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社会福祉法人つむぎ(栃木県小山市)

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つむぎの概要

つむぎは、くわの実(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、第2くわの実(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)の2つの障がい者就労支援事業所を運営する社会福祉法人である。

法人が設立されたのは、2002年のこと。当時は小山市内には小さな作業所しかなかったため、障がい者(児)をもつ親たちが地域で幅広く病院・クリニックや介護施設を展開する医療法人星野会に、本格的な障がい者就労支援施設の運営を熱望したのだという。

そんな経緯から誕生しただけに、くわの実、第2くわの実(以下、くわの実)では地域との連携を第1に掲げ、「元気で、楽しく、力をあわせて、みんなで働く!」をモットーにした施設運営を心がけてきた。

中心となる作業(B型・就労移行)は、パンや焼き菓子の製造販売である。施設に併設されたベーカリーショップを拠点として、毎日さまざまなところに販売に出かけている。10月〜11月の秋のイベントシーズンには、土日はもちろんすべて埋まり、スタッフ総出で分担し、1日に10カ所も出店することもあるという。その結果、焼きたての美味しいパンを売る障がい者の施設として、「くわの実」の名前はすっかり多くの地域住民に親しまれるようになった。

利用者の販売チームが大活躍

くわの実では、パンや焼き菓子を売るために積極的に地域に出かけている。顧客先としては、官公庁(小山市役所や小山市健康保健センター)、各種企業、市内の小中学校や保育所等である。お昼時間のみの臨時出店、注文されたパンの配達、給食やおやつパンの配達等、取引先によって営業方法は分かれるが、1日に約10カ所ほどの販売ルートが確立されている。松岡純央施設長(45歳)は、次のように説明する。

「販売車は4台あり、それぞれ利用者と職員がチームとなって出かけます。販売担当の利用者は、お客さんと接するのがメインの仕事。出張販売でも、職員以上に元気な声を出して張り切っています。顧客別の担当制としているので、すっかりお客さんとは親しくなりました。たまに休んだりすると、『あの元気な利用者さんは、今日はいないの?』と、寂しがられます。職員だけの時など、明らかに売上が下がってしまうほどです(笑)

利用者の販売チームでも、エースと称されるのが橋本真弘さんだ。お金の計算は苦手なのだが、セールストークが抜群に上手い。「こんにちわー」という明るい呼びかけはもちろん、女性のお客さんには調子よく「お姉さん、綺麗ですねー」などと愛想まで振りまいていく。声をかけられた人は笑いながら寄ってきて、思わず買わずにはいられない。

他にも笑顔が最高に可愛い金子幸恵さん、背がすらりと高いイケメンのハーフの橋本晃さんなど、くわの実の販売スタッフは個性豊かなメンバーばかりが揃っている。彼らが毎日地域に出かけて明るい笑顔を振りまくから、くわの実の名前は着実に住民たちに広まっているのである。

利用者の個性を活かした支援で生産力アップ

このようにくわの実では、利用者の個性を活かした支援、仕事分担を積極的に取り入れてきた。

「障がい者の就労支援施設でもっとも大切なのは、利用者の個性を見極めて、一人ひとりに適した仕事を探すことだと思います。販売チームのエースの橋本さんは、その最たる例でしょう。生産現場ではほとんど目立たない存在だったのですが、販売に出してみたらその才能が一挙に開花しました。計算なんかできなくても、トーク力だけで立派な戦力になります。常識にとらわれない発想で、職員は利用者の能力を見極めるようにしています」と、松岡さん。

生産現場にも、特別な能力を見いだされて大活躍している利用者がいる。パン生地の中に餡を詰め、同じ大きさに丸める作業を得意とする菓子パン職人の渡辺昌一さん。重度の障がいがあるにもかかわらず、厨房に入ると様子が一変し、オールマイティでさまざまな仕事に対応できる冨樫清孝さん。新開淳一さんに至っては、「準指導員」という格付けが与えられた。すると苦手としていた衛生管理(ツメや頭髪等)への意識が一挙に変わり、いまではすっかり利用者たちのリーダーとして頼られる存在になっているらしい。松岡さんは言う。

「新開さんはもともと作業能力は高かったのですが、少しでも注意すると落ち込んでしまうところが問題でした。準指導員という肩書きはとても気に入ったみたいです。自覚が生まれると、こんなにも人は変わるものだと私たちもビックリしています」

個性を活かした支援がピタリとはまっていけば、生産力も販売力もどんどん上がっていく。工賃も上昇するのは、当然だろう。現在のくわの実の月額平均工賃は、38,000円(くわの実)、25,000円(第2くわの実)となっている。

地域の動きと連動したさまざまな製品づくり

くわの実では小山市が進める「桑の実プロジェクト」にも参加し、特産品である桑を使った新製品開発にも取り組んできた(現在このプロジェクトは、小山市地域再生計画の中に統合された)。これは、本場結城紬がユネスコ無形文化遺産に登録されたのをきっかけとしてスタートした、官民協働によるプロジェクトである。市内の事業者たちが競い合って、独自の桑ブランド商品を産み出している。

くわの実で開発したさまざまな試作品の中から、製品として定着したのはマルベリーラスクとマルベリーシフォンである。桑の実ジャムをたっぷり練り込んで焼き上げたマルベリーパンから誕生するラスクはとくに注目の商品で、カリッとしたラスクとしっとりしたジャムのハーモニーが斬新な味わいだ。お土産品として、道の駅思川に続いてVAL小山駅ビルでの取り扱いも決まるなど、今後の発展が期待されている。桑パウダーを練り込んだシフォンケーキも、そのしっとり感に固定ファンが多いという。

「私たちは、小山ブランドの公認キャラクターである『開運★おやまくま』のパンも作るなど、市の動きと連動した製品づくりには力を入れています。イベント販売でも、こういう地域商品の人気は高いですね。くわの実だけが製造許可をもらった『おやまくまパン』は、いつも完売してしまいます。あまり大量生産できないのがザンネンですが、ファンからはとても注目されているんですよ」と、第2くわの実の星野香織施設長(43歳)は嬉しそうに語っている。

「元気で、楽しく、働く」くわの実の利用者たちの笑顔とともに、今日も焼きたての美味しいパンやクッキーが、地域の人たちのもとに届けられていることだろう。製品を販売する彼らの元気な掛け声は、施設の存在を多くの人たちにアピールする大きなチカラとなっている。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

ベーカリくわの実(栃木県小山市)
http://bakery-kuwanomi.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年10月01日)のものです。予めご了承ください。