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社会福祉法人福島縫製福祉センター(福島県福島市)

公開日:

福島縫製福祉センターの概要

福島縫製福祉センターは、社会事業授産施設と基準該当障害者福祉サービス就労継続B型事業を運営する社会福祉法人である。

施設の原点は、1937年に開所した福島市軍人援護作業所だった。陸軍の軍服や箱折りなどを提供する施設として設立された。終戦後は傷痍軍人や戦争未亡人の救済が目的の福島厚生授産所となり、1951年の生活保護法の施行によって保護授産施設へと変更。さらに1957年には、社会福祉事業法による第1種社会事業事業へと様変わりした。

つまり時代の流れの中で、つねに一般就労の困難な人たちを対象とした就労支援・自立支援を行ってきた法人なのである。そのため、施設を利用するのは障がい者だけではない。生活保護世帯、母子家庭世帯、障がい者サービスの対象にはならないような人たち等、さまざまな人が働いている(定員50名の内、障がい者は32名、それ以外の人は11名)。2006年からは、基準該当障害者福祉サービス就労継続B型の事業が始まった。

80年以上の歴史ある縫製事業

福島縫製福祉センターの主力作業は、その名の通り「縫製」である。設立から今に至るまで、取り組んできたのはほとんど縫製作業だけ。80年の歴史が紡ぎ出す伝統と技術によって、数々の製品を生み出してきた。

小室雅幸所長(51歳)は、具体的な作業内容について説明する。

「現在の中心は、幼稚園・保育園の園児服、小・中学校の制服、県職員の作業服といった仕事です。年間約4万点の衣服を製造しているのですが、これらの衣服製造が大半を占めています」

市内の学校(小学校3校、中学校2校)からは、制服指定販売店に任命されている。そのため秋の就学時健康診断の時には各学校へ出かけて行き、制服の発注窓口を開設。生徒一人ひとりの採寸を実施し、そこから春までに全生徒の制服製造がスタートするというわけだ。

「お客さんは完成した制服を直接当事業所まで取りに来ますから、入学式前の混雑ぶりはスゴイです。販売するのは制服だけではありません。学校指定の体操服も、業者から仕入れて用意します。制服と体操服で、事務所はほとんど埋め尽くされるほどです(笑)。成長期の子どもの服装サイズというのは、本当にまちまち。在庫切れしないように全てのサイズを多めに用意しておく必要があるのです」と、小室所長。

制服シーズンが始まると、工場は連日フル稼働の忙しさとなる。近年、縫製工場の海外移転が相次ぎ、国内の縫製工場は希有な存在になりつつある。そのため全国から飛び込みで発注依頼が来ることも多いらしいのだが、残念なことにピーク時にはとても手が回らないほどだという。

地域に開かれた授産施設

制服の製造直販事業を行うことにより、福島縫製福祉センターは必然的に地域の人たちが訪れる機会の多い障がい者施設にもなっている。この点について、小室所長は次のように語る。

「私たちの施設は、利用者さんへの技術指導、作業提供、自立促進が主な役割です。そのため仕事の中心は、問屋や販売店等への卸しが中心となっています。専門の営業担当も、受付を担当する事務職員もいませんから、本当は製造直販というのは少し負荷が重いのも事実です。でもそのおかげで、地域の人たちが気軽に足を踏み入れてくれるようになりました。小さな法人ですからあまり大した社会貢献活動はできませんが、少なくとも地域に開かれた福祉施設にはなってきたかもしれません」

事務所には、小学校や幼稚園から贈られた手づくりの感謝状が何枚も貼られていた。勤労感謝の日に子どもたちと教師が一緒にやって来て、プレゼントしてくれたものらしい。小学校の社会科の「町探検」という授業では、何人かの子どもたちがチームとなり、工場見学をしていくこともある。そんな時、子どもたちから頻繁に出るのが「学校の制服を受け取る時、お母さんとここに来たことあるよ」という一言だ。

「自分の制服を作っている工場だからこそ、その製造風景にはみんなとても興味があるみたいです。普段は静かな工場内が、その日ばかりは子どもたちの歓声で、とても賑やかになりますね」と、小室所長。

縫製技術をどうやって次の世代につなげるか

今後の課題は、「若い利用者たちに、どうやって縫製技術を伝えていくか」につきるという。高度な技術をもった利用者たちは少しずつ高齢化していくため、生産力も年々落ちている。できれば若い人たちに技術を伝承していきたいのだが、新しい利用者がなかなか見つからないのも実情なのだ。利用者定員数はピーク時の80名から、50名へと減員している(しかも、現在の在籍数は43名)。接客業などを希望する人が多い最近の若い障がい者にとって、技術取得に時間のかかる縫製作業は仕事としての魅力に乏しいのかもしれない。

それでも小室所長は、今のところ他の業種への事業転換や、新規事業を考えてはいないという。せっかくこれまで長きにわたって積み上げてきた技術と歴史があり、最先端のミシン等の高額な設備も多数導入している。定員数同様に半減したといっても、現在でも約1億円以上の事業収入もある。人手さえ確保できれば、国内縫製工場への需要はまだまだ期待できるはずなのだ。

そのためにも何とか縫製にこだわって、時代に対応した事業のあり方を検討中である。生活困窮者自立支援法が施行され、経済的困窮やひきこもり、孤立、虐待、権利侵害等の社会課題への対応が注目されている現在、障がい者という枠にとらわれずに「一般就労が困難な人たちに技術を授け、自立を促す」という社会事業授産施設の存在価値は、ますます高まっているようにも思える。小室さんたちの挑戦が、ぜひ新しい制度の中でもう一度見直され、発展していくことを期待したい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年08月01日)のものです。予めご了承ください。