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特定非営利活動法人せいらん福祉会(京都府京都市)

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特定非営利活動法人せいらん福祉会(京都府京都市)

せいらん福祉会の概要

 せいらん福祉会は、ワークハウスせいらん(就労継続支援B型事業所)、クリエイターズ リンデン(就労継続支援B型事業所)の2つの障がい者就労支援事業所を運営するNPO法人である。
 法人の原点となったのは2001年に開設された無認可小規模作業所ワークハウスせいらんだった。2008年にNPO法人格を取得して就労継続支援B型事業所ワークハウスせいらんとなり、2021年にはNPO法人リンデン福祉会を吸収合併し、就労継続支援B型事業所クリエイターズ リンデンが誕生した。
 それぞれの事業所の作業種目は、縫製作業、各種キーホルダー製作、オリジナルトートバッグ製作(ワークハウスせいらん)、シルクスクリーンを中心としたプリント業務、お菓子の梱包・箱折り・Tシャツ畳み等の下請け作業(クリエイターズ リンデン)となっている。
 クリエイターズ リンデンはコロナ禍まっただ中にリニューアルオープンした(前法人から職員以外の利用者・事業内容等をそのまま引継)事業所であるにもかかわらず、エネルギッシュな施設長を中心とした職員たちが、短期間のうちに事業基盤を固めて新たな時代に向けた取り組みを着実に進めている。

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時代の流れに逆行し、シルクスクリーン印刷に特化

 クリエイターズ リンデン(以下、リンデン)の主な作業は、シルクスクリーン印刷(以下、シルク印刷)である。シルク版を作り、インクで1枚ずつシャツなどの生地に1枚ずつプリントしていくという印刷手法は、デジタル印刷が主流の現在にあってマイナーなものになりつつある。それにもかかわらずシルク印刷にこだわる理由について、平野麻衣施設長は次のように語る。

「シルク印刷というのはとても人手がかかるため、一般企業では次々に撤退しているのが現状です。だからこそ私は、ここに事業チャンスがあると考えています。作業的にも難しいと思われがちですが、むしろ箱折りの仕事の方が高度な技術を求められている気がします。シルク版を刷る際のサポート役として、作業台にシャツをセットする係、シャツを剥がす係、トンネル(乾燥機)に印刷したシャツを流す係、それを取り出す係、シャツを畳む係…と、利用者さんの仕事としてたくさんの工程を用意でき、それに特化することでとても貴重な戦力になってくれるのです。印刷ミスを確認する作業においては、むしろ利用者さんの方が信用できるほどです(笑)」

 こうした平野施設長の考えにより、利用者11名(シルク印刷に関わる利用者は約5名)という小さな組織にもかかわらず、積極的に営業活動を進めてきた。近隣の学校、保育園、行政、地域の体操クラブ等から組織名・チーム名をプリントしたTシャツを受注するだけでなく、企業とタイアップした大ロットの仕事も請け負っている。毎月平均して10件程度の仕事があり、1団体50枚プリントすると仮定しても1か月に500枚の作業量をこなす計算となる。繁忙期にはさらに増えることもあるという。

「一般企業では、一度作ったシルク版は1年程度で破棄してしまうのが普通です。でもリンデンでは、長期保存をウリにしています。これによって一度版を作ってしまうと、次からは1枚からプリントを安価に請け負うことができるのです。シルク版を作るのに10,000円程度かかってしまうので、お客様にはとてもメリットがあります。こんな細かな対応により、地域の団体・企業さんからは『シルク印刷を頼むならリンデン』という評価をいただけるようになりました」

 大ロットの仕事ではあるが、企業等からの発注には厳しい注文がつくことも多いという。プリント位置のミリ単位指定、試し刷りの提出…等々、そんなニーズにも誠実に応えてきたことが、次の仕事へとつながっている。

「京都府内を飛び越え、最近では東京からも大きな仕事をいただけるようになりました。誰もが知っているメジャーな組織名をプリントする仕事だと、利用者さんたちのモチベーションも大いに上がります。厳しい要求もありますが、みんなで楽しく乗り切っています」と、シルク印刷を担当する支援員の山田早織さんは明るく語ってくれた。

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コロナ禍を乗り切った外部との積極的な交流活動

 リンデンでは、シルク印刷の他にもお菓子の梱包・箱折り・Tシャツ畳み等の下請け作業等を積極的に受注している。売上額も、今やメイン事業のシルク印刷に迫るほどだ。それはやはり、コロナ禍によって軒並みイベントが中止となり、企業・団体からの印刷発注が激減してしまったことが原因だという。
 下請け作業というとどうしても単価が低く、利が薄い仕事だと思われがちだ。しかしそんな仕事にも光明を見いだし、しっかり稼ぐ方法を生み出すのがリンデン流である。平野施設長は、その奥義を説明する。
「下請け作業の仕事は、数をこなす必要があります。でも私たちリンデンの組織はとても小さいので、ロットの大きい仕事は受けられません。そこで考えたのが、まわりの障がい者事業所と共同して仕事を請け負うことでした。どこの事業所でもコロナ禍によって仕事が激減して困っているという話を聞いていたので、声をかけると喜んで協力してくれました」
 こうしたリンデンを中心とするいわゆる京都市内共同受注活動によって、単独では考えられないほどの大きな仕事を請け負う体制を構築し、結果としてリンデンの全体売上を維持することになった。最近ではようやく各種イベントも再開し、シルク印刷の発注も増え始めたところだという。
「外部との連携は、下請け作業だけに留まりません。シルク印刷でも、私たちの手に余るロットのものは提携企業に発注することもよくあります。その代わりとして企業からは、シャツの畳みなどの下請け作業を回していただけます。法人内のワークハウスせいらんとの連携も私たちの強みでしょう。せいらんは縫製を得意とする事業所ですから、マークをすり込んだオリジナルバッグなどの仕事があれば、ワンストップ窓口で受注することができるのです」
 企業との連携を深めるためにも、平野施設長は企業などの集まりに日頃からひんぱんに顔を出し、人脈を作る努力を欠かさない。「根が商売人気質の関西人ですから」と笑い飛ばす積極性こそが、福祉のイメージを超えたエネルギッシュな営業パワーにつながっているのだろう。

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利用者アートを活用したオリジナル製品を開発したい

 リンデンでは、土曜日の開所日にクリエイターズ部門として利用者の方にさまざまなデザイン(アート)活動をしてもらっている。そこから現在の「クリエイターズ リンデン」の看板に採用したり、仕入れ販売するチョコレートにブランドシールを添付することで、売り上げを10倍に伸ばすという実績も生まれてきた。このような事例をさらに増やし、リンデンオリジナル製品の開発にも着手することが直近の目標だ。
「これから売り出したいと考えているのが、利用者のワタルさんがデザインしたトートバッグです。このようなオリジナル製品を少しずつ開発していきたいと思います」と、山田さん。
 利用者アートをあしらったシールを貼ったチョコレート販売にも、力を注いでいく予定である。チョコレートにリンデンの紹介を記したカードを添えておけば、商品そのものが事業所の存在を地域の人たちに知らせる宣伝グッズとなる。そんな宣伝活動の基本をしっかり押さえているのも、この事業所が成功を収めている原因だろう。さらに平野さんたちの夢は広がっていく。
「リンデンは開所してからまだ2年の事業所ですから、すべてが試行錯誤の最中です。利用者数ももっと増やしたいと思いますから、まだまだ事業規模を拡大する必要もあるでしょう。将来的にはもっと広い場所を確保して、移転も視野に入れています。可能ならば、利用者さんのアートグッズを展示するギャラリーも併設したいですね。そこに地域の方が気軽に集まれる交流の場を設けていければ最高だと考えています」と、平野施設長。「たくさんの人を巻き込み、巻き込まれ」ながら、楽しく仕事を拡大している事業所である限り、その夢は近いうちにきっと実現することだろう。

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(写真提供:NPO法人せいらん、取材:戸原一男/Kプランニング

【NPO法人せいらん福祉会】
https://kyoto-seiran.org

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年10月19日)のものです。予めご了承ください。