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社会福祉法人宰府福祉会(福岡県太宰府市)

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宰府福祉会の概要

宰府福祉会は、宰府園(生活介護事業・就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・施設入所支援事業)、やまもも(生活介護事業・就労継続支援B型事業)、ゆり工房(生活介護事業・就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、にじ(生活介護事業・自立訓練事業)等の障害者事業をおこなっている社会福祉法人である。この他にも児童発達支援センターすみれ園や、四棟のグループホーム・ケアホームも運営する。

その中でももっとも歴史がある施設が宰府園であり、1978年に重度身体障害者入所授産施設として誕生してから36年もの歴史を持つ。新体系に移行した現在でも、45名の障害者が施設に入所(通所者は、37名)して木工作業や下請け作業などに従事している。

北部に四王寺山、東部に宝満山そして西南部に天拝山を望む太宰府市は、大宰府政庁跡や太宰府天満宮などの名所、旧跡が数多く存在する。そんな豊かな自然と、歴史と文化の息づくこの地で、宰府園では生活に支援が必要な重度の障がい者を中心とするさまざまな福祉サービスを提供してきたのである。

製品の質には、絶対の自信

宰府園の中心的な作業品目は、木工作業である。とくに木工玩具の製造に力を入れており、可愛い動物のデザインを施した数多くの製品が人気を博してきた。中村勝利施設長は、その特色を次のように語る。

「製品の質にはかなり自信がありますね。デザインを考え、国内産のヒノキやスギの木をデザインに合わせて大型スクローラーで細かく切り出し、丁寧にやすり掛けをした当園の木工玩具は、関係者からも高い評価を受けてきました。日本セルプセンターが開催しているSELP GOOD商品コンテストでは、過去にグランプリや優秀賞、コストパーフォーマンス賞など、数々の栄誉に輝いています」

宰府園の木工玩具の特色は、シンプルなデザインと丈夫な作りと価格の安さであろう。日本セルプセンターが実施している保育園・幼稚園の研修会等での販売会においても、その精巧な作りと経済性は高い評価を受けてきた。動物輪投げ(3,300円)、シーソー輪投げ(4,000円)、おにぎりカー(1,000円)、ヘリコプター(2,400円)・汽車ぽっぽ(2,000円)…等々。

児童教育の現場では、本当に安全・安心な玩具として木工玩具に対するニーズが昔から非常に高かった。最近ではさらに、国内産の木を使ったおもちゃを使い、木と五感で触れあうことによって感性を高め、「手で作り、手で考える」ことを大切にする「木育(もくいく)」がブームとなっている。木のおもちゃといえば高級な海外産が主流であったが、これからは国内産の木を使い、障がい者施設で丁寧に作られた木製玩具にも注目が集まっていくはずである。

博多人形の絵付け技術を引き継ぐ

宰府園の木工玩具のもう一つの特色は、丁寧な絵付け作業であろう。動物マグネット温度計(400円)、輪ゴムフォルダー(300円)、魚釣りセット(1,500円)、そして毎年作成している干支人形(単体:300円、セット1,500円)などには、一個一個細かな絵が筆によって描かれているのだ。この技術について、草本武俊理事長は次のように説明してくれた。

「もともと私たちは、施設開設時には博多人形の制作を主力作業としておこなっていたのです。細かい絵付け技術は、その名残といっていいでしょう。博多人形の顔を描くには、繊細な能力が必要とされますからね。現在ではもう人形作りはまったくおこなわれていませんが、当時の技術者が今度はおもちゃの分野で活躍しているのです」

どうりで動物マグネット温度計や輪ゴムフォルダーに描かれている動物の顔が可愛いわけである。「人形は、目がいのち」という大手人形メーカーのコマーシャルがあったが、この風合いはまさに手描きならでは。利用者たちが一つひとつ丁寧に描き込んでいく職人技の賜だろう。印刷などでは絶対に出せない優しいタッチが、女性顧客からの圧倒的な支持を得ている。全国の福祉バザーや研修会場の販売会において、今も昔も人気の商品だ。

2013年に福岡県と株式会社ローソンが結んだ包括提携協定(県内約370店舗での県産品フェアの実施や専用広報ラックによる県政情報の提供など、「共助社会づくり」のために協働で実施される取り組み)の「福岡県情報コーナー表示板」に焼き込まれたキャラクター「エコトン」の色付けも、宰府園の絵付け技術が評価されて依頼された仕事だという。文字盤の焼き込みは他施設によるレーザー加工だが、エコトンの色付けはもちろん手描きである。福岡県内370店舗のローソンで、この表示板が掲示されている。

高齢化・重度化への対応が、今後の課題

宰府園の今後の課題は、施設利用者の高齢化・重度化への対応だという。なにしろ平均年齢が54.3歳。入所施設の平均在所期間が22年という数字である。25年以上入所している利用者は25名であり、うち30年以上が16名もいる。彼らの機能・体力の低下は顕著であり、全盛期から比べると生産力が相当衰えているのも事実だ。新体系への移行後は、ほとんどの入所施設利用者が生活介護事業の所属となり、生産活動の他にもレクレーション活動や健康増進活動(機能訓練・歩行訓練・ストレッチなど)に時間を割いている。また、就労移行支援では就職を希望する方で、就労意欲が高く、作業能力の高い利用者をこの5年間で11名、社会に送り出してきた。安川幸正就労支援課長は言う。

「授産施設だった頃に比べ、より多様なニーズに応えなければなりません。そうはいっても高い工賃をめざすための活動も大切です。B型事業に携わっている通所者もいるわけですからね。そこで宰府園でも、ようやくレーザー加工機を導入して大量生産が可能になる体制を整えました。文字の焼き込みや、薄い板であれば自動カッティングもしてくれるスグレモノです。自由な形に切り抜いて、細かいメッセージを焼き込むなどの作業も自由自在。この設備の導入によって、これまでは難しかった大量の記念品などの受注が可能になりました。具体的には、那珂川町人権政策課の同和問題啓発強化月間マグネットが8,000個、エフコープ組合員配布用トラックマグネットが50,000個、といった仕事です」

もちろんこれからも宰府園の木工作業の中心となるのは、これまで通りリーズナブルで安心安全な子どもの玩具であることは変わりない。そのためにも新しい時代に対応したデザインやアイデアをつねに考えていく必要がある。

「幸い、当園にはベテランから中堅、若手職員に至るまで優秀なスタッフが揃っています。利用者もコツコツ頑張る、真面目な方が多いのです。一人ひとりが存分にもてる力を発揮していけば、必ず活路を見出していけるのではないでしょうか」と、中村施設長は今後の展望について語っている。長い間木工作業をおこなってきた歴史と、博多人形制作の時代から培ってきた高い絵付け技術。そして最新の設備の導入によって、今後の活路を見いだそうとする宰府園。厳しい舵取りが続くと思われるが、スタッフの団結力でなんとか新しい方向性を見つけてほしい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人宰府福祉会・宰府園(福岡県太宰府市)
http://saifuen.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2014年08月01日)のものです。予めご了承ください。