特定非営利活動法人日本セルプセンター

お問い合わせ

Reportage

SELP訪問ルポ

社会福祉法人明日へ向かって(福岡県福岡市)

公開日:

明日へ向かっての概要

「明日へ向かって」は、お菓子の店ぷぷる(就労継続支援B型事業)、すくらむアート工房こころの色(生活介護事業・短期入所事業)、菓子工房ぷぷる(就労継続支援B型事業・就労移行支援事業)、くつろぎカフェ オリジナルスマイる(就労移行支援事業)、My self(生活介護事業)、ときめきショップありがた屋(福岡市委託公益事業)等の多岐にわたる障がい者就労・生活支援事業を運営する社会福祉法人である。

この法人の特色は、何種類もの店舗型事業を展開することによって、障がい者一人ひとりに応じた職場づくりを進めているところだろう。昭和59年に無認可共同作業所としてスタートした小さな施設であったが、施設を利用したいというニーズに合わせて拡大・分散していった結果、このようなスタイルに変貌を遂げていった。末松忠弘施設長(41歳)は、運営方針について次のように説明する。

「現在、すべての事業所を合計すると122人の障がい者が参加しています。障害種別や障害程度も本当にさまざまですが、事業所を小グループ化し、可能な限り本人の希望にあわせた環境を整える努力をしてきました。どんなに重い障害を持っていても、働きたいという希望がある限り、その思いに応える努力をするのが私たち支援者の腕の見せ所だと考えています」

ギャラリーを併設した総合的な活動施設Myself
民家を改装した、くつろぎカフェオリジナルスマイる

障がい者がフロアを仕切るくつろぎカフェ

そんな末松施設長の考えが象徴されているのが、くつろぎカフェ オリジナルスマイるである。静かな住宅街の中に佇む隠れ家的な民家カフェであり、平日のランチタイムには毎日満席となるほどの人気ぶりだ。そんな繁盛店で、障がい者メンバーたちがフロア係として第一線で働いている。店長をつとめる熊谷由紀さん自身、ダウン症の障がい者。接客業では難しいと判断されがちなほどコミュニケーション能力は低いのだが、この店のフロアを見事に仕切っている。彼女を店長に抜擢した理由について、末松施設長は次のように語る。

「もともと彼女は法人内の別の施設(菓子製造工場)で働いていて、あまり目立たない存在でした。ところがこのカフェに移動してから、その潜在能力が一挙に開花。いつの間にか店の中心人物になったのです。彼女の素晴らしい点は、状況をとっさに判断する能力でしょう。お客さんの動きにあわせてどのようなサービスを提供するかとか、店内が混雑したときの対応にとても優れています。最近は、指示されないと動けない人が増えてきましたが、彼女はそれとは正反対。いざという時に体が自然と動く能力は、天性のものだと思います」

彼女たちがフロア係として活躍できるように、この店では独特のオーダー方式が採用されている。なんと、お客自ら注文票と赤ペンで希望するメニューを書き込むようになっているのだ。初めて来店する人の中には驚く人もいるというが、何しろ相手はいつも人なつこい笑みを満面に浮かべているフロア係たち。マニュアルに沿った接客用語など操れないが、お客さんを心からもてなす気持ちにあふれている。独特のオーダー方式も、今やすっかり来店者にはお馴染みになっているという。

店長の熊谷由紀さんは、人なつこい笑顔が魅力
利用者たちの可能性を広げた、魔法の3点キット

「もしかしたらこのオーダー方式が違和感なくお客さんに受け入れられたのは、福岡県内の有名なチェーン店『牧のうどん』の影響かもしれません。お客さんが自分で注文を書き込んで店員さんに渡すシステムは、あの店の代名詞。福岡の人たちにとっては、意外と慣れ親しんだ注文スタイルなのですよ」と、末松施設長。このようなちょっとしたアイデアが、障がい者の可能性を大きく膨らませた。「メニューと注文票とボールペンが、魔法の3点キット」という柔軟な発想こそが、施設全体の支援のあり方を象徴しているのである。

「如水庵」の全面協力で生まれた、「はかたサブレ はつこい」

末松施設長のこうした発想は、もちろん就労面にも及んでいる。中軽度の障がい者の所得保障をいかに高いものにしていくかは法人としても重要なテーマ。そのため菓子工場拡張を進め、メイン商品であるパウンドケーキの大幅な製造量拡大を実現させてきた。現在の「菓子工房ぷぷる」(就労継続支援B型事業)における平均工賃は約30,000円であり、近いうちにこの数字を34,000円まで引き上げるのを目標としている。

さらに2012年2月には老舗和菓子店「如水庵」の技術協力を仰ぎ、福岡市内5施設による共同オリジナル製品「はかたサブレ はつこい」の開発に成功した。共同生産を前提として開発された製品だけに、1日で最大2,000パックの製造が可能であり、これまでにない規模の商談が生まれる可能性を秘めている。末松施設長は、共同生産事業の重要性を熱く語っている。

「今後より大きな売上を達成するためには、1施設だけの努力では限界があります。近隣施設が協力しあって、共同で生産体制を組めるようにする必要があると思うのです。今回の共同事業は、そんな理想への第一歩。幸いにも、『如水庵』の森社長が私の考えに賛同してくださり、福岡市内の障がい者のためになるならばと、全面的な協力を申し出てくれました」

如水庵からアドバイザーとして派遣されてきたのは、研究開発部統括部長の栁賢祐(やなぎけんすけ)さんである。日頃から老舗和菓子店の製品開発の総責任を担っている、今回のプロジェクトにはまさにうってつけの人物だ。当初は参加施設が会議のたびにそれぞれ考えた試作品を持ち寄り、講師に品評してもらうという形式からスタートしたという。当時の印象を、栁さんに伺ってみた。

「障がい者施設で作られる製品のイメージは、まだまだ市場レベルにはほど遠いと言われていますが、私にはどのアイデアも新鮮に感じられました。というのも、私たちが仕事で開発している製品とはまったく正反対のモノばかり。機械では絶対に作れない手作り感が、かえって面白いと考えたからです」

栁さんのアドバイスによって、新製品の方向性は徹底的に手作り感にこだわることに決定した。よくありそうで意外とない、希少性のある製品。しかもどの施設でも作りやすく、子どもでも大人でも食べやすい製品でなくてはならない。非常に難しいテーマであったが、「ハードルは高い方が燃える」という栁さんの職人気質に火が付いて、1年間にわたる試行錯誤の上で誕生したのが「はかたサブレ はつこい」なのである。

サブレというと一般的にはサクサクとした固めのクッキーを想像するだろう。しかしこの商品は、食べた瞬間にほろほろと崩れるような柔らかい食感が特色となっている。まさにその名の通り、初恋のような繊細な味。さらに小麦粉アレルギーの子どもでも安心して食べられるように、国産の米粉を使用した。甘さも控えめに作られているため、一個口に入れるとクセになり、やみつきになってしまう美味しさだ。

すべての参加施設を訪れて、具体的な作業手順を指導する!

複数施設で食品の共同生産をおこなう場合、もっとも難しいのが品質を均一に保つことだと言われている。何しろ施設によって技術者のレベルがまちまちだし、機材にも大きな格差があるのが現実なのだ。その点を考慮して、「はかたサブレ はつこい」の製造にあたっては、技術指導の終了後、栁さん自らが直接各施設を訪れて現場に合わせた調整法を伝授している。

「いくら会議で習ってきても、施設に戻ったらそれぞれの機材はバラバラです。オーブンひとつとっても、ワット数も違えば大きさもまったく違う。習ったとおりの時間で焼き上げても、上手くいかないことが多いのは仕方ないと思います。そのため私が現場に行ってそれぞれの状況を確認することが、製品の品質を保つ上でとても大切だと思いました」

と、栁さん。サブレの焼き色のサンプルを5種類ほど作り、どこまでが許容範囲で、どこからがダメなのかを一目で分かるような見本表も作成。製品の統一化を図る手助けとした。基本生地を生クリームのように鉄板に絞り出す目安についても、自助具としてのベース版を用意。障がい者メンバーにも優しい作業手順が工夫されている。

木村菜月さん(左)と、栁賢祐さん(右)
ベースに沿って丁寧に生地を絞り出していく

「生地を均一の太さや長さに絞り出すことは熟練が必要な作業なのですが、栁さんが考えてくださったベース版のおかげで職員以外でも関われるようになりました。これまでに何千個も絞り出しているので、今では職員よりも上手に絞り出せる障がい者メンバーがいるくらいです(笑)。この作業はサブレ作りの花型なので、みんなが競ってやりたがるのですよ」

と、菓子工房ぷぷるの現場リーダー・木村菜月さん。最初はおそるおそる絞り出していた作業の様子が、だんだんと自信を持ってくる姿を見るのが嬉しいという。栁さんによると、「何千個、何万個も同じ作業を繰り返していけば、絶対に誰でも上手になります。ヘンに器用な人よりも、不器用だけど真面目に繰り返していく人の方が職人としての腕の伸びしろはあるのです」とのこと。「はかたサブレ はつこい」が売れれば売れるほど、障がい者の菓子職人たちの腕は磨かれて、彼らの働く姿に輝きが増していくことだろう。

福岡空港でも販売されている「はかたサブレ はつこい」

「はかたサブレ はつこい」は、現在福岡空港1階のSORAショップでも販売されている。空港限定の紅茶バージョンだ。今後の販売アイデアについて、末松施設長は語る。

「開発した1年目は地元メディアに大々的に紹介されたこともあり、10,000個以上売れるヒット商品になりましたが、最近は少し落ち着いてしまった感があります。せっかく福岡空港に置かせてもらうようになったのですから、福岡を代表するお土産になるような販売戦略を立て直さないといけませんね。めざすは博多土産人気ナンバーワンの『博多通りもん』ですよ(笑)。」

そのためにはさらなる製品バージョンアップが不可欠であり、パッケージの改良や味のバリエーション開発など、今後も如水庵の協力を得ながら積極的に仕掛けていく計画だ。取材中にもさっそく、新しい味のサブレについてのアイデアが飛び交い、お土産としてより適している包装についての具体案も栁さんから提示されていた。

共同受注・共同生産については、日本セルプセンターをはじめとして全国の都道府県セルプセンターでもようやく実践例が生まれるようになってきた。一つの施設で生産できる数は限られているが、共同で同じものを作るというシステムが確立さえできれば、末松施設長が語っているようにその可能性は無限ともいえる。地域の施設と企業が連動して大きなムーブメントを起こそうという試みに拍手を送り、今後のさらなる発展に期待したいと思う。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人明日へ向かって(福岡県福岡市)
ワークショップたちばな:http://www.w-tachibana.org/

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2014年07月01日)のものです。予めご了承ください。