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社会福祉法人光生会(鳥取県米子市)

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光生会の概要

光生会は、米子ワークホーム(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業)とワークなぎら(就労継続支援B型事業)の二つの障がい者就労系事業所を運営する社会福祉法人である。作業科目としては、米子ワークホームが印刷と受託作業(軍手の二次加工・カギ部品グリス塗り・料理箱組立)、ワークなぎらが受託作業(菓子箱仕切り折り)となっている。

中心となるのは、活版印刷の時代から印刷事業を展開してきた米子ワークホームだ。謄写版、和文タイプライター、活版、写植、電算写植…と続く印刷形式の変遷と共に、最新の機器をできる限り導入し、現在ではすべての工程を完全デジタルDTPシステムからカラーオンデマンド印刷まで)対応するようになっている。

その結果、全国的に非常に厳しい事業運営が続くといわれている印刷事業が中心であるにもかかわらず、鳥取県の平均月額工賃(約17,000円)を上回る24,000円という平均月額工賃を達成しているのが特徴である。

高い月額工賃を支える目標工賃達成指導員

米子ワークホームの印刷事業が順調に推移している理由は、どこにあるのだろうか? 鎌田真治施設長(53歳)に、その秘訣を伺ってみた。

「ご存じの通り、印刷事業というのはどこでも非常に苦しい運営を強いられているのが現状です。米子ワークホームも決して例外ではありません。平成3年頃が年商2億円という売上のピークで、それ以降は年々減少の一途をたどっています。現在は約1億円。ここ数年、横ばい状態ですね。こんな中でもなんとか現状を維持できているのは、目標工賃達成指導員を8名(臨時職員含む)配置している体制が大きいと思います」

目標工賃達成指導員とは、B型事業所における高い目標工賃を達成するために配置される職員のことだ。職業指導員と違い、あくまで工賃を達成するための作業員だから、基本的には印刷現場における作業に専念してもらう。印刷や製本、DTP作業など、多くの現場で障がいのある利用者たちが多数活躍している米子ワークホームだが、彼らに混じって各部門のエキスパートである職人が働いているのである。利用者中心だとどうしても落ちてしまう生産力を、彼らが参加することでカバーしようという考え方なのだ。

「印刷の仕事というのは、福祉施設であることは決して言い訳にできない厳しい世界です。納期はなんとしても守らないといけませんし、ミスしたらやり直すのは当然です。そのため、営業や制作には一般の印刷企業に在職していた経験者を採用するようにしています。数年前にはデザインができる職員に加入していただき、営業的に非常に大きな戦力となりました。預かった原稿を単純に活字化するのではなく、さまざまな提案ができるようになったことで、お客様からの信用が非常に高まったのです」と、鎌田施設長。

需要にあった的確な機器の導入も大切

米子ワークホームの印刷事業が比較的上手くいっているのは、需要にあった事業スタイルを選択しているところにもありそうだ。印刷事業というのは、日進月歩の世界である。つい数年前まで最先端と考えて導入した製造ラインが、あっという間に古びてしまうことなど日常茶飯事だ。そのため、顧客ニーズと自らが狙うべきターゲットをしっかりと分析し、営業部と製造部が一体となって方針を考えていかねばならない。これが少しでも狂うと、多額の資金を投じて導入した最先端システムもまったく無用の長物になってしまうのである。大規模に印刷事業を展開する事業所ほど、この選択に苦しんでいる。

米子ワークホームではその点、ターゲットを学校や官公庁や病院等の小ページ小ロット冊子に定めている。何万部も印刷するような商業印刷物などは、基本的には対象としていない。そのため、ここ20年の間に急激に進化を遂げてきた印刷機器のデジタル対応も比較的にスムーズに進んできた。現在では、最低限のデジタル組版からCTPシステム(デジタル製版)を完成させている。オフセット印刷、モノクロオンデマンド印刷、カラーオンデマンド印刷を組み合わせ、フレキシブルに対応できる生産現場を作り上げたのである。とくに最近導入したカラーオンデマンド印刷機は非常に効果があったと、鎌田施設長は、説明する。

「各団体の会報も、最近はほとんどカラー印刷となっています。こういう印刷物が私たちの仕事の多くを占めますから、カラーオンデマンド印刷機はまさにピッタリなのですね。この機械の導入により、スピードやコスト面でも他社に絶対に負けない体制が確立できました。最新型の機械ですから印刷品質も良く、お客様にも好評です」

年賀状にも注力。専門の営業担当を配置

もう一つの特色は、年賀状印刷に力を入れていることだという。もちろん印刷会社であればどこでも同じなのだが、米子ワークホームでは年賀状へのチカラの入れようが半端ない。なんと年末の2ヶ月間限定で専用の職員を配置し、受付から配送、集金に関するすべての作業を任せているというのだ。

「年賀状の売上は、約2,000万円。年商1億のうちの2割ですから、非常に大きいと思いますね。利用者の年末賞与は、年賀状の売上でまかなわれるくらいです。この仕事は、一件一件が非常に細かく、非常に神経を使わないといけません。そのため情報を管理するのは一人の方がいいと判断し、普段は受託作業の現場に配置している職員を2ヶ月限定で年賀状担当としています」

年賀状印刷のパンフレットはオリジナルで制作し、お客さんはその中から自由に好きなデザインを選択できるようになっている。デザインサンプルの品質は、大手プリント会社が配布しているものとなんら遜色はなく、価格も変わりない。それでいて注文表をFAXや手渡しで送れば、完成したハガキが自宅まで届くようになっている。パソコンが苦手な年配の方にとっては、非常に有難いサービスだろう。年賀状印刷においても、オンデマンドカラー印刷機が大活躍すると鎌田施設長は強調する。

「小ロット多品種の年賀状は、まさにオンデマンド印刷のための仕事です。新しく採用したデザイナーが制作するパンフレットもステキなので、お客さんからの評判はとてもいいですね。たとえ100 枚だけの小さな仕事でも、ここから別の仕事につながった事例もたくさんあります。決して派手ではないですが、小さな仕事をコツコツ積み上げるスタイルが、私たちにはとても合っているのです。

障がいの重度化と高齢化への対応が課題

最後に、今後の課題について伺ってみた。やはり障がいの重度化と高齢化への対応が問題なのだと、鎌田施設長は苦しい胸の内を説明する。

「印刷というのは、まだまだB型事業の職種としては価値ある仕事だと私は思うのです。しかし問題なのは、非常に高い専門性が求められること。印刷機を回すにしても、パソコン作業をするにしても、素人が簡単にできる作業は一つもありません。身体障がい者以外の利用者が働くとなると非常に難しいのです」

もうひとつの問題は、高齢化だろう。印刷現場で働くベテランの利用者たちは、現在の機械を使うには問題ない。しかし機械の進歩により、デジタル化された機械を扱うとなると、どんどん難しくなってくる。生産効率やニーズに対応するために最新機器を導入すればするほど、利用者たちの働く場を奪ってしまうのである。

こうした矛盾点を解決するために、ここ数年では受託作業を少しずつ増やしているのだという。冒頭でも触れた軍手の二次加工・カギ部品グリス塗り・料理箱組立などの受託作業は、もちろん印刷事業ほど高い利益をもたらすものではないが、どんなに重度で高齢の利用者でも作業に参加できるメリットがある。門戸を広くすることで、多様な利用者を受け入れることが可能になってくるのだ。印刷を中心にして展開してきた米子ワークホームでも、これからは広がりつつある利用者ニーズに対応したフレキシブルな事業展開が求められている。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人光生会(鳥取県米子市)
http://yonagoworkhome.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2017年03月01日)のものです。予めご了承ください。