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社会福祉法人新生会(岩手県矢巾町)

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新生会の概要

新生会は、新生園(就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援事業)、第二新生園(就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援事業)、ワークセンターむろおか(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)、あさあけの園(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業行っている社会福祉法人である。

この他、新生ホーム(グループホーム)やしんせい(障害者地域生活支援センター)、みちのく療育園(療育介護・医療型障害児入所支援施設)等の福祉サービスも展開している。

法人の基本理念は、「輝く命」。創設者の藤原清司元理事長(現・相談役)によって、「障がいがある人々が自立し、安心・安定した地域生活ができるように変わってほしい」との願いを込めて法人名を「新生会」と命名した。

新生園は、法人内就労系事業所の中心となる施設。印刷やクリーニングを主体とした生産活動を行い、B型事業所としては県内トップクラスの売上規模を誇るなど、積極的な事業展開を図ってきた。現在の月額平均工賃は、37,658円という実績(2016年)となっている。

コンパクトな印刷設備で年間2300万円の売上

新生園の事業の柱の1つが、印刷事業である。印刷機材としては、菊判4裁(A3ワイドサイズ)の単色機と、A3ノビ対応のオンデマンドプリンターのみ。決して潤沢な整備とは言えないが、近隣小・中・高等学校や自治会、官公庁を主な顧客ターゲットとして、着実に受注活動を行ってきた。冊子などの印刷物が中心であり、要覧、総会資料、入学者名簿、学習記録ノート、生活記録ノート、等々の印刷が具体的な内容だという。

厳しい経営環境が続く印刷業界の中にあって、新生園では大きく売上を低下させることなく着実に事業を進めてきた。総務支援部長の佐々木亮さん(39歳)は、次のように語っている。

「特別に最新型の機械を導入しているわけでもないのですが、印刷事業のスタッフたちは本当に頑張っていると思います。昨年度の売上は、約2,300万円。ピーク時の数字が約2,500万円でしたから、1割程度のマイナスで切り抜けています。地域に根ざした営業活動を実践し、丁寧な仕事を心がけてきた実績がお客様から評価されているのでしよう」

取材時は、印刷現場は珍しくのんびりしたムードが漂っていた。もちろんこれは、一時的なこと。繁忙期になると、毎日印刷機の回る音が施設内で響き渡ることになる。ハードな労働環境にも負けない担当スタッフたちの働きぶりが、新生園の小さな印刷事業を支えている。

定期的な受注が支えるクリーニング事業

クリーニング事業は、2社からの下請け作業が中心である。1つが、岩手県内では最大とされるパン工場の作業服(白石食品の関連企業からの発注)。もう一つが、町内の医療施設・クリニックの白衣(クリーニング会社の下請け)である。前者は、毎回500着程度の大量の作業服が運ばれてくる。とくに夏場はクリーニングの回数も増えるため、週2回の発注となる。工場内はこの作業をこなすだけで、てんてこ舞いの忙しさになるという。

「どちらの仕事も、古くからずっと変わらずに発注していただいています。これだけ大量の固定的な仕事があることが、新生園のクリーニング事業を支えてくれていますね」と、職業指導員の室岡宏政さん(62歳)

毎週1,000枚以上も運ばれてくるホテルのテーブルナプキンのクリーニングも、大きな仕事である。この他、地域の人たちの衣類クリーニングも請け負っている。町内のみを対象とするサービスで、電話一本でワイシャツ1枚からお客さんのところに取りに行くのだという。法人設立以来大切にしている地域貢献活動としての取り組みだと、佐々木さんは説明する。

「施設がある矢巾町では、新生園といえばクリーニングの施設だというイメージが定着しています。地域の人たちとの接点を作る意味でも、このサービスは大切にしてきました。宅配してくれるクリーニング店が今ではすっかりなくなりましたから、高齢者を中心にとても喜ばれています。固定客が100人くらいいて、週に何度も依頼の電話があるお客さんも多いのですよ」

高齢化への対応が今後のテーマ

新生園の課題は、やはり利用者の高齢化への対応だろう。中心となる作業が印刷やクリーニングという特殊な技術職であるため、仕事に対応できる利用者の数は年々少なくなる一方である。そこで新生園では、平成22年より生活介護事業をスタート。重度の障がいがある利用者たちでも、日中活動を楽しめるサービスの提供を行ってきた。

「生活介護の作業は、裂き織りやウエス制作などの軽作業。あくまで日中活動としての位置づけなので、工賃は月額平均で2,000円程度にすぎません。私たちは工賃ではなく、本人支給金と呼んでいます」

これだけの工賃の違いがある(B型事業は、約10倍)にもかかわらず、高齢化や体調不良を理由に生活介護事業への切り替えを希望する利用者が多いのだと、佐々木さんは悩みを打ち明ける。

「今や生活介護は定員一杯で、むしろB型の方に定員割れが出てしまう状況です。高齢化が進む限り、この動きは止められないでしょうね。しかし、私たち新生園の原点は、高い工賃を獲得して障がい者が地域の中で自立して暮らせるサポートを行うこと。そのためにも、印刷やクリーニング事業を縮小するという考えはありません」

そのためにも若い利用者たちに技術指導を行って、根気強く後継者を育てていくことが大切なのだという。印刷やクリーニング事業に、若い人たちの興味を向かわせるというのはとても難しいテーマだ。しかし新生園では、それを必ずやり遂げたいと考えている。

「これまでの新生園の歴史を培ってきた技術を、次の世代につなげることは私たちの使命」と熱く語る佐々木さん。新生園がこれからも「輝く命」を利用者たちに提供できる施設であるかどうかは、スタッフたちの情熱にかかっている。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人新生会 新生園(岩手県矢巾町)
http://www.i-shinseikai.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2017年12月01日)のものです。予めご了承ください。