Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人若竹会(岩手県宮古市)
公開日:
若竹会の概要
若竹会は、わかたけ学園(施設入所支援事業・生活介護事業・自立訓練事業・短期入所支援事業)、自立生活支援センターウイリー(自立訓練事業・宿泊型自立訓練事業・短期入所支援事業)、SELPわかたけ(就労継続支援B型事業)、ワークプラザみやこ(就労継続支援B型事業)、あっとほうむLifeみやこ(共同生活援助事業)、はあとふるセンターみやこ(就労移行支援業・生活介護事業)(就業・生活支援センター)等の障がい者福祉サービスを提供する社会福祉法人である。
この他にも、サンホームみやこ、サンホームみやこ絆、ケアハウスサンホームみやこ、通所介護事業所ひだまり、グループホームサンフラワー等の高齢者福祉サービスも提供している。
若竹会が運営する二つの障がい者就労系事業所であるSELPわかたけとワークプラザみやこの特色は、ずばり地域密着であろう。北三陸の玄関口として有名な地元・宮古にこだわった製品を多数生み出すことで、利用者の自立と地域活性化の二つを目標として活動しているのである。
宮古の鮭を活用した鮭革細工
宮古名物の代表的な製品が、ワークプラザみやこが製造する鮭革細工だ。鮭といえば、岩手県を代表する海産物であり、宮古は最大の漁獲地。その「鮭皮」を加工して、名刺入れや財布などの革製品を生み出しているのだ。この製品づくりを始めたきっかけについて、ワークプラザみやこのサービス管理責任者・梅澤久美子さんは次のように説明する。
「もともと宮古で鮭革細工主婦の会という団体が、鮭革製品を製造していました。ところがその団体が解散することになり、私たちに加工技術を伝承してくれたのです。とはいっても、鮭皮をゆずって頂ける業者や、なめしをおこなえる業者については、自分たちで探さないといけません。とくに大変だったのが、なめし業者です。やっと見つけた加工業者も、魚の皮をなめすという作業自体が初めてのこと。試行錯誤しながら、ここ数年でやっと満足いくものができるようになってきたのですよ」
鮭の皮は南部鮭加工組合から譲り受け、施設で利用者たちが鱗取り、皮裏の脂取りなどの下処理をおこなっていく。その後、塩漬けして水洗い、さらに残った鱗を丹念に取る。こうして完成した鮭皮を専門業者に送り、なめした後に色づけ。ようやく「鮭革」に変身するというわけだ。完成した革素材は、とても魚の皮とは思えないほどの丈夫さである。使っていくほどに手になじんでいく肌触りは、高級な動物の皮となんら変わらない。梅澤さんは言う。
「魚の皮だと生臭いんじゃないかと思われる方がいらっしゃいますが、まったくそんなことはないですね。鱗の形が少しずつ変わっていて、色も微妙に違う。二つとして同じモノはないのが鮭革の最大の特色です。ヘビの皮とか、ワニ皮のクロコダイルといったイメージでしょうか。そう説明すると、とくに女性には好感を持たれるようになりますよ」
震災後、全国からも販売協力が続出
昔から鮭という魚は、縁記が良いとされてきた。大きくなって川に戻ってくる。災いを避け(サケ)る。小銭が戻ってくる。そんな言い伝えを大切にしてつくり出された鮭革細工。金運アップやお守りとしても最適のこの製品は、今や地元だけでなく日本各地からの注目を集めている。とくに東日本大震災後の東北支援活動の中で、注目商品として各方面からの問い合わせが殺到しているようだ。
「おかげさまでようやく、販売先が全国規模の商品に育ちつつありますね。なにしろ鮭革細工をおこなっている事業者は、日本広しといえども私たちだけ。まさにオンリーワンの事業なのです。鮭革加工に手間がかかるために大量生産できないのが難ですが、これからも三陸宮古を代表する海産物をアピールするためにも積極的に販売展開を図っていきたいですね」と、中村昌徳所長。
ワークプラザみやこでは、この他にもクリーニング事業や襖・障子の張り替え作業などもおこなっている。クリーニングは、施設の根幹を支えるメイン事業。法人が運営する高齢者施設を中心に、市内五カ所から仕事を受注。クリーニング事業が安定しているため、B型事業所としては全国平均から見ても比較的高い約33,000円という平均月額工賃を達成できているという。
SELPわかたけの弁当・製パン事業
若竹会のもう一つの障がい者就労系事業所・SELPわかたけでは、弁当製造や製パン・製菓などの食品事業を手がけている。どちらも地産地消をモットーとし、安心・安全な食材を使った手作りの味が自慢だ。サービス管理責任者の根市欣幸さんは次のように説明する。
「お弁当は、毎日300 食。地域の人たちに、一個からでも配達するのをウリにしています。地元の食材をふんだんに使った日替わり幕の内弁当や、ボリューム満点の二段海苔弁当がとくに人気です。夏期限定のジャージャー麺というメニューもあります。配達は市内4カ所に分け、4台の車で毎日おこなっています。職員一人と利用者一人がワンユニット。毎日朝の10時頃には、弁当を車に担ぎ出す作業でてんやわんやなのですよ(笑)」
製パン・製菓部門のブランド名称は「かとるか〜る4/4」。フランス語でパウンドケーキという意味だ。パウンドケーキというのは、バター、砂糖、卵、小麦粉を1/4づつ混ぜて作る。このことから、みんなのお店という意味も含め、「かとるか〜る4/4」と任命した。菓子工場は施設内に設置されているのだが、パンの製造は宮古駅近くのショッピングセンター・キャトル宮古内の店舗でおこなわれている。宮古市内で唯一のショッピングセンターの入り口という好立地にある、非常にオシャレな作りのパンショップだ。
「岩手県産小麦ゆきちからを使って焼き上げた食パンや、手作りのクロワッサン、季節ごとに変わる惣菜パンなど、丹念な仕事ぶりが地元でも評価されています。店名の由来でもあるパウンドケーキも人気ですね。地元でも有名なショッピングセンターに出店したのは、平成22年から。宮古駅から歩いて行ける距離にあるので、古くからのお客さんは『とても買いやすくなった』と喜んでくれているようです。昔のショップ(施設のそば)は、市街地からは車でないと来れませんでしたからね。事業的には少し苦戦も強いられていますが、施設のPRという観点からは効果大だと考えています」と、根市さん。
地域密着にこだわるシルク印刷事業
SELPわかたけのもう一つの主力事業が、シルクスクリーン印刷である。Tシャツ、ポロシャツ、タオル、エコバッグ等への名入れ加工や、オリジナルイベントシャツの作製などである。観光地としての土地柄もあり、宮古市では年に何回もイベントや祭りが開催されている。宮古鮭祭り、みやこ夏祭り、秋祭り、宮古産業祭り、復興支援市、等々…。近隣地域も入れると、毎月のように賑やかな祭りが開催されている。そのたびに企業名や団体名の入ったTシャツが必要とされるため、シルクスクリーン印刷の需要は非常に多いのだそうだ。
「名入れ印刷の他にも、オリジナルデザインのTシャツやタオルなども製造しています。鮭やウミネコなど、宮古の名物をモチーフにデザインした製品群が、観光土産として大人気。一年を通じて、市内のホテルや道の駅で売れています。秋のイベントシーズンになると、名入れTシャツの注文もピークになりますから、毎日遅くまでスタッフ総出で格闘することになりますね」(根市さん)
SELPわかたけの現在の平均月額工賃は、約25,000円であるという。クリーニング事業が柱となっているワークプラザみやこと比較すると劣っているものの、岩手県の平均月額工賃(約18,000円)からは大きく上回っている。もちろん、現状に満足しているわけでは決してない。仲田多加志施設長によると、引き続き工賃向上計画に則った独自の目標を策定。職員が一丸となって、着実に実績をあげるための取り組みを進めているのだという。
「東日本大震災後に一度落ち込んだ事業売上も、全国の皆様からのご支援によってなんとか持ち直してきました。しかし、大切なのはこれからの私たちの動きだと思います。パンや弁当の法人内需要をもっと高めたり、来年開催される国体をターゲットとした販売戦略も必要でしょう。もっと先を見据えるならば、超高齢化社会の到来に向けた老人向け配食サービスなど。さまざまな対策を今のうちから練っておく必要がありますね」
北三陸の玄関口・宮古の地に徹底して密着しながら展開されてきたワークプラザみやことSELPわかたけの事業。今後も宮古ならではのオリジナリティあふれる製品を生み出し、全国に向かって北三陸の魅力を発信し続けてほしい。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人若竹会(岩手県宮古市)
http://www.wakatakekai.or.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年11月01日)のものです。予めご了承ください。