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社会福祉法人鴻沼福祉会(埼玉県さいたま市)

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鴻沼福祉会の概要

鴻沼福祉会は、つばさ共同作業所(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、あざみ共同作業所(生活介護事業)、そめや共同作業所(就労継続支援B型事業)、きりしき共同作業所(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業を行う社会福祉法人である。この他にも、コープみらいからの委託運営によるさいたま障害者労働センターや、7棟の生活ホームや1棟のグループホーム、地域活動センター来夢、中央区障害者生活支援センター来夢、見沼区障害者生活支援センター来人などの運営にも関わっている。

つばさ共同作業所ではとうふの製造、あざみ共同作業所ではパンの製造、そめや共同作業所では弁当の製造と、法人内の事業所が別々の作業を担当しており、お互いに協力関係を築いているのも特色だ。

そめや共同作業所の作業科目は、弁当の他にも、とうふの仕入れ販売、軽作業(水道メーターの分解・使い捨て手袋の箱詰め・おもちゃの袋入れ等)である。徹底して施設利用者主体で事業展開を図ることをモットーとしており、全メンバーが一丸となって働いている姿が印象的である。

地域からの発注が増え始めたお弁当事業

そめや共同作業所の売上の中心を担うのは、お弁当事業だ。この事業を始めたのは、2000年頃からと比較的新しい。その経緯について、サービス管理責任者の星野純代さんは次のように説明する。

「もともと私たちの事業所のメイン作業は、印刷でした。軽オフの印刷機を導入して、冊子やハガキ、名刺印刷などを行っていたのです。けれどもパソコンの普及によってどんどん仕事が減った上、新しい機械に買い換えるにはものすごい投資が必要になります。そこで思い切って印刷事業をやめ、食品などの自主製品づくりに事業転換することにしました」

新しい事業の柱として期待されたのが、弁当事業だった。当初は法人内の事業所の給食用に使ってもらうことからスタート。少しずつ実績を積み重ねることにより、現在の規模(250〜300食:年商1,620万円)にまで達している。

「お客さんは、数カ所の区役所や市民病院や他の福祉施設など。事前に注文していただいたものを配達していきます。1食530円の日替わり弁当が主体ですが、他にも豪華な会議弁当なども用意しています。こちらは予算に合わせた特注弁当で、お客さんの要望によっておかずやご飯も変えていきます。量がある程度まとまれば、土日でも喜んで発注はお受けしていますよ」

基本的に野菜をたっぷり使ったメニューがウリなのだが、若い人が集まる研修会であればボリュームある揚げ物を増やすし、自治会の高齢者の集まりに使う弁当であれば煮物や魚を中心とする。お客さんの予算と要望に合わせてフレキシブルにお弁当の中身は変わっていく。幼稚園の卒園式に使われたお弁当は、桜色に染めたご飯や色とりどりの煮物野菜で構成した。子どもたちの門出に相応しいカラフルな雰囲気が、とても好評だったという。

市内をリヤカーで回る、とうふの引き売り?!

そめや共同作業所のもう一つの事業の柱が、とうふ事業だ。といっても、事業所内で製造は一切せず、同法人のつばさ共同作業所が製造するものを仕入れて販売するというスタイルに徹している。販売するのは、濃い絹ごし、寄せ豆腐、黒ごま絹、厚揚げ、八目がんも、うのはなコロッケなど。この他、宮城県のはらから福祉会から仕入れたはらからとうふ(もめん、油揚げ)、地元埼玉で製造された鶴の子納豆なども扱っている。星野さんは言う。

「とうふ販売はリヤカーを引きながら市内を回っていくという昔ながらの引き売りスタイルです。車椅子の仲間(施設利用者のこと)と職員がセットになって販売しているのですよ。ラッパの音が鳴ると、『とうふ屋いちず(そめや共同作業所のとうふ事業の屋号)がやって来た』と、地域ではすっかりお馴染みになりました。絹ごし豆腐が一丁で350円という高級とうふなのですが、他とは味がぜんぜん違うと固定ファンがついています。一度食べるとやみつきになるらしく、口コミで評判が広まってきました」

リヤカーを引きながら、車椅子の障害者も一緒になって地域でとうふを販売するというのは想像するだけでもユニークな光景だ。暑い日でも寒い日でも、とうふ屋いちずのメンバーたちは必死にラッパを吹いて「とうふはいかがですかー?」と叫んでいく。この販売方式を始めるに当たっては、周回するコース内のほとんどの住宅にチラシを戸別配布し、自らの存在を事前にアピールしておいた。すると、ラッパの音につられて「チラシ見たわよー」と奥様方が家から出てきてくれたのだという。

「とうふを介して、地域の人たちと仲間たちが直接会話できるようになったことが一番の成果かもしれません。お得意様とはすっかり親しくなったので、暑い日にはアイスやジュースをもらうことも多いみたいですよ(笑)。たまに別の担当者が販売に行くと、『あの人はどうしたの?』なんて心配してくれることもあります。その昔、施設が建設される時には反対運動もあったのですが、今ではそれが嘘のよう。すっかり地域に溶け込んでいると感じています」

施設利用者も含めて全員で検討する事業計画

とうふのような賞味期限の短い食品を仕入れ販売するということは、当然ながら売れ残りリスクをつねに抱えることになる。その対策はどうしているのだろうか? 星野さんに聞いて見た。

「やはり大切なのは、発注管理の徹底ですね。お客様のことを一番分かっているのは販売に出ている現場の人間なので、毎日の発注量は彼らに任せるようにしています。自分たちが発注したわけだから、販売にも責任をもてるようになるわけです。季節や天候を予測しながら、売れ残らないようにみんなで議論して、発注量を考えているのですよ。あまり慎重になりすぎても売上が伸びません。発注作業は、バランス感覚が大切ですね。万が一、売れ残ってしまっても大丈夫。同じビルに同居している作業所の職員とかに、必死で営業して買ってもらいますから」と、星野さんは笑う。

すごいのは、このような活動を職員ではなく施設利用者たちが主体となって行っているところだろう。そめや作業所では、事業の中心はすべて彼らであることが徹底されている。そのため、年間の売上計画や、計画に応じた月毎の達成率等々も、全体会議で全員に報告するのが当たり前。計画通りに推移していないと、事業所のピンチである。そんな時には、「この先、どうやって販売数を伸ばしていこうか」とみんなで相談し、次なる動きを実行に移していくのだとか。

「年初に今年の年間工賃をいくらアップすべきかという目標設定も、みんなの意見を参考にします。1,000円上げるには売上をこれだけ伸ばさないと難しいが、500円だったら実現できるのではないか。『なんとか頑張って売上伸ばしていこうよ』なんて、私が言わなくてもみんなからガンガン発言がありますね(笑)。平均月額工賃が32,000円と県内のB型事業所の中では比較的高い方だといっても、工賃が今のままでいいと満足している人は誰もいません。そして工賃を上げるためには、販売活動を頑張らないとダメだとみんなが理解しているのです」

そめや作業所の工賃最低補償額は、現在30,500円に設定されている。施設に毎日通って仕事に励めば、基本的にはすべての利用者にこの工賃を保証するという考えだ。もちろん遅刻・早退・欠席をすればその分カットされるし、逆に弁当班で早出・休日出勤などを担当すれば、もらえる額はアップする。こうした明確な工賃体系になっているからこそ、障がい者たちの仕事へのモチベーションが非常に高いのだろう。

「軽作業の新しい仕事を受注する場合でも、みんなの意見を聞くことは大切ですね。いまやっている仕事に加えて、さらに仕事を増やすことになりますから。『大変だけど頑張ってみる?』と聞くと、『これを早めに終わらせるから、次の仕事をやりましょうよ』と言ってくれるのです。やらされるのではなく自分たちが望んで働くから、仕事が楽しいのだと思います」

弁当やとうふの販売、そして軽作業の受託によって少しでも高い工賃をめざそうと施設全体が1つになってまとまっているそめや共同作業所。一つひとつは決して派手な活動を行っているわけではないのだが、障害者就労支援事業が本来もつべき理念をきちんと押さえ、実行している姿は注目すべき存在であると思う。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人鴻沼福祉会(埼玉県さいたま市)
http://kounuma.org

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2016年11月01日)のものです。予めご了承ください。