(就労継続支援B型事業)、ワークセンター大山台(就労継続支援B型事業)、大山台ゆう(生活介護事業)、ワークセンター川端(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業をおこなう社会福祉法人である。

この他にも相談支援センターウィズ(ワークセンター川端内)や、6棟のグループホーム(ハミングベア天神・カルテット天神・コーラス青山・コーラス日和山・コーラスふじみ・コーラス大山台)も運営している。

法人の中でも、もっとも就労に特化した事業所がワークセンター日和山である。主な作業品目は、クリーニング、縫製(クリーニングのお直しや、拭きマウスやポーチ等自主製品の製造)、ウエス、菓子製造(米粉ぷれっつぇるや米粉パウンドケーキ)、各種請負事業等であり、時代の流れと共にその内容を少しずつ変えてきた。少しでも高い工賃を達成するために、トライ&エラーを繰り返した結果、現在の姿に落ち着いたのだという。

ワークセンター日和山の建物外観
縫製部門のヒット商品「拭きマウス」

約8割の売上を誇るクリーニング事業

ワークセンター日和山の事業売上のうち、圧倒的な割合を誇るのはクリーニングだ。大橋道子施設長は、具体的な事業の内容を次のように語っている。

「私たちがおこなっているのは、主にホテルや医療機関、高齢者施設のタオルやシーツのクリーニングです。地元の備品レンタル会社やクリーニング店と提携して、多くの仕事を回していただいています。クリーニング事業が始まったのは、施設がまだ無認可作業所だった1994年からでした。当時は小さな洗濯機1台しかありませんでしたが、売上が伸びるにつれて本格的な機械を導入し、少しずつ事業を拡大していったのです」

現在では、35kgと50kgの業務用自動水洗脱水機が2台ずつ、35kgの業務用乾燥機が2台、50kgの業務用乾燥機が1台、ロール仕上げ機1台、プレス機2台という、本格的なクリーニング設備が整っている。

「作業所時代の名残もあり、これまでに染め物や機織り、箱折り、DM封入とありとあらゆる作業をおこなってきました。転機となったのは、2011年に新体系に移行したときですね。そこで明確に事業所の運営を生活支援(生活介護)と就労支援(就労継続支援B型)に分け、B型事業に関してはできる限り高い工賃を払えるような方針にシフトしたのです。今やクリーニングは、ワークセンター日和山を代表する事業。今後もますます人の配置を、この部門に集中させていこうと考えています」と、大橋施設長。

私物乾燥機の導入により、作業が大幅に効率化

少しずつ売上を伸ばしてきたワークセンター日和山のクリーニング事業が、一気に飛躍したのが2014年に私物クリーニング専用の乾燥機ムーンサルトを導入してからのことだった。クリーニング事業のチーフ、吉川大幹さんはその経緯を次のように説明する。

「ここ数年、医療機関やホテルよりも、高齢者施設からの仕事が増えつづけていました。しかし高齢者施設の仕事のメインとなるのは、入居者たちの私物クリーニング。これは本当に手間がかかる仕事です。洗濯ネットでお客様ごとに分けられた衣類を洗った後、乾燥するときはネットから取り出さないといけません。ネットのまま乾燥させるとシワができるし、時間もかかってしまうのです。この時、大変なのが個人ごとの仕分け作業。一枚一枚名前が書かれた洗濯物と、事前に作成したリストとつきあわせる必要があり、とても神経を使いました。靴下の片方だけ見つからないようなトラブルが発生すると、確認作業に膨大な時間を取られます。こうした仕分け作業が軽減できれば、私物クリーニングの仕事をもっと積極的に受注して売上拡大につなげられるはずなのに……と、いつも悩んでいました」

そこで目をつけたのが、提携クリーニング工場で紹介された私物クリーニング専用乾燥機ムーンサルトだった。一台500万円もする設備だが、一度に3名分の私物クリーニングを別々に乾燥することのできる優れものである。使い方は、コインロッカーのような窓の中に衣類を入れるだけ。約8分で1人分の衣類をあっという間に乾燥してしまう。しかも低温ハイスピード乾燥のため、衣類にシワもつきにくい。この夢のような機械を、工賃大幅アップを前提とするヤマト財団の障がい者給料増額助成金「ジャンプアップ助成金」に応募し、みごとに採択されたのである。導入したムーンサルトによる効果はすさまじく、約3倍もの作業効率の向上を果たした。現在は1時間で15〜17名分の洗濯物を処理できるようになっている。

「作業効率が上がった結果、売上は月商約200万円から約300万円に上昇しました。施設全体の平均月額工賃も、約25,000円から38,000円へと跳ね上がっています。B型事業であるクリーニング部門だけを見れば、現在の平均工賃は約52,900円。以前は夢のようだった数字が、ついに実現できました。一台の機械の導入によって、こんなにも事業を拡大することができる。設備投資というのは、本当に重要ですね」と、大橋施設長。

高まる職員たちの工賃向上への意識改革

もちろんワークセンター日和山における工賃アップの取り組みは、新型乾燥機を導入する前からも着々と進められてきた。2007年に工賃向上5ヵ年計画を作り上げる際、職員の意識改革を徹底しておこない、経済的自立こそ利用者支援の最たるものとすべきという考えを徹底させたのである。余暇活動の時間も大幅に減らし、中心事業となるクリーニングで売上を伸ばすためにはどうしたらいいのかをメンバー全員で考えてきた。職員の意識改革、現場の環境整備、そして利用者へのアプローチ。これらを三位一体と捉えて工賃アップの取り組みを進めてきたのである。

吉川さんは、クリーニング事業で一番大切なことは「機械の稼働率をどうやって上げるかに尽きます」と力説する。そこで行き着いたのが、労働時間を三交代制にすること。利用者の働く時間を早番8:00〜15:00、普通番9:00〜16:00、遅番10:00〜17:00とし、昼食休憩の時間もずらすことによってつねに7:30〜18:00の間は洗濯機が回っている状況を作り出した。

「土曜・祝日も、工場は休みません。もちろん、お盆もゴールデンウィークも年末もフル稼働。完全にストップするのは、日曜日以外は正月の2日間だけですね。クリーニング事業で働く利用者の数は、現在26名。休みの日に出勤したり、残業をこなしていけば、その分工賃はアップします。一生懸命働けば、その分見返りがあるという明確な工賃システムを採用したことで、彼らのモチベーションが大幅に上がりました。県内には高齢者施設がどんどん増えているので、今後も私物クリーニングの需要は高まっていくはず。もっと高い目標の実現に向けて、全員で努力していきたいですね」と、大橋施設長。

ワークセンター日和山がここ数年で大幅な工賃アップを達成した直接の要因は、私物クリーニング専用乾燥機ムーンサルトの導入であることは間違いない。しかしいくら高額な機械を設置しても、売上が自動的に上がるわけではないだろう。大切なのはやはりそこで働く一人ひとりの意識を変えることに尽きる。職員が変われば、利用者も変わる。そこに的確な設備が導入されたからこそ、このような成功事例が生み出されたわけである。しかし現状の数値にはまだ満足することなく、ワークセンター日和山の職員たちは次なるステップを夢見ている。彼らの今後の活躍が楽しみである。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人新潟市中央福祉会(新潟県新潟市)
http://www.n-chuuoh-fukushi.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2017年01月01日)のものです。予めご了承ください。