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医療法人若草会(山口県山口市)

公開日:

精神科病院が患者のケアのために設立

若草会は、小郡まきはら病院(精神科)を運営する医療法人である。患者ケアの一環として、デイケアセンター、とまり木(生活訓練事業所)、カーサ若草(グループホーム)、イタリア風レストラン・フィオーレ(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)等の事業所も運営する。

法人の理念には、「思春期青年期を中心に治療するスタッフとして、①ご家族、住民の皆様さまなどの協力と支援を仰ぎ、関係諸機関との連携を密にしながら ②全員がチーム医療として協働し ③成長過程にあるクライエントの『人間としての尊厳』を大切にしながら、その『悩みに真剣に関わり、ともに考えてゆく』医療をめざします」と書かれている。

こうした理想のもと、「入院はもう必要ないものの社会で働くことが難しい」、「働くための体力をつけたい」、「コミュニケーションとる練習をしたい」患者を支援するために1998年に設立された精神障害者通所授産施設(2008年に新体系に移行)がフィオーレなのである。

地域と病院を結ぶレストラン

フィオーレの最大の特色は、精神科の病院がバックについていることだろう。レストラン自体は看板等に「福祉」を一切謳っていないのだが、小郡まきはら病院の敷地内にあることで、初めて訪れたお客さんは「?」と思われる方がいるかもしれない。多くの精神科の病院というのは、地域社会からは隔離された場所に建っているが、小郡まきはら病院は、新山口駅から歩いて10分程度のところにある。この理由について、フィオーレの大浜平管理者は次のように語っている。

「もっと地域社会に開かれた病院にするというのが、牧原浩院長の考え方なのです。事業所(フィオーレ)を作るにあたって、レストランを選んだのもみんなが集える場所にしたかったから。美味しい料理を提供するレストランなら、地域の人も病院関係者も、お年寄りも子どもたちも、みんなが気軽に立ち寄ってくれると考えたのでしょう」

精神障害者の通所授産施設(当時)でありながら、仕事内容は創造的にしたいというのも院長独自の考えだった。精神障害者が働く事業所というと下請けや内職仕事が当時は当たり前だったが、人との交流こそが彼らにとって社会復帰のための重要な第一歩となる。そのためには単純作業ではない、創造的な仕事に携わる必要がある。フィオーレでは、レストランにおけるあらゆる仕事(コック、パン作り、ホール係、皿洗い、商品販売、清掃)に利用者が関わり、それぞれが創意工夫をこらして仕事に励んでいるという。

連日満席。ピーク時は空席待ちの列ができる人気店に

レストラン・フィオーレは、今では地域の人なら知らない人はいないくらいの超人気店だ。取材当日は平日で雨が降っているにもかかわらず、12時をすぎると次から次へとお客さんが訪れてきて、70席の客席はあっという間に満席となった。13時をすぎてもその波は途切れず、空席待ちのお客さんが入り口には並んでいる。天候が悪いのでお客さんの入りを心配していた大浜さんは、嬉しそうだ。

「おかげさまで、毎日多くのお客様にご利用いただいております。もちろんオープン当初はお客様やメンバー(利用者)も少なく大変苦労したと先代の施設長からは聞いています。現在こうしてたくさんお客様に来店していただけるので、メンバーの訓練もしっかり出来ますし、彼らの仕事に対する意識も高まります」

フィオーレは、なぜこれだけ繁盛する店に成長したのだろうか? 一つには、スタッフの多くが、プロの料理人(スタッフ13名中5名が、調理師や製菓衛生士)であることが大きいだろう。障害者の就労支援事業所でありながら、一部の専門職以外は福祉にはまったくの門外漢。大浜さん自身、以前は外食チェーン店の店長として働いていた。そんな彼らが中心となり、最高の素材を使って徹底的に手作りの味にこだわる姿勢が、着実に評価されてきた。

「うちの店の最大のウリは、手作りにこだわっていることだと思います。基本的に既製品は使わず、ソースから何からほとんど手作りです。手間はかかりますが、他のレストランでは真似できないマンパワーの大きさが私たちの武器でもあります。それと原価率も院長の意向もあり一般的なレストランと比較すると非常に高く設定しています。私が以前働いていたレストランでは考えられないほどです(笑)

フィオーレの人気メニューは、ピザやパスタのコース、大人気の「サンドW・de・ランチ」等の他、うどんやカレー、カツ丼やエビフライ、とんかつ定食など洋・和食メニューも充実している。毎日訪れてくれる病院関係者が飽きないようにとの配慮から、イタリアン以外のメニューを増やしていった結果だそうだ。

忙しくても、支援の手は緩めない

これだけ連日忙しいと、レストランで働く利用者たちの精神面が気になるところだろう。なにしろピーク時には、客席は超満員。厨房もホールもてんてこ舞いの状況なのだ。心の病を抱える人たちにとって、非常にストレスになることは間違いない。

「パニックになることはしょっちゅうですよ。だいだい毎日、誰かは体調悪くなりますね。そんな時私たちはどんなに忙しくても、必ず仕事を止めて彼らのサポートに回るようにしています。それがもっとも重要な仕事なのですから、当たり前のことですよ」

と、大浜さん。小郡まきはら病院のスタッフたちが近くに控えているのも、もちろん大きいかもしれない。支援員たちの手に余るときには、医療チームの応援を仰ぐことができる。それがスタッフたちに心の余裕を持たせてくれているのだろう。

「もっとも最近では、メンバーさんたちが店の状況を考えて対応してくれるので助かっています。ピーク時に体調が悪くなると、彼ら自身から『今、大変そうだから、とりあえずちょっと休んできます』と言って、バックヤードに休みに行くのです。なるべく多めのスタッフやメンバーで構成しているのもそのためです」

フィオーレの就労移行の定員は10名、B型事業所の定員は30名。しかし倍の60名近い利用者が登録しているため、平均出勤率が50%を割っても問題なく運営できるように工夫されている。心の病を抱える人たちの就労支援事業所を運営する上でもっとも苦労するのは、低い出勤率であるという。こうした利用者確保ができるのも、小郡まきはら病院というバックがあるからこそ。まさに医療と就労支援が一体となった理想的なスタイルがここにある。

理想はまだまだ。チャレンジはとまらない

大浜さんに、今後の計画を伺ってみた。

「まず工賃ですが、現状月平均14,000円ぐらいなのですが、院長の理想は、30,000円〜40,000円くらい。たとえ精神障がい者が中心の事業所であっても、障害年金とセットで自立生活を送れるというレベルをめざすべきだとの考えです」

その目標を実現するための一つのアイデアとして、昨年度「とくぢみそラスク」を開発した。これは、山口県人ならお馴染みの味噌蔵元「とくぢみそ」とコラボしてつくり出したオリジナル製品である。とくぢみその社長より新しい味噌関連商品を検討しているという話を聞いてチャレンジした。開発には日本セルプセンターの専門家派遣事業を活用し、会員施設にはお馴染みの加藤晃シェフと一緒に試作を繰り返したという。

「パッケージとして、『とくぢみそ』の袋をそのまま使わせてもらいました。山口県人ならお馴染みの味噌の袋なので、これを見ただけで、みんな喜んで頂けます。味は、『とくぢみそ』独特の少し甘めで、濃厚な味がそのまま残るように仕上げました。お茶受けにも、お酒のつまみにもなると思います。レストランの売上だけでは限界がありますから、こうしたオリジナル製品の売り上げを今後はもっと伸ばしていきたいですね」

山口県では、今年は「第23回世界スカウトジャンボリー」や、「ねんりんピック おいでませ山口」や、が開催される。山口県社会就労事業振興センターと組み、「とくぢみそラスク」を山口土産としてより大きな市場で販売することをめざしているのである。

レストラン事業も、二号店を模索中だとのこと。地域の主婦たちが子どもたちを連れて連日やって来て、二階の会議室では会合なども開くようになった現在だが、障がい者が働く姿をもっとたくさんの人たちに知ってもらうには公共的な場で営業するのが理想的だ。そのためにも、リニューアル予定の新山口駅構内にフィオーレ二号店をオープンするなどの構想を、ぜひとも実現させたいのだという。このようにフィオーレの夢は、限りなく続いていく。精神障がい者が中心に働く就労支援事業所でもここまで出来るという格好の見本として、ぜひ多くの人たちに足を運んでもらいたい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

医療法人若草会・レストランフィオーレ(山口県山口市)
http://www.makihara.or.jp/fiore/

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年08月01日)のものです。予めご了承ください。