Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人十百千会(熊本県下益城郡美里町)
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十百千会の概要
十百千会は、ワークセンターゆきぞの(就労継続支援B型事業)、生活介護センターゆきぞの(生活介護事業)、グループホームゆきぞの(共同生活援助事業)、相談支援センターゆきぞの(一般相談支援事業、特定相談支援事業、障害児相談支援事業)等の障がい者支援事業を運営する社会福祉法人である。
この他にも宇城圏域障がい者基幹相談支援センターきょうせい(基幹相談支援センター、虐待防止センター)、地域生活支援拠点(多機能型)の運営など、障がいのある人たちが安心して地域生活をおくるための各種サポートを行っている。
設立は1981年であり、今年度で創設40周年の節目を迎える。知的障害者入所授産施設(当時)として誕生して以来、時代の変化とともに就労支援施設としての機能も少しずつ高めてきた。2022年には現在分散化している拠点をすべて1カ所に集約し、より地域に密着した活動が展開できる体制を準備中である。
ワークセンターゆきぞのの作業科目
ワークセンターゆきぞのの作業科目は、次の通りである。
- ① タオルの下請け作業
- ② 農作業(椎茸・お茶・ミニトマト栽培)
- ③ 施設外派遣(農家の手伝い)
中心となるのは、①のタオル下請け作業だろう。九州ツバメタオル株式会社と提携し、支給されてきたタオル現反生地を自動縫製ミシン機で1枚ずつ裁断縫製し、検品、たたみ、袋詰めまでの仕事を請け負っている。昔は手動ミシンを使って行っていた作業工程に、1993年より最新設備を導入。いっきょに作業効率は上がり、売上高も約1.5倍に跳ね上がったという。
農作業では、椎茸栽培が大きな売上を占めている。施設の裏にある約5,000㎡の山林内に8,000本のクヌギの木を並べて植菌し、原木栽培している。タオル製造とともに創設時から続く伝統的な作業であり、香りも実も厚く食べ応えのあるゆきぞの椎茸は、顧客からの評価が非常に高い。時期によって生椎茸、乾燥椎茸の2種類を作り分けていて、出荷した分はすぐにすべて売り切れてしまうほどだ。
1989年から取り組み始めたミニトマトの水耕栽培も、順調に売上を伸ばしている。昨年度は台風被害によって2棟のうち1棟のハウスの天井が飛ばされる被害に遭ったのだが、順調に出荷が進めば椎茸を上回る売上が確保できる予定だった。被害に遭ったハウスはあえてお金をかけて元に修復せず、椎茸栽培用のハウスに用途変更するというアイデアで危機を乗り越えようとしている。天候に左右される自然下での椎茸栽培も、ハウス化によって収穫が安定。今後はさらなる売上確保が期待できるのだそうだ。
職員の意識改革をめざしたスキルアップ研修を開始
ここ数年、ワークセンターゆきぞのでは職員のスキルアップ研修に取り組んでいる。めざしたのは、「新体系になってから複雑化した障害福祉サービスの中身を、職員全員に知ってもらうこと」だったと、松本保孝施設長は語っている。その内容は、障害者総合支援法の体系や訓練等給付の詳細、障害支援区分、細かな報酬算定構造等など、普通なら管理者、サービス管理責任者等しか学ばないようなテーマが中心である。
「勉強会を始めた目的としては、新体系になり、法律の理念が見えにくくなっており、経営の中核となる報酬算定構造を学んでいけば、自分たちが目指すべき仕事の実体像が見えてくる。それは結果的に工賃向上や利用者支援の質の向上にもつながり、職員たちが一体となって経営改革に取り組む下地がつくられていくと考えたからです」と、松本施設長。
さらに2019年からは、厚生労働省「就労継続支援事業所における工賃・賃金の向上に向けた経営改善支援事業」の指定を受け、株式会社FVP(障がい者雇用・就労分野に特化したコンサルティング会社)から中小企業診断士の稲山由美子氏が派遣されてきた。彼女の経営指導の根本となったのは、障がい者施設といえども目標を明確に数値化し、職員全員が意識を共有化すること。なかなか福祉施設には馴染みにくい高度な要求も、「ウチの職員たちは無理なく受け入れることができた」と、松本施設長。すでにスキルアップ研修で数値には慣れていたため、全員が経営論のイロハを学ぶ下地ができあがっていたのだろう。
職員の意識が変わると、仕事も増えて工賃アップ
現在のワークセンターゆきぞのでは、四半期毎に工賃向上検討会議が開催され、目標に対する達成率と実績数字が部門別(担当者別)に明示されている。これだけの経営実態を共有すれば、「目標達成のためには、何ができるか?」をみんなが考えるようになる。その結果、会議でさまざまな意見が出されるようになったそうだ。
「たとえば販売先をどうやって増やそうかというテーマの話し合いで、『ホームセンターの生鮮売り場はどうだろう?』というアイデアが出てきました。地元の生産農家の方も直取引しているらしいという情報を入手したのです。この案はさっそく実行され、スムーズに契約が決まり、販売がスタートしました。また某食品メーカーが、下請けの作業の依頼先を探しているという話も会議で出され、さっそく会社を訪ねていきました。その結果、当事業所の年間総売上の1/3に相当するような大きな仕事が決定しました。職員が真剣に話し合うから、必然的に仕事が増えていくのだと私は思います」
このような経営改革の結果、以前は1万円にも満たなかった月額平均工賃は少しずつ上昇に転じ、現在は2万円を超えるまでになった(2019年実績は、23,294円)。新規の案件が次々に決まる2020年は、コロナ禍で工賃減少が心配されたものの、さらなるアップも期待できそうだ。
「私たちはあなたの『ゆめ』『よろこび』『ゆたかさ』の実現のため全力でサポートします」という法人理念を忠実に守るため、これからもワークセンターゆきぞのの職員たちは団結しながら新たなチャレンジを行っていくことだろう。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
障がい者総合支援センターゆきぞの(熊本県下益城郡美里町)
http://www.yukizono.com
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2021年03月01日)のものです。予めご了承ください。