Reportage
SELP訪問ルポ
NPO法人フラット寺町(岩手県盛岡市)
公開日:

フラット寺町の概要
フラット寺町は、「ファーム仁王」(就労継続支援B型事業)、「ファーム神明町」(就労継続支援A型事業、就労移行支援事業、就労定着支援事業、就労選択支援事業)、「アイランド」(共同生活援助事業)等の障がい者支援事業を展開するNPO法人である。
主な作業内容は、弁当、惣菜、焼き菓子等の製造販売だが、すべての事業(A型・B型・就労移行)で、カフェ事業を多店舗展開している点が、この法人の大きな特色である。
B型の「ファーム仁王」では、寺町カフェ、三ツ石のおに手形、蔵カフェ、ZooCafé TekuTeku等、4カ所のカフェを運営し、法人拠点となるファーム仁王内の作業場やてらまち工房にて、各店舗で販売する製品を一括製造している(ファーム仁王:弁当・お惣菜、てらまち工房:焼き菓子、プリン、ゼリー)。
この他にも杜のカフェ(A型)、カフェラウンジフィールド(就労移行)、喫茶さわらび(就労移行の施設外就労)と3つの店舗も運営しており、カフェだけでも計7カ所になる。自家焙煎の本格的な珈琲を看板商品として、2011年の設立以来、地元で確かな存在感を築いてきた。今回は、その中核的事業でもある「ファーム仁王」について、詳しいお話を伺った。
ファーム仁王が運営するカフェの看板商品となっているのは、自家焙煎珈琲である。管理者の佐藤敏昭さんは、珈琲の美味しさについて次のように説明する。
「自家焙煎された本格的な珈琲を提供するカフェというのは、盛岡市内では私たちが草分け的存在だと思います。こだわりの生豆を使い、利用者さんみんなで目視による豆の選別を行っていますから、雑味のないすっきりした味わいの珈琲に仕上がっているのです」
しかも選別は2度も実施されるのだという。1度目は、生豆の選別だ。カビ、虫喰い、未成熟豆、異物等をここでまず取り除く。そして焙煎後にも、2度目の選別がある。焼きムラのある豆、割れた豆等を厳しくチェックしていくのである。企業なら機械選別が当たり前のこの工程を、人の手をかけてここまで丁寧に行うことによって、まさにオンリーワンの商品を生み出しているわけだ。
この他、オーストラリア産クリームチーズをたっぷり使った「チーズケーキ」や、岩手産リンゴの香りが漂う「ふわりんご生シフォンケーキ」、シンプルな王道の味わいの「シュークリーム」、各種「焼きドーナッツ」、各種「クッキー」等、人気のカフェメニューが目白押しだ。この他にも自家製小倉あんを使った「おはぎ」、14種類の漢方草を食べて育った岩手山ろく漢方和牛を贅沢に使った自家製「ハンバーグ」も人気メニューである。こうした多様な商品を、店舗内調理、工場での一括生産を使い分け、それぞれの拠点で販売していく。
「1つずつの店舗は小規模なのですが、複数の販売拠点があるおかげで多くのお客さんに知っていただけるようになりました」と、理事長の利府充さんは胸を張る。店舗での販売内訳は、仕出し弁当・軽作業受注が約230万円。寺町カフェ(菓子部門)が約300万円。蔵カフェ・三ツ石の鬼手形(珈琲部門)が約450万円。ZooCafé TekuTeku(盛岡動物園内にある最大規模の店舗)が約930万円、イベント販売(県庁・市役所、特別支援学校、地域イベント)が約920万円であり、トータルで年間売上は約2,830万円になる。B型事業所としての月額平均工賃は約31,000円(数字は、すべて令和6年度実績)であり、岩手県内全事業所の平均を大きく上回っている(令和6年度岩手県B型事業所月額平均工賃26,017円)。
障がいの壁を越えた協働作業
ファーム仁王の利用者は、精神障がい者15名、身体障がい者2名、知的障がい者21名(登録者38名/1日定員30名)という構成である。拠点が分散されているため、それぞれの店舗に配置される数は、職員・利用者合わせても5〜8名程度。適性・人間関係に応じて配置を決めているのだが、共通するのは最低限の人数で調理・配膳・会計までを対応している点だ。そのためカフェで働く利用者たちにも、高度な役割が要求される。店を支える一員として、十分に能力を発揮してもらうのだ。
「もちろん利用者さんによってはスピーディーに調理をこなすことが難しいケースもありますが、それもまた私たちのカフェの特色です。少し時間はかかっても一生懸命調理したり、接客対応する姿をお客さんに理解してもらうようにしています」と、佐藤さん。
作業風景も、とてもユニークである。障がい特性がまったく異なる利用者たちが、狭い空間で一つの作業を協働して行っているのだ。少ない人数の現場だからこそ、各々の特性を活かした作業オペレーションが活きてくる。たとえば知的障がいのある利用者の場合、人なつこさを活かして接客に専念してもらう。逆に対人関係が苦手な精神障がいのある利用者には、厨房で調理を行ってもらうなどの分担分けである。利府さんは言う。
「私たちが飲食の仕事を選んだのは、もしかしたらこれが大きな理由かもしれません。いろいろな人たちが事業所に混在していても、工程ごとに得意な能力を探せるからです。たとえばおにぎりひとつ作るにも、米の計量、具材の準備、おにぎりの成型、包装…と、いろんな作業があるじゃないですか。それを全部一人でやろうとしないで、みんなで一緒に作り上げることを大切にしています」
障がい分野や程度が違う利用者が同じ職場で働くと、一般的にはトラブルになりがちとされるが、フラット寺町では問題なく対応できているという。むしろお互いの不得意分野を補い合う相互補完、相手をリスペクトする称賛文化の形成、利用者同士が作業を教え合うスキル獲得等で、混在配置によるメリットがとても大きいそうだ。
A型事業や就労移行事業でも、カフェを展開
フラット寺町では、A型事業所や就労移行事業でもカフェ事業を展開している。いわて県民情報交流センター内にある「杜のカフェ」は、年間売上が約1,490万円を超える法人最大規模の店舗であり、パルソビル(県)1階にある「カフェラウンジフィールド」は就労移行支援事業としての作業体験店舗、盛岡市総合福祉センター内にある「喫茶さわらび」は就労移行支援事業の施設外就労先という位置づけだ。
「杜のカフェ」はもともとB型事業所の店舗として運営していたのだが、地の利もよく他店舗よりも圧倒的に売上が高かったため、「A型でも十分成立する」と考えて2017年に独立させた。その結果、利用者の月額平均工賃も約89,112円 (岩手県の令和6年度A型事業所月額平均賃金)へと大幅アップ。盛岡駅西口の公共施設内にあり、ランチタイムには多くの市民や観光客がひんぱんに訪れる。
カフェでの作業体験を中心とした就労移行支援事業も、好調である。6名の利用者たちは、2年間の訓練を経て一般就労を目指すのだが、多くの卒業生たちが夢を叶えている。就労定着支援事業も行っているため、一般就労後の離職はほとんど見られない。障がいのある人たちの地域生活を応援する大きな成果と言える。
今後の課題は、運営効率の改善だという。地域から望まれるままに多様な拠点を借り上げてカフェの多店舗化を果たしてきたが、すべて仮店舗であるため家賃負担が重くのしかかる。将来的には自前の拠点を市の中心部に作り、集約化をはかる必要があるかもしれない。もちろん、小規模拠点を多数抱えるからこその強みもある。それらを総合的に勘案しつつ、将来のあるべき姿を探っていくのだろう。
地域に根ざしたカフェの多店舗展開により、多くの障がいのある人たちの働く場を作りだしてきたフラット寺町。今後のさらなる発展を期待したい。
(写真提供:NPO法人フラット寺町、文・戸原一男/Kプランニング)
【NPO法人フラット寺町】
https://www.flat-teramachi.or.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2026年06月09日)のものです。予めご了承ください。







