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社会福祉法人希望の家(栃木県鹿沼市)

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希望の家の概要

希望の家は、武子希望の家(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、日向希望の家(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、鹿沼ハウス(入所支援事業・生活介護事業・短期入所支援事業)、さつきハウス(入所支援事業・生活介護事業・短期入所支援事業)、SEED(指定生活介護事業)、Young Leaves(やんぐりーぶす:障害児日中一時支援事業)、PLOW(ぷらう:鹿沼市障がい者就労支援センター)、フィールド(県西圏域障害者就業・生活支援センター)、きぼう(計画相談センター)、市内14カ所のグループホーム等を運営する社会福祉法人である。

法人の設立は、1973年。ソニー株式会社の創設者としても有名な井深大氏によって知的障害者授産施設・鹿沼希望の家が開設された。知的障害のある人たちが安心して暮らせるだけでなく、生き生きと仕事をしてもらいたい。そんな発想のもと、規模を少しずつ拡大していった。現在では1万坪の広大な土地の中に、日向希望の家(鹿沼市酒野谷)とグループホーム(鹿沼市内各所)以外のすべての事業所が建ち並ぶ、1つの村のようになっている。武子地区だけでも、約220名の利用者たちが集まっている「愛と緑のクリエイティブホーム」なのである。

企業との連携で進めるユニークな事業

希望の家では、さまざまな事業が展開されている。特徴の一つは、企業との連携による特殊な仕事を行っているところだろう。たとえば、ユニットバスの断熱材の加工作業だ。大手メーカーのユニットバスの基本部品加工を、ダイナミックに展開している。武子希望の家の黒川亨管理者(59歳)は、次のように説明する。

「もともと希望の家では、創設当時からソニーのスピーカー木枠の組立の仕事を請け負っていました。鹿沼地区が木材の産地であることから、初代理事長(井深大氏)の発案によって、本格的なライン工場を建設したのです。けれども次第に、電化製品の組立そのものが海外に移転し、仕事がまったくなくなってしまいました。ぽっかり空いた跡地の再活用を探っていたところ、運良く新しい取引先と出会うことができ、この仕事が始まったのです。現在は38名の利用者が関わり、月産1万台を超える事業に成長しています」

これより規模は少し小さくなるが、ボンド(接着剤)の充填という仕事もある。プラモデル製造が子どもたちの間で流行っていた時代は、いくら作っても追いつかないほどの需要があった。今ではほとんどが業務用であり、海外に輸出するものがほとんどだという。

ビデオテープの解体作業というのも、ソニーとの関連が深い希望の家ならではの仕事といえる。テレビ局で使われている業務用ビデオテープが、10トントラックで定期的に運ばれてきて、その解体作業を請け負っているのだ。その量たるや、膨大なものである。希望の家でも解体作業そのものは、県内3カ所の他の障害者施設に振り分けながら行っている。関東近郊でありながら、これだけの廃棄ビデオを集約できる拠点であることが、希望の家の最大のメリット。多くの企業から業務パートナーとして注目される所以だろう。

広大な敷地を活かした農業も展開

希望の家のもう一つの事業展開は、農業部門である。法人の敷地だけでも広大だが、さらにその周りには5,000坪の山林や、2,000坪の耕作放棄地(地主から無料で提供されている土地)がある。これらの土地を活かして、椎茸栽培、花卉栽培、野菜(里芋や自然薯)栽培などが展開されている。椎茸の原木が森の中に5万本も並ぶ光景は、壮観の一言だ。

「これでも一時期の半分ほどなのですけどね。福島第一原子力発電所事故の後、放射能被害に遭って10万本の原木をやむなく廃棄しました。ようやく数年かかって、ここまで再建したのです。原木を森の中に並べたり、時期が来るとビニールハウスの中に移動するのも、すべて利用者たちが主体的に行います。自然の中で体を動かすことが好きな人たちには、とても適した仕事ですね」と、黒川管理者。

大量に収穫できる椎茸は、東京の大田青果市場を初めとしてさまざまな取引先に毎日トラックで出荷されていく。ビニールハウスで栽培している花卉プランターも、近隣工業団地や役所の玄関などとリース契約を結び、定期的に植え替えを行っている。このように長い間続けてきた農業への取り組みは、近年「農福連携」というプラットフォームが推奨されるに従って、行政からも注目されてきた。高齢化によって人手不足にあえぐ近隣農家の手伝いを依頼されるケースが増えてきたという。黒川管理者は、期待を込めて言う。

「今年度初めて、栃木県セルプセンターの仲介で農家と正式な契約を結んだ仕事の受注が実現しました。畑の除草作業などが中心です。農福連携は注目のテーマですから、これからもこの種の仕事は増えていきそうです」

仕事依頼が殺到。課題は人手の確保をどうするか

希望の家では、この他にもパンや焼き菓子の製造販売(kiboulabブランドによる商品展開)、箱折り作業、清掃事業(施設内)、軽作業(園芸用土袋詰め・香典返しセット)、木工作業など、多種多様な事業が展開されている。多くの企業との関係が深いこともあり、各方面から次々に新しい相談が寄せられてきた結果でもある。パチンコ台の解体(電子部品の解体)作業などは、最近請け負い始めた大きな仕事だ。パチンコ台というのは次々と入れ替わるため、途切れることなく定期的に発注されてくる。今後さらに受注拡大が期待できる新事業である。

前出したユニットバス断熱材の加工作業も、提携企業からはさらに大きな計画を打診されているのだという。現在行っているのは最終組立加工なのだが、前工程である断熱材(発泡スチロール)そのものの製造機械を、企業から施設に移管するという大計画である。もしこれが実現すると、一般的な「企業内就労」ではなく、施設の中に企業の製造工場を作るという逆転の発想になる。今後の希望の家の事業にとって、大きな転換点となるかもしれない。

もちろん、課題はある。井深亮理事長(82歳)は、次のように語っている。

「当法人は、創設者である故・井深大氏の理念を忠実に守りながら、拡大を続けてきました。重度の障がい者であっても可能な限り受け入れ、一人ひとりに合った多様な仕事を生み出してきたのです。しかし設立から45年経った今では、初期メンバーの中には80歳を超える方がいるのも事実。高齢化への対応が、大きな課題だと考えています」

そのためにも黒川管理者を初めとするスタッフは、これからの施設運営のあり方を必死に探っている。障害のある人たちにとってまさに理想郷のような「愛と緑のクリエイティブホーム」が、これからも継続発展することを大いに期待したいと思う。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人希望の家(栃木県鹿沼市)
http://www.kibo.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年09月01日)のものです。予めご了承ください。