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一般社団法人プリントリード(東京都板橋区)

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一般社団法人プリントリード(東京都板橋区)

プリントリードの概要

プリントリードは、りそうとひかり」(就労継続支援B型事業)、「ジーコ」(就労継続支援B型事業)の2つの障がい者就労支援事業所を運営する一般社団法人である。法人の設立は、2016年2月であり、ある企業の倉庫の一画を借り、3ヶ月後に「りそうとひかり」が開所した。

主な作業は、ダイレクトメール発送代行作業、各種印刷全般、簡易作業、環境リサイクル等々である。この中でも中心となるのは、DM発送代行作業だという。A3ノビカラーオンデマンド印刷機2台を有し、印刷・折り・封入封緘・発送代行までを一括して請け負うことができるのが特色だ。そのため単純なDM発送作業と比較して、プラスαの付加価値が加わり、利益率が大幅に向上する。精神疾患のある方が半数を占める事業所であるにもかかわらず、基本給5万円(精勤者のみ:他は時給450円)という高い月額工賃を実現しているのは、このような工夫によるところが大きい。

利用者さんが集まってくれることの大切さ

「りそうとひかり」は今でこそ登録上の利用者定員(20名)を満たすようになったものの、利用者ゼロからのスタートだったと、飯田代表理事は当時の苦い思い出を語る。

「法人を立ち上げる前、私は事業所を開設することを優先して板橋区に来てしまい、土地勘がなかったので、最初の利用者集めにはとても苦労しました。歴史ある大きな法人が区内に複数ある中で、新参者の小さな事業所には、まったく興味を示してもらえなかったのです。ようやく一人目の利用者が契約してくれたのが、開所から5ヶ月が経ってからでした。この時のうれしさは、今でも忘れられません。よくぞ私たちの事業所に来てくれたと、職員みんなで大歓迎でした」

そんな苦労があるからこそ、利用者受け入れに対する考え方は、今でも寛容である。たとえ他法人から断られてしまった重複障がい者、精神疾患のある方、生活介護の判定が出た方、触法障がい者等であっても、受け入れる方向で考えていくのが飯田さんの基本的スタンスだ。

「最初に問い合わせがあったとき、面談もせずに断ることは絶対にしないでほしいと担当職員に話しています。たとえどんな事情を抱えていたとしても、まずは一度事業所に来てもらい、みんなが働く様子を実際に見てもらえばいい。後のことは、それから一緒に考えればいいと思うのです」

他法人から断られてしまう方等を現場に増やしていけば、(より高い工賃をめざす)就労事業を進めるに当たっては、大きなリスクを抱えることになるだろう。だからこそ普通は安全策に走ってしまう事業所が多いわけだが、飯田さんは「仕事のことは、どんな人でも慣れていけば何とかなります。職員みんながフォローしてあげれば、絶対に大丈夫」とポジティブに語る。これはやはり、開設時にスタッフ全員と苦労を分かち合った経験が大きいのかもしれない。

飯田さんと職員は今でも、利用者との会話の最後に「ありがとう」という言葉を付け加えるようにしているのだと言う。仕事がうまくできたときには、もちろん「ありがとう」と伝えるし、たとえミスしてしまっても、それを素直に報告してくれて「ありがとう」。体調が悪くて休むという電話をしてきても、電話してくれて「ありがとう」。「ありがとう」という言葉を繰り返すことによって、障がいのある人たちの心に働く喜びや自己肯定感が育まれていくことを願っている。

「小さな事業所が利用者に選ばれるためには、他の法人にはない大きな特徴を持つ必要があります。工賃の高さや働きやすい環境はもちろんですが、『できる限り利用者を受け入れて、一人ひとりに感謝の気持ちを伝えていく』ことを私たちは大切にしたいのです」と、飯田さん。

「どんな仕事でも断らない」から、次の仕事につながる

そんな方針は、仕事の受け方にも顕著に表れている。顧客からのどんな注文であっても、「基本的にはその場ですぐ断りません」。たとえ経験したことのない仕事であっても、「なんとか対応できないか、検討した上で返事をする」というのだ。

たとえば、宛先不明で戻って来た量のバックメール処分という仕事がある。宛名ラベルを剥がした上で、ビニールの封筒(燃えないゴミ)と中身の印刷物(燃えるゴミ)に分別し、紙ゴミは古紙業者に引き取ってもらうという内容である。顧客としてはできればトータルで引き受けてほしいのだが、そんな便利な業者はなかなか見つからない。飯田さんはそこにビジネスチャンスを見いだし、少しでも請負単価が高くなるように、あえて紙ゴミの処分という面倒な仕事まで引き受けているわけだ。

結果としてゴミ分別→古紙業者への運搬といったリサイクル業務だけでなく、事業所ゴミとして廃棄するロッカーの鉄くず業者への引き渡し(運搬業務)、官公庁の細かな物品調達業務の請負、除草作業…等々。まるで便利屋のように、さまざまな仕事が各方面から舞い込むようになった。「りそうとひかり」に相談すれば、何とかしてくれる…という信頼があるからこそ、仕事が次々と増えていくわけである。

「なかには苦労の割には利益がほとんどない仕事もありますが、担当者が困っているから私のところに相談が来るわけです。なんとか対応できないかと必死で調べていくと、自然と人脈やノウハウも拡がっていきます。それが新たな収入源を生むことになるし、もっと大きい仕事につながることもある。仕事がないこと以上に辛いことはありませんから、難しい課題も大変だと感じたことはないですね」と、飯田さん。

さらに新たな事業として、活版印刷にも参入することを決めている。安価なオンデマンド印刷が主流の印刷業界において、時代と逆行する取り組みにも思えるが、飯田さんの考えは違う。コスト重視の事業用印刷物と違い、昔ながらの質感(活版印刷による文字の凹み)を好む高級志向の顧客が、少ないながらも存在する。会社の役員等、特殊な世界で働く人たちの名刺、案内状の作成等である。

一般の印刷会社がほとんど対応しなくなってしまったそんなニッチなニーズでも、福祉事業所ならば事業として成り立つ可能性があるのではないか?社会的ステイタスの高い人たちとの取引が始まれば、そこからDM発送関係の新規開拓の道筋も開けるかもしれない──飯田さんの発想は、つねに一歩先を見つめている。

障がいのある人たちに「当たり前の生活」を!

何事も積極的に取り組むという営業方針を貫く「りそうとひかり」だが、めざしている世界はとてもシンプルである。飯田さんは、最後に今後の抱負について次のように語ってくれた。

「私がめざしているのは、それほど大袈裟なことではないのです。単純に、利用者の方が『ここで働けて良かった』と思ってもらえる施設になりたい、そして職員にも同じように思ってほしい──それだけです。1日しっかり働いて、家に帰ったら夕食を食べ、お風呂に入ってゆっくり休んでもらう。仕事をしていると、誰もが生き生きと輝いて見えます。そんな当たり前の生活を、障がいのある人たちにも普通に送ってもらいたいのです」

小さな法人だと謙遜するものの、「りそうとひかり」の設立後から3年後には、別拠点に就労継続支援B型事業所「ジーコ」をスタートさせており、B型事業所は今後もさらに増やしていく予定だという。法人が大きくなれば経営的にも安定し、利用者の障がい程度によって事業所ごとに作業内容を変えていくことも可能になる。

しかしどんな形態であるにしろ、B型事業所としての基本給(精勤の場合)5万円という金額にはこだわりたいという。せめてこれだけの給料がもらえれば、障害年金をプラスすることで、障がいのある人たちが親からの援助なしに、独力でグループホーム等の自立生活を送ることができるからだ。その目標を達成するために、職員たちは今、何をするべきか。飯田さんは自ら現場の先陣に立ち、スタッフたちを鼓舞し続けているのである。

(写真提供:一般社団法人プリントリード、文:戸原一男/Kプランニング

一般社団法人プリントリード(東京都板橋区)
https://www.printlead.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2023年03月01日)のものです。予めご了承ください。