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社会福祉法人江刺寿生会(岩手県奥州市)

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江刺寿生会の概要

江刺寿生会は、児童・障がい者・老人のあらゆる分野において福祉事業を手がける社会福祉法人である。その数は26事業所にも及び、法人内の職員の数だけで300人を超える規模だという。

障がい分野に関しては、えさしふれあい工房(就労継続支援B型事業)、ワークセンターわかくさ(就労継続支援B型事業)、わかくさ(生活介護事業)、ふれあい(相談支援センター)、鐘の鳴る丘(グループホーム)等を運営している。

作業科目は、えさしふれあい工房が縫製品・菓子製造、ワークセンターわかくさは米粉スイーツ製造、コーヒー焙煎、飲食店運営、箱詰めなどの受託作業である。どちらの施設も近年では共同で自主製品製造に力を注いでおり、さまざまなコンテストで優秀な成績を収める商品開発力が注目を浴びている。

えさしふれあい工房の大ヒット商品、「へるしーりんご」

まずは、えさしふれあい工房の大ヒット商品「へるしーりんご」から紹介しよう。これは、リンゴを薄くスライスして乾燥させるだけの単純な商品だ。しかし砂糖を一切添加せず、油で揚げてもいない。まさにリンゴそのものの美味しさを凝縮させたドライフルーツなのだ。ワークセンターわかくさの高橋絵里主任は、この商品が開発された経緯を次のように説明する。

「もともと江刺地区というのは、日本有数のリンゴの産地。広大なリンゴ畑が施設の周りにも広がっています。ところがある時、大きさが不揃いの果実や、台風で落下してしまった果実は、売り物にならないので廃棄されている事実を農家の人たちから聞きました。せっかく美味しいリンゴなのにもったいない。そこで開発されたのが、『へるしーりんご』でした。青森県ではリンゴチップがお土産として定着していますが、あれは油であげたスナック菓子。私たちは、体にもヘルシーで、余計なものを一切添加しないオリジナルのドライリンゴをめざしました」

カットするリンゴの厚さや、乾燥時間を試行錯誤の上、ようやく現在の形に仕上がった。リンゴは時間がたつと酸化して変色してしまうのが欠点だが、「へるしーりんご」はできるかぎり白さを保っている。口に入れてみると、まさにドライフルーツの食感ながらも、リンゴの味わいはそのまま。薄切り・厚切り・細かくカットしたもの(カットしたものの商品名は「さくさくりんご」)の3種類があって、それぞれ食感や味わいは微妙に違っている。しかしすべてに共通するのは、リンゴの美味しさが凝縮されている点だろう。

「おかげさまで商品は発売以来、大人気。ワークセンターわかくさが運営するショップとか、地域の産直ショップで非常に売れています。納品したらすぐ売り切れてしまうということの繰り返し。日本セルプセンターを通じて全国からのご注文もいただいています。もう少し生産体制を改善したいのですが、何しろ厚切りだと乾燥に48時間もかかるのです。これが美味しさの秘訣ですから、難しいところですね」

と、えさしふれあい工房の矢作(やはぎ)吉嗣(よしつぐ)主任。しかし近日中に大型の乾燥機を導入する予定であり、少しでも注文に応えられるように努力を重ねているとのことだ。平成24年度に岩手県が主催した「工賃引き上げ支援セミナー」でも、この商品はみごとに最優秀賞を獲得している。地産地消の商品であること。商品の持つ可能性。そして何よりもお菓子としての美味しさ。この三点が審査委員からの高い評価を得たのである。審査委員からは、「大切なのは、この商品の大きな潜在能力を販売にどうつなげていくか」との指摘もあったらしい。ぜひ全国のたくさんの人たちに食べてもらいたい。そう感じさせる素晴らしい商品だと思う。

ワークセンターわかくさでは、コーヒー焙煎&喫茶店事業を展開

ワークセンターわかくさが積極的に展開するのは、コーヒーの焙煎と喫茶店事業である。「蔵まち珈琲館」として、挽き立てのコーヒーを提供する店を市内に3カ所(ピーク時には5カ所)運営する。新鮮な生豆を人の手で一粒一粒厳選するピックアップ作業が生み出す濁りのない味わいは、市販のコーヒーでは味わえない美味しさだ。久保田博施設長は、その味を自信たっぷりに語っている。

「コーヒーの生豆には、どうしてもよけいな石や土くず、他の穀物などが混ざっています。大手のメーカーではこれらをそのまま焙煎機にかけて焼いてしまいますが、私たちは丁寧にピックアップ。この作業によって、驚くほど雑味のない美味しさを生み出しているのです。実際、うちのコーヒーじゃないと飲めないと言って、毎日お店に通ってくれる常連のお客さんもいるくらいなのですよ」

喫茶店の店番を、基本的に利用者だけに担当させているのもワークセンターわかくさの特徴だろう。施設が同居する江刺区総合コミュニティセンター内の店舗ならともかく、他の2店は市役所庁舎(江刺総合支所)、そして江刺中心部にある単独店舗である。とくに市役所庁舎などは、入り口付近にある好立地だ。市役所を訪れる市民の通り道であり、格好の休憩所にもなっている。そんな人通りの多いスペースでも、利用者だけで見事に店を切り盛りしているのである。

「もちろん職員は3店を定期的に巡回していますし、何かあったら市役所の人に助けてもらうようにお願いしています。お客さんも強い味方です。万が一、釣り銭を間違えることがあったとしても、『違ってるよ』と教えてくれているみたいですよ(笑)。はじめは市役所側も戸惑っていましたが、今ではすっかりお馴染みの風景になりました。ここは市町村合併によって支所となった影響もあり、営業的には厳しい状況なのですが、彼らが元気よく働く姿を町の人たちに見てもらえるのが何事にも代えがたいメリットですね」

と、久保田施設長(60歳)。喫茶事業は「ワークセンターわかくさ」「えさしふれあい工房」の事業を、町の人たちにアピールするための広報役という観点でも捕らえているようだ。

米粉のポルポローネが、第6回スウィーツ甲子園で最高賞に!

「蔵まち珈琲館」や地域の産直ショップで好評のスイーツを作っているのは、ワークセンターわかくさ第二作業所の「e米菓匠館」である。全国食味ランクで17年間連続「特A」を受けている地元・江刺の「金札米」の米粉のみを使用して、さまざまな焼き菓子を生み出している。最近では米粉パンというのはポピュラーになりつつあるが、米粉だけを使ってロールケーキ、ワッフル、クッキーなどの焼き菓子を作るというのはまだまだ珍しい。そのため、米粉の可能性をPRしたい胆江地方農業振興協議会は「米粉マップ(米粉を使った名産品のお店を紹介する観光ガイド)」を発行。この冊子でも「e米菓匠館」の米粉スイーツは大々的に取り上げられている。

そんな「e米菓匠館」が、2014年12月に開催された第6回スウィーツ甲子園でなんと「最高賞」という栄冠に輝いた。受賞したのは、日本セルプセンターが中心となって展開するHibicaブランドの一アイテム「米粉のポルポローネ」である。Hibicaとは、岩手・宮城・福島の東北三県の障がい者施設の高い生産技術を活かし、高い製品価値を持った製品を企画・生産・流通するプロジェクトだ。

菓子部門の監修としてプロジェクトに参加してくれた日本有数のショコラティエ・野口和男氏が、「e米菓匠館」の「米粉ポルポローネ」に目をつけ、チョコレートでコーティングすることでさらにレベルアップする商品になるはずだと技術指導を買って出てくれた。その結果生み出されたが、今回大賞を取った製品というわけである。小澤玲奈指導員は、指導の成果を次のように語る。

「トップショコラティエである野口さんの指導を直接受けられるなんて、滅多にないチャンス。チョコの扱い方の基礎から徹底的に教えていただき、自分たちでも驚くような商品になりました。材料のチョコを何度も暖めて冷ますというテンパリング作業を繰り返すことによって、味や照りや口溶け感がおどろくほど変化していくのです。技術を駆使したチョコであれば、それをコーティングするだけでまるで違ったお菓子に進化してしまう。本当に、魔法をかけたみたいです(笑)。これなら東京のデパ地下で売っても、まったく恥ずかしくないレベルの商品になりました。今回の受賞をきっかけにして、是非これから自信を持って積極的に営業展開していきたいと考えています」

久保田施設長によると、将来的に「ワークセンターわかくさ」「えさしふれあい工房」の2つの施設の食品部門は新工場として統合し、人気商品である「へるしーりんご」やHibicaブランドの「米粉ポルポローネ」などの生産力を拡大できるようにしていきたいという。これだけ可能性のある商品を次々と生み出す現場スタッフの技術力とセンスは、本当に素晴らしい。これからもどんどん、全国をあっと驚かせるようなヒット商品を届けてほしいものである。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人江刺寿生会(岩手県奥州市)
http://www.juseikai.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年04月01日)のものです。予めご了承ください。