Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人東京光の家(東京都日野市)
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東京光の家の概要
東京光の家は、障害者支援施設(訓練型)「光の家新生園」(入所支援事業・短期入所支援事業・生活介護事業・機能訓練事業)、障害者支援施設(就労型)「光の家栄光園」(入所支援事業・短期入所支援事業・生活介護事業・就労継続支援B型事業)、障害者通所就労施設「光の家就労ホーム」(生活介護事業、就労継続支援B型事業)等の障がい者支援事業を運営する社会福祉法人である。
この他にも、生活保護法による救護施設「光の家神愛園」、視覚障がい者の自立を支援する「光の家鍼灸マッサージホーム」、社会福祉法人による公益的な取組「地域交流センター」や、「光の家グループホーム(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・ペガサス)」等の共同生活支援事業も展開する。
法人の前身となるのは、1919(大正8)年に、日本の視覚障がい者に聖書の福音を伝えることを使命とした秋元梅吉氏(視覚障がい当事者)によって設立された「盲人基督信仰会」である。その後、太平洋戦争によって視覚を失った人たちの生活を保護する救護施設「光の家神愛園」が1955年に立ち上がり、1974年には仕事をして自立をめざす重度身体障害者授産施設「光の家栄光園」を開設。さらに5年後には生活・機能訓練をサポートする重度身体障害者更生援護施設「光の家新生園」も開設された。
2009年より2つの授産施設は新体系へと移行し、障害者支援施設(訓練型)「光の家新生園」と障害者支援施設(就労型)「光の家栄光園」(以下、栄光園)となっている。設立の経緯から、視覚障がい者を中心とする障害者支援施設であったものの、時代と共に利用者像が徐々に変化し、現在は身体障がいや知的障がいを併せもつ重複障がい者の利用者が大半を占めている。また近年では地域に知的障がい者の就労場所を求めるニーズも高まってきたことから、2013年より障害者通所就労施設「光の家就労ホーム」を開所。彼らの地域生活をサポートするグループホームの設立も続々と始まった。
また、盲重複障がい者がもつ可能性を世の中に訴える活動として、利用者の高橋正秋さんをリーダーとする「光バンド」を1989年に結成し(当時は「正秋バンド」)、日本全国各地で10回以上のコンサートを開催。スウェーデンやハワイ等、海外での公演も実現するなど、彼らの素晴らしい演奏が世界中の人々に夢と希望と感動を与え続けている。
点字図書の出版を初めとする栄光園の就労事業
「栄光園」の代表的な作業科目は、点字印刷物の制作である。メインとなるのは、行政から委託される広報物(市報、選挙広報)の点字版だ。日野市からの依頼が中心だが、国政選挙になると全国から要望される膨大な点字印刷物を作る必要がある。そこで日本盲人社会福祉施設協議会の点字出版部会が一括してとりまとめ、栄光園など点字印刷を行っている各地の障がい者事業所に振り分けるのだという。こうした点字印刷物の必要性は、障害者差別解消法が制定されて以降、少しずつ広まってきた。日野市からはゴミカレンダーや職員の名刺等の依頼があり、最近では視覚障がいのある社員への対応として、企画書など社内資料の点字化を依頼してくる一般企業も増えている。
もう一つの柱が、自主製品「ビジュアル・イーズ・ノート」の制作販売である。弱視などの視覚障がい者のために開発された手づくり製品で、青や茶色のインクで太くてはっきりした罫線で印刷されている(大きな枡目の方眼になっているシリーズもある)。これらはすべて当事者からの要望に従って企画されたものであり、日本点字図書館や日本視覚障害者団体連合等からも定期的に発注がある。
「基本的には弱視の方向け商品ではありますが、思わぬところから新しいニーズが生まれて驚くことがあります。用紙そのものを黒くして、白いペンで書くビジュアル・イーズ・ブラックなどは、その典型例です。視覚障がい者向けの『白黒反転』商品が、アイデアをまとめるのに使いやすいとデザイン関係者の間で話題となりました。一時は、全国チェーンの某雑貨店で取り扱ってくれたこともあったのですよ」と、就労支援係長の淺井紗和さん。
印刷からリング製本まで全ての工程を内製化するため、ニーズに応じた製品を提案することもできる。日野市内の保育園で子どもたちに配布するスケッチブックや、企業イベントのPRグッズとして重宝される「ビジュアル・イーズ・ブラック・ノートパッド&ホワイトペン」のセット(表紙に箔押しでネーム入れも可能)等は、以前は自主製品売上の柱となっていた。コロナ禍でほとんどイベントがなくなってしまった今、ノベルティ売上が激減してしまったのも現実だが、これらの製品は再び脚光を浴びる日が訪れることだろう。
視覚障がいのある人たちが働けるためのサポート
栄光園では、40年にわたって施設の一角にショップ「アガペ」をオープンしてきた。主に法人内の入所施設で暮らす利用者を対象とした日用雑貨店であり、タオル、石けん、シャンプー、リンス、歯ブラシ等々、多種多様な商品が所狭しと陳列されている。近隣の小中学校の指定上履き取扱店にもなっているため、一般のお客さんも利用するのだが、総勢約15名の視覚障がいのある利用者たち(毎日3名ずつが午前・午後の交代でシフト)が店員としてしっかりと対応するのだと、淺井さんは説明する。
「商品には点字で商品名と値段が書かれたシールを貼っていますし、音声レジを導入しているので、代金の受け渡しも問題ありません。たとえば『靴のサイズを教えてほしい…』みたいに、視覚に障がいがあると対応が難しい時には職員がサポートに行きますが、ほとんどは利用者さんだけで対応できています。もちろんここまでなるには、時間がかかったのも事実です。お客さんとの話し方、受け答え等の接客マナーを半年以上かけて学んでもらい、やっと独り立ちできるのです。利用者を3人体制としているのも、効果があります。仮に不慣れな新人が1人いたとしても、先輩たちがしっかり指導してくれるからです」
栄光園では、箱折りや紙折りなどの軽作業も受注している。ここで大切にしているのが、職員の手づくりによる「治具開発」だ。たとえばA4判の用紙を二つ折りにする時に、視覚が不自由だと紙の両端を綺麗に揃えて折ることが苦手である。そんな時、用紙の角がぴたりと収まるようなオリジナルの枠(治具)を用意するだけで、問題は一挙に解決してしまう。栄光園の職員たちはこのように、つねに利用者の障がいを思い浮かべ、「どんな治具を用意したら、作業性がアップするのだろうか?」ということを個別に考えているそうだ。
「治具といっても手づくりの本当に簡易なものですが、これがあるだけで作業効率はまったく変わってきます。時には自分でも目をつぶって作業を試し、どんな治具があったら便利なのかを想像していきます。これは私たちの間で昔からずっと続けていることなので、すっかり文化として根付いているのではないでしょうか」と、淺井さんは胸を張る。
「愛のある利用者支援」を大切にしたい
コロナ禍によって「ビジュアル・イーズ・ノート」シリーズを初めとする自主製品売上が激減する他、点字人口の減少によって、点字印刷部門の大幅な受注拡大は今後も難しいだろう。唯一の救いは、ここ数年でショップ「アガペ」の売り上げが急増していることだろう。
コロナ禍によって、外出できなくなった入所施設の利用者たちの店舗利用が非常に増えているのだ。購入した製品を届けてくれるサービスが好評で、グループホームや就労ホーム等の法人内施設からも生活備品の発注が相次いでいる。一般業者に頼むよりも素早く対応してくれるため、発注先を切り替えてくれた法人外の施設もあるという。結果として、これまで平均して1,500万円程度だった年間売上は2,000万円までアップし、栄光園全体の売上(約4,000万円)の半分近くを占めるに至った。
「今後の課題は、他の施設同様に利用者たちの二分化への対応でしょう。バリバリ働ける人たちへの新しい仕事の開拓と、重度・高齢化によってこれまでのような仕事が出来なくなった人たちの日中活動(作業)の開拓。それぞれを同時に行っていく必要があると考えています。まだまだ検討段階ではありますが、職員たちの間で少しずつ試行錯誤が始まっているところです」と、淺井さんは今後の展望を述べる。
どんな形になるにしろ、栄光園の基本は「愛のある利用者支援」であることに変わりはない。視覚に障がいのある利用者たちに「手を添える」「治具の開発」「可能性を見いだし、伸ばす」「喜びの共感」といった支援を徹底的に行っていく。なによりも「職員は大きな環境要素」であると考え、職員の日々の対応が利用者たちの未来を変えていくことを強く意識しているのである。
今後いかなる時代が訪れようとも、キリスト教の精神に則った理念をもとに長い年月をかけて積み上げてきた「愛と奉仕の心でこなす誠実な業務」の数々が、今後も着実に広がることを期待したい。
(写真提供:社会福祉法人東京光の家、文:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人東京光の家(東京都日野市)
https://www.hikarinoie.org
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年02月01日)のものです。予めご了承ください。