Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人八女市社会福祉協議会(福岡県八女市)
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授産所麻生園の概要
授産所麻生園(以下、麻生園)は、身体上もしくは精神上の理由、または世帯の事情によって就業能力が限られた方に対して就労または技能習得のために必要な支援を行い、自立更生を図ることを目的とする社会事業授産施設(生活保護法に基づく)である。施設が開園した1967年当時、全盛を誇った金山が閉山し、旧・星野村(現在は八女市に合併)には職を失った人たちや肺病患者があふれていた。そんな状況を見かねた村長が民生委員たちと話し合い、授産施設を立ち上げることになった。ちょうど前年に法人認可された星野村社会福祉協議会(現・八女市社会福祉協議会、以下八女市社協)が麻生園を運営するようになったのは、そんな経緯があったのだという。
定員30名から始まった事業は、現在では定員は50名(利用者数43名)に増えている。そのほとんどが低所得者世帯(非課税)の方たちであり、その中には生活保護受給者も数名いる。2006年(障害者自立支援法制定時)からは、基準該当障害福祉サービスとして就労継続支援B型事業も適用されるようになり、障害者手帳を持つ方であれば、低所得者世帯でなくても施設を利用できるようになった(現在、B型事業を利用する障がい者は4名)。
障害者優先調達推進法によって息を吹き返した印刷事業
麻生園の中心となるのは、創設時からずっと変わらず印刷事業である。今ではデジタル化が進み、DTPによるオンデマンド印刷が主流になりつつあるが、大ロット(500部以上)の印刷物に関しては今でもオフセット2色印刷機が活躍する。受注案件としては、地域企業・団体の広報誌、予算決算書、総会資料、各種伝票類、チラシ、パンフレット、学校新聞、名刺、封筒、ハガキ類等が中心である。
「印刷の売上は、約4,277万円(令和5年度実績)です。コロナ禍でイベントなどが次々に中止となった時には900万円近くダウンしてしまいましたが、ようやく元の数字に回復しつつあります。地域にあった中小の印刷事業所が廃業などで減ってきたこともあり、地元企業や団体さんからの仕事が増えてきたようです。2013年から施行された障害者優先調達推進法の影響も大きいです。当初は法律の趣旨がなかなか広まりませんでしたが、少しずつ行政の理解も深まってきて、最近では積極的に随意契約していただけるようになりました」と、施設長の江崎浩子さん。
印刷部門の年間売上高は、全体売上の8割以上を占めるが、アナログ時代の印刷工程と違って、デジタル印刷の世界は人手をあまり必要としない。作業の高度化もあり、実際に印刷に関わっている利用者とパート職員は5名程度。最先端の設備を導入すればするほど作業は省力化されて利益率が向上するものの、限られた利用者のみが担当できる仕事になりつつあることが、懸念材料だろう。
最近では民間の助成金を活用して、布生地に直接プリントできるガーメントプリンターを導入した。熱転写シートを作らずにパソコンから布生地に直接プリントできる優れものであり、Tシャツやエコバッグ等を1枚からプリントすることが可能だ。江崎さんはこの新設備導入によって、新たな受注拡大が期待できると語っている。
その他、簡易加工、受託清掃、葬祭部門など
これに対して簡易加工部門の軽作業は、利用者の全員が参加できるというメリットがある。八女市は提灯の町とも呼ばれていて、老舗の提灯専門店も数多い。そんな事業者から提灯の部品づくりが年間を通じて委託されている。また、ロウソクの箱詰め、八女茶をセットにする箱折り作業、柑橘類(みかん・はっさく・デコポン等)の皮剥き作業、お盆を過ぎた頃から正月に向けてピークを迎える破魔矢づくりなども、地域産業との連携によって生まれている仕事だ。
「今年は、市とJAの紹介でお茶摘みの仕事もやらせていただきました。茶園も高齢化のために年々茶摘みの人手が不足しているそうで、刈ったお茶の枝をトラックで大量に麻生園まで運んでくれたのです。さすがに茶園まで出向くのは私たちには難しいですが、枝そのものを持ってきてくれれば、あとはマンパワーがものを言います。利用者全員で取り組み、あっという間に終わってしまいました」と、江崎さんは笑う。新しい形の農福連携作業として、高齢化の進む地元茶園とのつながりは、今後もますます増えていくことだろう。
八女市社協が行政から受託運営(指定管理)している総合保健福祉センター内の温泉施設の清掃も、数年前から始まった仕事だ。以前は公衆トイレや河川公園等の清掃・緑地帯管理作業(剪定等)を請け負っていたこともあるが、利用者の高齢化のため施設外に出かけることが難しくなってしまったため、月2〜3回程度、風呂や排水清掃の仕事を民間事業者の合間を縫って担当し、工賃向上を目指しているらしい。
ユニークなところでは、葬祭部門というのもある。霊柩車の運転、葬儀用品(棺桶、会葬礼状、お返し品)等の販売が中心だ。母体となる八女市社協が、福祉の推進を目的に行っている事業であり、麻生園の大事な収入源となっている。霊柩車の利用は星野村住民に限られているが、自宅から市内の葬儀会場や火葬場に運ぶことを任されている。
今後の課題
2013年に生活困窮者自立支援法が制定され、多くの市社協で生活困窮者自立支援事業等を展開するようになった。八女市社協が母体となる麻生園が、これまで行ってきた低所得者世帯、生活保護世帯の方に対する就労支援というのは、時代に先駆けて取り組んできた活動といえる。事実、近隣の民生委員児童委員会が研修目的で視察に訪れることも多くなってきたという。
今後の展開としては、八女市社協が取り組むひきこもり支援(ほっと館やめ)との連携が挙げられる。長期にわたって家に引きこもり状態にある人たちへのサポートは、関係者の間でもさまざまな手法が模索されているが、就労支援に関してはなかなかハードルが高いのも現実である。しかし、これまでずっと仕事を通じて低所得者世帯への利用者支援に取り組んできた麻生園だからこそ、具体策が提示できるはずだ。
「たとえば麻生園では印刷の仕事を請け負っていますが、ときどき手書きの原稿を受け取ることがあります。その文字入力をお願い出来る方が、もしかしたらひきこもりの方の中にいるかもしれません。ほっと館やめと連携を図りながら、そんな取り組みもスタートさせたいと考えています。小さな一歩かもしれませんけど、その人にとっては社会につながる大きな第一歩になるはずです」と、江崎さんは訴える。
社協が運営する社会事業授産施設だからこそ、そんな横の連携が可能になる。利用者たちの就労意欲を少しずつ高め、毎日通えるように生活リズムを整え、頑張って働く方には少しでも高い工賃を支払える事業努力も重ねていく。麻生園ではさまざまな仕事に取り組みながら、働くことに困難な人たちへのサポートを今後も続けていく予定だ。
(写真提供:授産所麻生園、取材:戸原一男/Kプランニング)
【授産所麻生園】
https://yamesyakyo.jp/pages/48/
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年09月01日)のものです。予めご了承ください。