Reportage
SELP訪問ルポ
特定非営利活動法人障害者自立支援センター多摩(東京都多摩市)
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障害者自立支援センター多摩の概要
障害者自立支援センター多摩は、ワークセンターれすと(就労継続支援B型事業所)とワークス多摩(就労継続支援B型事業所)の2つの障がい者就労支援事業所を運営するNPO法人である。作業内容としては、菓子製造、豆腐製造、喫茶業務、うどん店運営を中心として、軽作業、清掃作業など幅広い業務を展開する。
法人の前身となるのは、精神疾患のある方を対象として1989年に設立された無認可作業所「共同作業所れすと」だった。軽作業、手芸品、菓子製造とさまざまな仕事を手がけながら、1997年には多摩市の複合施設(図書館・公民館)ベルブ永山内の喫茶店運営を受託できることになり、自主製品を販売する常設コーナーを併設した。2006年に法人化された後、「ワークセンターれすと」と改称し、2012年には永山地区に住む障がいのある人たちのための働く場として、「ワークス多摩」も開所している。
現在では法人全体として、カフェれすと なな、カフェれすと もも(共にワークセンターれすとの分場)、喫茶れすと、豆富工房れすと、うどん店・庵れすと(以上、ワークス多摩の分場)と、2事業所、6カ所の分場を運営している。
和田地区の菓子工房で一括製造する焼き菓子・ケーキ等の味にはとくに定評があり、各地で展開する店舗がショールームの役割も果たして各種自主製品の売り上げ拡大にもつながっている。多摩市においては「れすと」の名は1つのブランドとして認知されているのである。
日本アニメと提携したキャラクタークッキー
さまざまな人気商品を作りだしている中でも、ユニークなのが日本アニメーション株式会社(以下、日本アニメ)とコラボしたアニメのキャラクタークッキーだろう。同社が多摩市内(和田地区)にあることから、行政(経済観光課)の仲介によって実現した企画だ。日本アニメが著作権ライセンスを保持している「あらいぐまラスカル」「赤毛のアン」「フランダースの犬」「トムソーヤの冒険」等のキャラクターデータを提供してもらい、プリントクッキーを製造販売しているのだ。管理者の北山文子さんは、次のように語っている。
「大人気アニメのキャラクターを使ってクッキーが作れるのですから、本当に恵まれていると思います。多摩市にはサンリオピューロランドがあり、多摩センター地区のマンホールデザインにキティちゃんを採用したことで有名になりましたが、聖蹟桜ヶ丘地区ではラスカルのマンホールが登場しています。そこで日本アニメさんからマンホールデザインのデータも提供してもらい、ラスカルマンホールクッキーも作っています。食べるのがもったいないくらいに可愛いと、ラスカルファンの間では大人気なんですよ」
「あらいぐまラスカル」というのは、1977年に放映された子ども向けアニメだが、いまだにその人気は衰えていないという。ラスカルの公式サイトがあり、さまざまなキャラクターグッズが作られているのはもちろん、LINEの公式アカウントまで作られている。そんな人気にあやかろうと、行政も「ラスカルに会える街、多摩」としてラスカルマンホールを観光の目玉にし、聖蹟桜ヶ丘で開催するKAOFESにも、ラスカルの着ぐるみが登場する。
「もちろん私たちも、このイベントに参加します。各地からたくさんのお客さんがいらっしゃるので、れすとの焼き菓子は1日で10万円以上売れますが、中でもラスカルマンホールクッキーの人気は圧倒的です。クッキーは経済観光課が配布しているパンフレットにも紹介されていますから、普段でも電話で注文してくださる方がいるのですよ」と、生活支援員主任の白石典子さんも嬉しそうだ。
全国からも注目される図書館内にオープンした、カフェれすと もも
ワークセンターれすとでは、2023年7月から多摩中央公園内に建設された多摩市立中央図書館の2階の軽飲食スペースに、「カフェれすと もも」をオープンしている。緑溢れる多摩中央公園とレンガ坂に調和する外観で、1階は落ち着いた書庫、2階は広場を意識した開放的スペースという、非常に贅沢な作りの図書館である。ゆったりと読書を楽しめる空間であることはもちろん、グループ研究室、活動室、無線LANも使える学習室等…、最新の設備にあふれている。ここでトークショーを開催した人気作家の辻村深月氏から「この図書館で暮らしたい!」と言わしめるほどの理想的な施設の中にある喫茶スペースを、いかにして福祉事業所であるワークセンターれすとが受託できたのだろうか? その理由について、北山さんは次のように語ってくれた。
「これまでも私たちは公共施設(公民館)内にある2つの喫茶店(喫茶れすと、カフェれすと なな)を運営してきましたが、今回の入札は民間企業も含めた完全なプロポーザル方式でした。有名なフランチャイズ店も参加する中で私たちが選ばれたのは、25年間着実に積み上げてきた実績に尽きると思います。市内各地で飲食業を展開しているので、お客さんの顔をより理解していると判断してくれたのでしょう。大手チェーン店と違って、ニーズに合ったメニューを臨機応変に提供できるのも強みですから」
北山さんが誇らしく語るとおり、カフェのメニューはどれも凝ったものばかりだ。朝に焼いたパンと温かいスープのセット(300円)、漬け物スープと小鉢付きのおむすびセット(600円)、アイスクリーム付きパンケーキ(500円)、野菜の小鉢付きカレーライス(600円)等々。コーヒーはその場で豆を挽いてドリップする本格的なものだし、スイーツ類は菓子工房から毎日直送される人気のラインアップばかり。
「スイーツは、季節ごとに新鮮なフルーツをたっぷり使ったものを随時提供しています。最近では、神戸スウィーツ・コンソーシアムのチャレンジド・プログラムでノリエットの永井紀之シェフに指導してもらったレーズンバターサンドが大人気なんですよ」と、生活支援員の萩原由美子さんは満足げだ。
品質への徹底的なこだわりが、れすとのプライド
多摩市図書館の開館がちょうど夏休みに重なったこともあり、サンリオピューロランドの来場者が帰りに立ち寄るなど地域住民以外の観光客も殺到し、カフェれすと ももの売上は予想以上の順調なスタートを切った。土日に至っては店内に座りきれないほどの混雑となり、テラスの椅子を持ち込んだこともあったという。
人気なのは、カフェレスト ももだけではない。カフェレスト ななが営業している関戸公民館は、聖蹟桜ヶ丘駅前にあるヴィータ・コミューネという複合ビルの7階にある。多目的ホール、集会室、和室、茶室、創作室、保育室、音響スタジオ、ギャラリーまで揃っているため、地域の人たちは各種サークルなどの活動場所として、公民館を日常的に使っている。
「図書館のお客さんは個人が多いですが、公民館を利用される方はサークルなどの団体がほとんど。ですから、喫茶店を利用されたお客さんが記念品などを発注してくださるケースも増えています。イベント名などを名入れしたプリントクッキーの受注にもつながっています。年末のクリスマス時期は、ホールケーキの注文が大量に寄せられて大忙しですね。どんなに忙しくなっても、冷凍保存せずにその日に作ったものを提供するのが私たちのこだわりです。喫茶店で提供したケーキの味に感激してくれたお客さんが、ホールケーキも注文してくれるようになっています。おかげさまでクリスマス時期には、100〜120ホールの予約注文をいただき、現場は大忙しです」と、白石さん。
最後に、今後の方針について北山さんに伺ってみた。
「1つの仕事を着実にこなし、地域の人たちに美味しい食事やスイーツを提供するという方針を貫きながら、実績を積み重ねてきました。その結果、さまざまな人との出会いがあって、廃校跡の市民スペースや公園の公衆トイレの清掃受託等々、行政からも新しい仕事を任せていただけるようになっています。高齢化も進み、知的障がいがある方の受け入れも増えていくなど、事業所の方向性は設立当初とは変わりつつありますが、一人ひとりの障がい特性に応じた仕事を探していくという基本は同じです。利用者の皆さんが、将来も安心して暮らせる住まいについての検討も行っていきたいですね」
さまざまな障がいのある人たちに、「その人が望む働き方」と「その人らしく生きられる場所」を提供し続けるために、ワークセンターれすとでは今後も変わらず品質に徹底的にこだわった商品やサービスを提供し続けていくことだろう。
(写真、文:戸原一男/Kプランニング)
【ワークセンターれすと】
https://resuto-tamacity.org
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年09月25日)のものです。予めご了承ください。