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社会福祉法人パステル(栃木県野木町)

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パステルの概要

パステルは、栃木県野木町「セルプ花」(就労移行支援/就労継続支援B型/生活介護/自立訓練)を拠点として、同県小山市の「フロンティアおやま」(就労継続支援B型/生活介護)、「つるたみ」(就労継続支援B型/生活介護)、茨城県古河市の「いちばん星」(就労継続支援B型/生活介護)・「たんぽぽ」(就労移行支援/就労継続支援B型)・「おおぞら」(就労継続支援B型/生活介護)などの障がい者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。

障がい者の生活全般にわたるサービス提供をめざし、通う(日中)・住む(入所・GH)・ヘルパー派遣(生活支援)・ライフサポート(相談支援)の四部門にわたって事業を展開してきた。そのため11棟ものグループホームや入所施設「ホーム宙(そら)」、ヘルパーステーション「パステル24」、ライフサポートセンター「ゆめ」、「フロンティアおやま」、「つるたみ」、「ネーブル」、障がい児通所支援事業所「なかよしランド」「けやき」など、利用者が地域で安心・安全な暮らしを営むためのサポートをおこなっている。

作業科目としては、「セルプ花」が弁当や製菓・製パン・Tシャツプリント・農作業・軽作業、「フロンティアおやま」が製菓・製パン、レストラン運営・箱折り・アルミ缶回収、「つるたみ」が生産農業、ジャムやお餅等の農産物加工、軽作業、「いちばん星」「たんぽぽ」が製菓・製パン・軽作業、「おおぞら」が陶芸・木工作業・軽作業・アルミ缶回収となっている。毎日コンスタントに320食を製造する弁当事業が好調な「セルプ花」のB型事業の平均月額工賃は65,000円を超えるなど、より高い工賃をめざす活動にも積極的な法人である。

地域との連携をめざした活動が基本

パステルでは「地域に根ざす」ことを実現するために、少人数制の施設を栃木県野木地区、同県小山地区、茨城県古河地区、の三地域に点在させてきた。作業科目としてもっとも力を入れている製菓・製パンなどの自主製品では、それぞれの地域の名産品を使ったオリジナル製品開発に力を入れている。

代表的な例が、野木地区の名物をもとに開発した「ひまわりパン」だろう。野木町といえば、7月下旬に開催されるひまわりフェスティバルが有名である。これは、約4.3haの広大な畑に約20万本のひまわりが咲き乱れるイベントで、毎年近隣から多くの観光客が訪れてくる。そんな町の代名詞(町花)であるひまわりの種をふんだんに使い、五穀米とブレンドした生地に練り込んだのがセルプ花オリジナルの「ひまわりパン」というわけだ。平成26年春の発売と同時に、ほのかな甘みと香ばしさが地域の人たちから高い人気を集めている。

また最近力を入れているのが、小山地区の名物である「桑の葉」を使った商品開発だという。この地域では昔から養蚕事業が盛んで、世界遺産結城紬の生産拠点となっていた。昭和31年まで、桑村という地名があったほど桑の産地として栄えていたのである。石橋須見江常務(75歳)はそんな伝統ある「桑」に目をつけ、施設で桑の栽培から加工、製品の製造販売までおこなうことを思いつく。

桑の葉には、植物繊維、カルシウム、カリウム、βカロチン、鉄分、ビタミンEなど、豊富な栄養素が含むとされ、健康に与える優れた効果が注目を浴びている。栃木県の太陽の光をたっぷりと浴びてパワフルに育った桑の葉を乾燥させ、パウダーに加工。それをもとにオリジナル桑製品を生み出そうという取り組みだ。

石橋常務のこの企画に対して、小山市商工会議所が支援を申し出ることになる。平成26年度小規模事業者地域力活用新事業全国展開支援事業「桑のミクスプロジェクト」となったのである。

「地域の商工会議所が福祉事業所と一緒になっておこなう取り組みという趣旨が、中央からも高く評価されました。私たちだけの力ではたいしたことはできませんが、小山市商工会議所と一緒に取り組めたので助かりましたね。桑の植栽から桑の葉の乾燥・パウダー加工、製品開発に至るまで、さまざまな専門家の知恵をお借りすることができたのです。これまでに桑茶、パウンドケーキ、クッキー、うどん、パン、饅頭など、複数のアイテムが開発されています。2015年2月には東京ビッグサイトで開催されたグルメ&ダイニングショーにも出品し、健康志向の商品として注目を集めたのですよ」

と、石橋常務。福祉と農業のコラボレーションは、現在もっとも注目されているテーマでもある。現在は衰退してしまった小山地区の地場産業復活に向けて、プロジェクトに対する行政や商工会議所、地元農家からの期待は大きいという。平成27年2月末には、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(六次産業化・地産地消法)」にもとづく農林水産省認定事業にもなっている。

古河の歴史普及プロジェクトに参加

野木・小山地区に続いて、古河地区の施設である「いちばん星」&「たんぽぽ」では、「こがにゃんこ」というご当地キャラクターを活用した「古河の歴史普及プロジェクト」に参加した。古河地区のエリアマネージャーも兼ねる「いちばん星」の永倉國秀管理者は、その経緯を次のように説明する。

「古河地区でも地域と連動した商品作りをおこないたいと考えていた時に、地元のプランナーの方からこがにゃんこプロジェクトへの参加要請がありました。発表されたばかりの可愛いご当地キャラクターを使って製品を作り、市民と共に歴史普及活動を手伝ってほしいという要望です。キャラクター使用料が免除されるだけでなく、パッケージデザインや製造指導、販売先までトータルで支援してくださるという申し出に、迷うことなく参加することを決めました」

「こがにゃんこ」とは、フリーデザイナーの小太刀御禄(こだちみろく)さんが2014年7月に発表したばかりの古河市非公認ご当地キャラクターである。江戸時代末期に活躍した、古河を代表する歴史上の偉人・土井利位(どいとしつら:第11代古河藩主)と鷹見泉石(たかみせんせき:古河藩家老・蘭学者)がモデルとなっている。2匹のネコの名は、「どいしゃむつら」と「たかみにゃんせき」。雪の結晶研究の第一人者であり、幕府老中首座にまで上り詰めた名殿様と、日本有数の蘭学者としてその名を全国にとどろかせた名家老。二人の存在をもっと親しみやすく知ってもらうために考えられたキャラクターなのだ。

「私が勝手に『古河を応援したい』という思いで描いたのですが、SNSで発信すると若い人たちから予想以上の反響がありました。新参者の古河市非公認キャラにもかかわらず、成人式に配布する記念品(ボールペン)に採用されたぐらいです。その後も、次々に各方面から活動を応援したいという提案が寄せられてきて、市内の事業者と組んだオリジナル製品開発も進んでいきました」

と、作者の小太刀さん。古河市内の障がい者施設とタイアップして、地域の新しい土産物にしようという企画もその一つであった。「こがにゃんこ」普及の動きに福祉施設が参加することで、活動には新たな価値が加わることになる。歴史普及と地域振興と福祉支援。三つの目的を備えた市民運動として、より多くの人たちにアピールしやすくなったのである。

キャラクターを型抜きしたオリジナルクッキーを開発

プロジェクトメンバーとともに、まず「たんぽぽ」が開発したのは「こがにゃんこクッキー」だった。キャラクターの形を、特注の金型で一つずつ抜いて焼き上げたクッキーだ。ラベルシールはもちろん、抜き型自体も作者の小太刀さんがデザインしてくれた完全オリジナル。クッキーにはおまけでキャラクターの木製タグがついてくる。これは愛知県の守山作業所に依頼したものであり、いわば施設間連携の意味も付加されているという。

「私たちだけでこれだけの製品を作ろうと思ったら、完成するまで何年かかるか分かりません。ところが企画が提案されてから製品ができるまで、一ヶ月程度でしたかね? パッケージの選定もラベルデザインも販売先も、驚くようなスピードで決定していきました。私たちが担当したのは、製品をつくることだけ。こんなに楽な商品開発はありませんでしたね」

と、石橋常務は笑う。クッキーのお披露目は、古河市で毎年開催されるスポーツイベント「サンスポ古河はなももマラソン」の日に決まった。販売会場は、JR古河駅ビル(VAL古河)の入り口特設会場という超一等地である。毎年11,000人以上ものマラソン参加者が各地から集まってくる駅の改札前で、古河土産として大々的に販売することができるのだ。クッキーの製造担当者であった大橋桃子支援員は、大量の数をどうやってつくろうか悩んだという。

「私たちの施設でもクッキーは製造していましたが、型抜きクッキーを作るのは初めて。しかもゼロから取り組んだオリジナルレシピだったので、製造するのは本当に大変でしたね。でも本当に可愛いキャラクターですから、売れるのは間違いありません。イベント前はてんてこ舞いでしたが、利用者たちも一緒になって楽しみながら作りました」

「いちばん星」でも、キャラクターの焼き印を押したあんパン(にゃんせき)とクリームパン(しゃむつら)を開発し、「たんぽぽ」のクッキーと三点セットで、VAL古河での販売会に参加することになった。どちらの製品もプロジェクトから送り込まれた加藤晃シェフが監修し、現地に泊まり込みで入念な製造指導をおこなっている。

二日間の販売会で、1000個以上の製品を完売

古河駅ビルでの販売会は、予想をはるかに超える売れ行きだった。売り場にたった「おおぞら」の大友瑞木管理者(当時は、「たんぽぽ」副管理者)は、そのときの様子を次のように語る。

「プロジェクト側から言われるがままに大量のクッキーを製造して当日に臨みましたが、万が一、大量に売れ残ったらどうしようと内心はドキドキでした。毎日深夜まで頑張ってくれたスタッフに、顔向けできませんからね(笑)。でも、そんな心配はまったく無用でした。二日間の出店で、用意した750袋のクッキーと320個の菓子パンはみごとに完売してしまったからです。もちろんある程度売れるとは思っていましたが、この数字は想像以上。やっぱり、キャラクターの力は強いです。『こがにゃんこ』パワー、恐るべしですよ」

販売会場では、ブースの飾り付け(販売台のまわりの腰巻ポスター、幟旗、商品ポップ)もプロジェクトメンバーが制作支援をし、ピンクの法被やオリジナルPP袋も用意した。さらに「こがにゃんこ」をPRするためのミニチラシを大量に用意。このチラシには、キャラクターの具体的な紹介や、土井利位や鷹見泉石についての簡単な解説も書かれている。ご当地キャラを通じて古河の歴史について少しでも興味をもってもらおうという試みだ。

永倉管理者は、販売会の時に子どもたちがネコの絵を見て「可愛い!」と喜び、親子で一緒にチラシを読んでいた姿を忘れられないという。

「クッキーやパンの販売を通じて、私たちが地元の歴史普及に役に立っていると確信できた瞬間でした。二日間で3,000枚ものチラシを配布できたわけですから、古河市民には相当『こがにゃんこプロジェクト』の趣旨を伝えられたと思いますよ」

古河の各拠点での委託販売もスタートした

VAL古河での販売実績を元に、「たんぽぽ」では「こがにゃんこクッキー」の販売委託先を次々に開拓している。古河のお休み処・坂長、道の駅・まくらがの里こが、古民家レストラン・サンローゼ…等々。もちろんVAL古河での常設販売や、市内大手ショッピングモール、ビジネスホテル、喫茶店等への委託販売も検討中である。

「ツイッターやフェイスブックを見て、『こがにゃんこ』ファンの人たちが道の駅や坂長にたくさん買いに行ってくれているようなのです。とても有り難いことですね。これからは市内のあらゆる場所で、どこでも当たり前のように購入できるようにする。それが私たちに与えられた使命だと考えています。キャラクター使用料をすべて寄付してくださっている小太刀さんへの感謝の気持ちに応えるためにも、頑張って営業活動を進めていきたいですね」

と、「たんぽぽ」の菅沼直登管理者。「いちばん星」の永倉管理者も、思いは同じだ。

「販売会に参加した二人の利用者(生井さんと冨岡さん)が、その後生き生きと働いている姿を見てプロジェクトに参加して良かったなとつくづく思いました。二人とも性格は違いますが、お客さんに必死で『こがにゃんこ』の説明をしているのです。しゃむつらやにゃんせきといったキャラの名前だけでなく、土井利位や鷹見泉石の名前まで説明しているのですから、職員顔負けです(笑)。これからも地域の歴史普及のために、私たち福祉施設も積極的に役割を担っていきますよ」

現在、社会福祉法人には積極的な社会貢献活動が求められている。しかし児童施設や老人施設と比較すると、障がい者施設のこの分野への参加状況は全国的にまだまだ遅れているのも事実。そんな中で、パステルによる「こがにゃんこプロジェクト」への参加は、非常に意義深いと言える。製品の販売活動を進めることがすなわち、地域の歴史普及にもつながる。まさに一石二丁の活動であり、就労系事業所が気軽に参加できる社会貢献活動として、格好の参考事例となるに違いない。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人パステル(栃木県野木町)
http://fukushi-pastel.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年07月01日)のものです。予めご了承ください。