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社会福祉法人長崎市社会福祉事業協会(長崎県長崎市)

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長崎市社会福祉事業協会の概要

長崎市社会福祉事業協会は、八坂授産場(生活保護授産施設)、ワークセンターほたる(就労継続A型事業・就労継続支援B型事業)の2つの就労施設を経営する社会福祉法人である。この他、大浦保育園、桐ノ木保育園、滑石保育園等の児童施設も運営している。

八坂授産場の設立は昭和22年と非常に古く、その後昭和31年に生活保護授産の認可を受け、平成19年には障害者自立支援法に基づく新体系「ワークセンターほたる」として新たにスタートした。

「八坂授産場」といえば、昔から縫製事業を営む福祉事業所として有名である。現在では清掃業務(ワークセンターほたる/A型事業)も展開しているが、縫製が中心業務であることに変わりはない。縫製業界が全体的に低調といわれる現在でも、最先端の機器を導入することによって福祉施設としては全国でも有数の生産力を保っている。

全国の共同受注第一号を担当

ところで、日本セルプセンターが積極的に推進している「複数施設の協働による共同受注」。そのスタートは、国立病院の白衣製造という縫製の仕事であったことをご存じだろうか? 当時はまだ設立したての中央授産事業振興センター(日本セルプセンターの前身)が営業活動をおこなった結果、全国の国立病院で使用されている白衣(看護服)製造約70,000着という仕事を獲得することができた。売上にして1億5〜6千万円という超大型の契約である。長崎市社会福祉事業協会の田中信春理事長(八坂授産場施設長)は、当時のことを懐かしげに説明してくれた。

「もともと八坂授産場では児童服の製造を大々的にやっていましたから、大量生産には自信がありました。とはいっても白衣の仕事は、1施設ではとても対応できないレベルです。縫製事業をおこなっている全国の施設の中から立候補をつのり、8施設が分担で製造を担当することになりました。まさに共同受注の第一号。この仕事によって初めて、共同受注センターという組織の可能性を多くの福祉関係者が理解したのではないでしょうか」

もちろん複数の施設で製造する白衣を、官公庁の厳しい審査基準に合格させるのは非常に難しいことであった。東京都田町にある日本縫製品品質技術センターの総合試験センターに8施設が何度も集まって試作や勉強会を繰り返し、やっと製作開始のゴーサインがでたのである。受けた以上はどんなに厳しい納期でも、必ず守らなければならない。大量生産には定評のあった八坂授産場ですら、必死で仕事をこなしていったのだという。

「仕事はもちろん大変でしたが、毎日フル生産となって当時の工場内には活気があふれていましたね。利用者たちのミシン技術も、仕事のおかげでどんどんレベルアップしていきました。工賃も飛躍的に上がりました。当時20,000円弱だった平均月額工賃が、40,000円程度になったはずですよ。工場に活気があふれて、技術も上がり、工賃もアップする。共同受注によるメリットの大きさを、身をもって体感しました」

と、田中理事長。こうした成功体験があるからこそ、その後NPO法人長崎県障害者共同受注センターの設立にも奔走するようになったのだろう。現在では同センターの理事長をも兼ね、長崎県全体の障害者施設の受注拡大のための役割も担っている。

その後も、最新型の機械を続々導入

残念ながら、現在では白衣の共同受注という仕事はほとんど消滅してしまった。2004年に実施された国立病院の独立行政法人化により、発注窓口が中央一括スタイルから地方分散型へと変化していったからである。民間業者の参入も相次ぎ、入札制度の導入によって受注価格も暴落していった。しかし大量の白衣を製造することによって得た製造ノウハウやスキルは、施設としての宝物になったと、田中理事長は言う。

「仕事が減ったとはいえ、縫製事業はまだまだ当法人の中心事業です。幼稚園の園児服、小学校の給食用白衣、病院のシーツなど、病院の白衣ほどではないけれど、大量生産の仕事はたくさんあります。こうした仕事をさらに効率よく進めていくために、長崎県障害者工賃引き上げ設備整備事業等を活用してここ数年で最新整備を導入してきました。」

データに従って、自動的に無駄なく布を裁断する「生地自動裁断システムP-CAM」
あっという間にポケットを縫い付けてしまう「ポケットセッター」

たとえば、カットした布をセットすると、折りから縫い付けまでを自動的におこなってしまう「ポケットセッター」。燕尾服の背広のボタン付けに効力を発揮する、「根巻きボタン付け機」。さらには多くのパーツを、一枚の布から最大の効率で自動的に切り抜いてしまう「生地自動裁断システムP-CAM」、等々。どれも昔は職人たちが手作業でおこなっていた行程を、あっという間に終えてしまう。作業効率は、手動に比べると軽く10倍以上になるという。

「他の施設同様に、ワークセンターほたるでも高齢化や重度化による生産性低下が問題になっています。これを補うためには、最先端の機械を導入していくしかありません。機械化によって、スピードアップと品質向上のダブル効果がありました。仕事さえあればもっと工場は稼働できるはずなので、白衣の共同受注のような大きな案件をこれからどうやって獲得していくかが課題でしょうね」

新事業として、トマト栽培に挑戦

ワークセンターほたるでは、現在の縫製(B型)、除草・清掃(A型)の他のもうひとつの事業の柱として、農業(トマト栽培)が進行中だという。農業といっても、採用したのはピーエスピー株式会社という企業が開発した「ポットファーム」という果実栽培プラント方式である。ポット苗とビニールハウスと自動管理プログラムがセットになった革新的なシステムで、農作業に関する高度なノウハウや経験が一切不要。車いすの障害者が収穫作業に参加できる点も、利用者の高齢化対応として最適だ。

新設するビニールハウス1棟の長さは、約7.5メートル×30メートル。この中に、500鉢のトマト苗ポットを設置していく。一鉢ずつ独立したポットで栽培し、毎年ポットを植え替えるため、土作り等の専門知識は不要だ。土壌病害に悩まされることもない。水やりもコンピュータ管理による完全自動化であり、ポットをハウス内にセットし、蔓を伸ばしていくと面白いようにトマトができていく。3月から10月までの半年間、トマトはほぼ毎日収穫できるのだという。

「一鉢から最低一個収穫できると仮定しても、毎日500個は収穫できる計算です。とりあえず実験プラントとして1棟のハウスを作りますが、成功したらさらに増やしていきたいですね」と、田中理事長。めざすのは、西海市の大島造船所によるトマト栽培事業なのだという。ここでは本業の不振によってやむなくスタートさせた副業(トマト栽培)が、奇跡のトマト『大島トマト』というヒット商品を生み出して大成功した。田中理事長が狙っているのも、まったく同じような世界である。

「『大島トマト』の中でも糖度9度以上のものだけを厳選した『ルビーのしずく』という商品は、一箱がなんと3,600円! それだけ出しても食べたいという人が続出するほど美味しいトマトです。せっかくなら私たちも、そんなレベルの商品を生み出したいですね。先方の担当者によると、ダイヤという品種がポットファーム栽培には最適らしい。水分補給を制限して栽培することで糖度が非常に高まるフルーツトマトであり、高級品として売り出せるはず。ぜひこのトマト栽培も成功させて、新しい事業の柱を作り出したいですね」

計画通り進行すれば、来年(2015年)の夏にはハウスの中は真っ赤なトマトでぎっしり埋め尽くされる予定だという。大規模な縫製事業で確固たる地位を築いた歴史ある法人によるチャレンジングな試み。ぜひとも多くの関係者と共に、その新事業の行方を見守っていきたい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人長崎市社会福祉事業協会(長崎県長崎市)
八坂授産場:http://www.n-socialwork.or.jp/jusan/
ワークセンターほたる:http://hotaru.n-socialwork.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2014年11月01日)のものです。予めご了承ください。