Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人復泉会(静岡県浜松市)
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復泉会の概要
復泉会は、ワークショップくるみ(就労継続支援B型事業)、くるみ作業所(就労継続支援B型事業)、第2くるみ作業所(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、くるみの木(生活介護事業:第2くるみ作業所の従たる事業)、KuRuMiX(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、くるみ共同作業所(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業所を運営する社会福祉法人である。
この他にも、ケアハウスくるみ、くるみハウス、くるみハイツなどの共同生活支援事業(グループホーム)、相談支援事業所くるみ、等を運営する。
施設の始まりは、約41年前(昭和52年)に遡る。現理事長の永井昭さん(73歳)が、当時はどこにも行き場のなかった精神疾患の障がい者たちを河原に集め、食事会やレクリエーション活動などを行っていたのだという。病院から一次外泊の許可が出ても自宅にさえ戻れない彼らを、地域社会で受け止める場を作りたい。そんな永井さんの思いはどんどん膨らんでいき、障がいのある人たちが働ける場づくりへと進化していった。
精神疾患のある人たちは当時、障がいがあることの「苦しみ」ゆえに「死」を選択する人たちが少なくなかったという。彼らの「くるしみ」の「し」を取り除くようなオアシスとしての施設を作りたい。くるみ共同作業所の「くるみ」という名には、そんな願いが込められている。
優先調達法によって甦った印刷事業
くるみ共同作業所の主力事業は創設以来、下請け軽作業と印刷だった。しかしリーマン・ショック以降、浜松市内の工業活動(自動車産業や楽器産業)は激減し、企業からの仕事の発注は大幅に落ち込んだ。印刷事業も売上は年々減少し続け、平成20年には1,000万円の大台を割り込んでいる。この瀕死の印刷事業を救ったのが、平成25年から施行された障害者優先調達法だった。峰野和仁施設長(40歳)は、その効果を次のように説明する。
「法律が制定されると、行政は非常に敏感に反応してくださいましたね。浜松市内の公立幼稚園、小中学校、高等学校、公民館等の施設から次々に仕事を発注いただけるようになりました。名刺や封筒などの細かい印刷物だけでなく、当施設が得意とする冊子までさまざまな印刷物です。大きいところでは、静岡県からNPO法人オールしずおかベストコミュニティ経由で発注いただいた『静岡県優先調達法事業所名鑑』でしょうか。A5版300頁並製本、上下巻セットで各2,500部というもの。久しぶりの大型案件です。こういった仕事が続いた結果、昨年度(平成28年)の売上は2,700万円にまで達しています」
また、エンボス加工した用紙を使ってメモ帳やノートを売り出したところ、これが思わぬ大ヒット。優先調達法の影響で行政からの発注も相次いでいるらしい。印刷用紙のヤレ(余った用紙)の有効活用法として、特殊加工できる機械を導入したアイデアが思わぬ副産物を生み出した。エンボス加工された用紙は、とても書きやすいと大好評なのだとか。「ヤレ紙の再利用と、障がいの重い利用者の仕事確保のために開発した製品ですが、今ではヤレ紙ではとても足りません。ノート用のためにわざわざ新しい紙を仕入れています」と、峰野さんは苦笑いだ。
近隣農家とタイアップしながら進める自主製品づくり
大幅に売上が下がった下請け作業の穴を埋めるために、くるみ共同作業所が力を入れてきたのが農家とタイアップした自主製品づくりである。具体的には、近隣農家で栽培される米を使ったポン菓子、果物を加工したドライフルーツなどだ。作業所のまわりには、広大な田園風景が広がっている。浜松の地域ブランド米である「やら米(まい)か」が栽培されているのである。もともと法人の原点は、地域と協働で進める障がい者の居場所づくりだ。まわりの農家が生み出す作物を有効活用し、くるみ共同作業所ではその加工に専念する。そんな考え方で自主製品事業を進めている。
「やら米か」を使ったポン菓子は、地元の醤油でほんのり味付けしたものと味付けナシの自然そのままの味わい。フードプリンターを導入しているので、イベントや企業のノベルティとしてのニーズも増えている。ひな祭りの際に、ひな人形をプリントしたぽん煎餅を作ってほしいとお弁当屋さんからの特注もあるらしい。
特殊な機械を使いこなす技術力が評価されているのが、ドライフルーツだ。施設が導入しているのは、マイクロ波減圧乾燥機。一般的な熱風乾燥とは、まったくレベルの違う乾燥商品を生み出すことができる。たとえばドライみかんである。皮を剥いたみかんの色と香りと味を、ほとんど損なうことのない完璧なドライみかんとなっている。見た目はまるでイミテーションのよう。食べてみないと、ドライフルーツとは思えない仕上がりだ。
その乾燥ノウハウは、機械の製造メーカーからもお墨付きをもらっている。メーカーの技術者でもなかなか上手く乾燥できない果物を、くるみ共同作業所に発注してくることもあるそうだ。当然、近隣農家や事業者からもさまざまな依頼が舞い込んでくる。ドライフルーツ事業は、自主製品づくりよりも加工受託が中心となっている。
本格的なジュース加工で高工賃獲得をめざすKuRuMiX
復泉会では、2013年にKuRuMiXという新しい就労支援事業所を立ち上げている。くるみ共同作業所を初めとするこれまでの事業所とはまったくスタイルが異なる食品工場だ。この施設の狙いは、ずばり高工賃獲得にあると永井理事長は説明する。
「これまで私たちの法人が運営してきた事業所では、利用者にあわせて仕事を用意してきました。その結果、印刷、軽作業、食品製造、手漉き紙、遠州綿紬…とさまざまな仕事を生み出してきたのです。しかしこのスタイルだと、どうしても限界があります。もっと本格的な食品工場を建設し、これまでの倍額以上の工賃をめざしたいと思いました」
KuRuMiXの中心的な商品は、みかんジュースである。遠州・浜松は、日本を代表するみかんの産地。地域の農家が育てた新鮮な果実を、最先端の加工設備でジュースへと製品化していく。みかんの洗浄、粉砕、圧搾、蒸気過熱、瞬間熱殺菌、異物除去、ビン充填にいたるまで、ほとんどの工程が機械化されている。工場の中は完全クリーンルームで、雑菌の混入をまったく許さない徹底した衛生管理がなされている。
「静岡県にみかんの木を初めて持ち込んだのは、徳川家康公だと言われています。駿府城に在城したときに、紀州から献上されたみかんの鉢を城内に植え替えたのが始まりらしいのです。私たちはそんな言い伝えからヒントを得て、みかんジュースのブランド名を『起源家康』としました」と、峰野施設長。
もっとも美味しい時期の採れたてみかんをそのまま絞り、無添加果汁100%で瓶詰めしたみかんジュースは、最高級の味わいだ。180ml入りのビン一本が270円(税込)という高級品だが、贈答用にも各地から引き合いがあるという。みかんの品種によって微妙な味の違いがあり、飲み比べができる箱入りセットも人気商品だ。みかん以外にもトマトやネーブルオレンジ、ゆずなどのアイテムも用意されている。
KuRuMiX(くるみっくす)の名は、くるみ×地域力=∞(無限大)であることから付けられている。地域と共に障がい者たちの可能性を模索し続けてきた永井理事長の思いがよくわかるネーミングである。復泉会ではこれからも、地元の食材や素材を活かしたモノづくりを着実に広げていくことだろう。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人復泉会(静岡県浜松市)
http://kurumi.sub.jp
「KuRuMiX」 Yahoo!ショップ
https://store.shopping.yahoo.co.jp/kurumix/
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年01月01日)のものです。予めご了承ください。