Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人讃良福祉会(大阪府寝屋川市)
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讃良福祉会の概要
讃良福祉会は、小路北町作業所(就労移行支援事業、就労継続支援B型事業)、ワークセンター小路(生活介護事業)、相談支援センターしょうじ(相談支援事業)、グループホームきたまち・うたに等の障がい者支援事業を展開する社会福祉法人である。
法人の設立は、2001年4月。理事長の子どもが重度の障がい者ということもあり、「どんなに重い障がいがあっても、『働くこと』を大切にする」という考えを基本にした知的障害者通所授産施設(当時)ワークセンター小路が元になっている。その後、新体系にあわせて2007年に就労移行支援事業、就労継続支援B型事業、生活介護事業の多機能型事業所となったものの、2010年には就労移行支援事業を分離(従たる事業所として小路北町作業所とした)。さらに2014年には「就労に特化した」事業所とするため、就労移行支援事業と就労継続支援B型事業を独立させ、小路北町作業所・国松としてまとめた。
この法人の特色は、重度利用者が大半を占める生活介護事業が主体でありながら、彼らの能力を活かしていく仕事づくりを行っているところだろう。障がい程度によって作業カテゴリを4種類(軽作業班・木工班・手織班・紙漉き班)に分け、それぞれからアイデアあふれる製品群が生まれている。このうち、主力を占める木工班と手織班の自主製品について詳しく見ていこう。
ユニークな商品を次々に生み出す木工班
まずは木工班である。これは、2001年の開所以来ずっと取り組んできた作業だ。丸形のシンプルな形状でありながら、持ち方や振り方によってさまざまな音が楽しめるマラカス(2003年日本セルプセンターSELP GOOD商品コンテスト・イオングループ賞受賞)や、保育施設長研修会でも大人気の楽器セット等々、音にこだわる優れた知育玩具を昔から作ってきた。さらに2020年からは、元家具職人という異色の経歴をもつ職員が参加することになり、以前にも増してアイデア満載の商品が生まれているのだと、施設長の久澤貢さんはうれしそうに語る。
「たとえばヒット商品として、『たけちゃん』があります。たけちゃんという利用者さんが描いた人の顔のイラストを、レーザー加工で焼き付け、切り抜いてブロック積み木にしたものです。積み木にしては複雑な形状なのですが、自由に組み立てられるところがお母さんたちに受けています」
これだけ素晴らしい製品を作っている木工班だが、そこに所属する利用者の過半数は「障害区分6」というのだから、恐れ入る。普通だったら「就労支援」など諦めがちな彼らの可能性を少しでも見つけ、いかに仕事を作りだしていくか。取材時は、年末に向けたクリスマスツリー生産の真っ盛りだった。ツリーには、ゆらゆら揺れる何種類ものオーナメントが付いている。そのヤスリ掛けや色付けも、重度の利用者たちが担当するという。作業工程の分化によって、少しでも仕事に関われる利用者を増やす──そんな基本を抑えつつも、木材加工の専門家(元家具職人)がアイデアを出すからこそ、市場でも十分通用する商品が誕生するわけだ。
「地域の子どもたちを対象として、レーザー刻印機を使ってオリジナルのコースターや時計を作ろうというワークショップをよくやるのですが、とても人気です。こうしたイベントがきっかけとなって、大手自動車メーカーのロゴを刻印したミニカー(500台)とか、団体のマークを刻印したコースター(300〜600枚)とか、ノベルティの仕事にもつながりました」と、久澤さん。売上拡大へのあくなき執念は、とても生活介護事業所とは思えないほどだ。
人形作家のアイデアが光る手織班の各種布製品
手織班では、利用者たちが自由に好きな色の糸を選び、感性のままに布生地を織っていく。重度の障がい者が働く生活介護事業所では、お馴染みの作業だ。どれも非常に魅力的な生地なのだが、どうやってそれを「売れる商品に加工する」のかは、意外に難しい。ワークセンター小路にはその点、力強い味方がいる。事業所の開所3年目から、フリーの人形作家として活躍している女性が、非常勤の技術指導員として関わっているのだ。その発想力は、さすがにプロ。利用者が紡いだ生地を最大限に活かし、さまざまなヒット商品を生み出している。
「一番の人気は、おにぎりさんでしょう。その名の通り、おにぎりの形をした布ポーチです。白い生地をご飯に見立て、海苔(のような黒い生地)を巻いた外観は、本当におにぎりそのもの。寝屋川市長や、市内で講演をした有名なタレントに贈ったところ、Instagramでも紹介してくれました。そんな効果もあって、バザー会場ではダントツの一番人気です」と、久澤さん。
布生地を組み合わせて作ったワンポイントの図柄を、単色のシャツや靴下に縫い込んだ商品も大人気だ。障がい者の事業所が作る織物グッズというのは、生地をそのままバッグ、マフラー、ポーチに加工することが多いのだが、ワークセンター小路では「利用者が織った生地をデザイン素材」として捉えている。人形作家の技術指導員がアイデアを出し、それに触発された職員たちも独自のデザインを考えていく。プロならではの優れた感性が光る商品群だが、「魅力的な生地」があるからこそ生まれるものばかり。3,000円のTシャツや600円台の高価な靴下もバザーで売れるのは、お客さんから「オンリーワンデザイン」が評価されている証だろう。
働くことにこだわった生活介護事業所として
もう一つ、ワークセンター小路の大きな特色がある。それは、優れた商品を開発すると同時に、販売にも力を入れていることである。2018年からは大阪授産事業振興センターでの勤務経験がある職員を迎え入れ、販売担当常勤職員とした。久澤さんはその目的を次のように説明する。
「私は長い間、セルプセンターの委員長職を務めていたので、営業力の大切さを身に染みています。工賃アップのためには、良い商品を作るだけじゃダメ。営業力も強化する必要があります。実際、その方に来てもらったところ、次々と新規で販売先や企業・団体からのノベルティ等の受注を増やしています。2020年から始めた『わっか』というカタログ販売も、彼女の発想です。しかもカタログを配るのは、事業所近隣へのポスティングが中心。不特定多数への配布と違って、注文ハガキの回収率は高いです。1号で3,000部配布するのですが、30万円程度の売上があります。『わっか』の発行は、年4回。季節毎に特集を組み、大阪市内の他事業所の食品類も販売アイテムに加えるなど、いつも新しい商品を掲載できるように工夫しています」
このようにワークセンター小路の事業活動を伺っていると、もはやB型事業所とほとんど変わらない。もちろん重度の利用者たちが大半を占める生活介護事業所である以上、生産能力に限界はある。事業所としての年間売上は460万円程度であり、月額工賃も平均では6,300円程度にすぎない。しかしこの数値は、法人全体としてさらに「就労に特化したB型事業所」や「一般就労率も高い数値を誇る就労移行事業所」を運営する中で、「重度障害のある人たちの就労の可能性」にチャレンジし続ける結果として評価するべきだろう。
しかも久澤さんは、決して現状に満足しているわけではない。「コロナ禍でバザーが軒並み中止となり、工賃を下げざるを得ないことがありました。その時、利用者さんの1人が『悔しいです』と涙ながらに訴えた姿を、私は忘れることはできません。利用者さんのそんな思いに応えるためにも、少しでも高い工賃を目指すべきだと私は考えています」
たとえ生活介護事業所であっても、働くことにこだわって、利用者のもつ可能性を見いだしつつ、高い工賃を目指していく──そんなワークセンター小路のあり方は、セルプに所属する仲間たちにも大いに刺激になることだろう。
(写真提供:讃良福祉会、取材:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人讃良福祉会】
http://sanra.info
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年12月01日)のものです。予めご了承ください。