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社会福祉法人維雅幸育会(三重県伊賀市)

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維雅幸育会(いがこういくかい)の概要

維雅幸育会は、上野ひまわり作業所(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、びいはいぶ(就労継続支援B型事業)、ふっくりあハウン(就労移行支援事業・就労継続支援B 型事業・就労定着支援事業)、ふっくりあフウス(生活介護事業・生活訓練事業)、ふっくりあモォンマール(就労継続支援A 型事業・就労継続支援B 型事業)等の障害者就労支援事業を中心に展開する社会福祉法人である。

この他、特定相談支援事業所ふっくりあ、全てにショートステイを併設したグループホーム、ふっくりあミニボ・ココウット・るーなこむり、地域活動支援センターふっくりあ、伊賀市基準該当居宅介護事業所ふっくりあアガットも運営する。

法人の特色は、施設外就労に力を入れているところだろう。その歴史は古く、1988年に奥西利江施設長(56歳)が一人で「上野ひまわり共同作業所」(無認可作業所)を立ち上げた時にさかのぼる。障がいのある人たちが地域の中で当たり前に暮らすためには、地域に出て行く必要がある。働く場も、できるなら施設内よりも地域の人たちと一緒の方がいい。

そんな考えのもと、施設外就労という概念がなかった時代から、地域の小さな企業や農業の手伝いをする仕事を行っていた。維雅幸育会では現在でも、就労系施設のすべてにおいて施設外就労を取り入れている。

大手企業の製造ラインで、たくさんの利用者たちが働く

とくに施設外就労に特化している「びいはいぶ」が、株式会社ミルボン(以下、ミルボン)、ロート製薬株式会社、チョーヤ梅酒株式会社、中外医薬生産株式会社、サラヤ株式会社等の大手一流企業と契約し、複数の利用者と職員がユニットを組み、製造ラインを中心に請け負っている。とくに2005年からスタートしたミルボンとの出会いが、その後の事業の方向性を決定づけたといっていい。

ミルボンは、業務用ヘアケア製品のトップメーカーである。高品質な製品群はプロからの評価が高く、全国の高級サロンで圧倒的なシェアを誇っている。そんな高級製品を製造するゆめが丘工場に、利用者、職員合わせて30名程(びいはいぶ所属は、20名)が毎日通っているのだ。工場内での作業内容について、副所長の菊田愛香さん(41歳)は次のように説明する。

「ミルボンの工場で担当しているのは、ラベル貼りやパッケージ詰め、梱包等のライン作業です。会社から事前に生産計画が手渡されてきますので、品質や納期といった計画を達成するために、自分たちが任されたラインに何人配置すればいいのかを、他の施設外就労先も含めて決めていきます。利用者ごとの得手不得手もありますし、全体のバランスを考えないといけません。この配置計画はとても重要ですね」

こう話す菊田さんだが、スタートした当初は失敗の連続だったらしい。生産計画に従って厳しく管理しながら作業を進めないといけないのに、マイペースで進めていくからノルマが達成できない。シールとパッケージの総数を事前にあわせておく基本的な作業手順を怠るため、作業完了時に誤差が出るとてんてこ舞いとなる。箱詰めした製品をすべて開けて、シールが貼られているかを再確認するといったムダが生じてしまう……。

ミスが起こるたびに、当時ミルボンの生産管理課係長だった村田輝夫さん(現・取締役生産本部長)に厳しくビジネスの基本を指導され、職員総出で夜遅くまで確認作業を行うようなことも日常茶飯事だった。事務所に戻ると「今日も失敗した」と泣きながら、奥西さんのもとに駆け寄る職員も多かったのだという。

今ではすっかり笑い話になったそんな苦い経験を乗り越えて、少しずつ会社からの信頼を勝ち取っていった。利用者はやり方を覚えてしまえば、真面目にコツコツ働くことにかけては誰にも負けない能力がある人たちだ。出勤率も、驚異的な高さを誇っている。よほどの用事がない限り、基本的には休まない。雪の日でも歩いて出勤してくるのは、びいはいぶの利用者だけだ。そんな誠実さが評価され、1ラインからスタートしたミルボンの仕事は、今では5ラインを任されるまでになった。

3:1の手厚い支援が、成功の秘訣

びいはいぶでは、どうしてこれほどミルボンでの仕事を軌道に乗せることができたのだろうか? その秘訣について、松村浩常務理事(57歳)は次のように語っている。

「まず第1にミルボン様の全面的なご理解と、ご支援があったからこそ。それなくして成功はありません。さらにもう一つ重要なのは、支援の手厚さだと思います。施設外就労をするとき、一般的には利用者6人に付き、職員が一人付く。つまり6:1の支援が普通だと思います。でも仕事の品質管理や重度障がい者への支援、食事やトイレの見守りなどを考えると、どうしても利用者3人に1人のサポートが必要だと私たちは考えます。こんな体制があるから、利用者たちの能力を最大限に引き出せるのです」

その役割は、正規職員はもとより非常勤職員も担っている。配置基準を超えた非常勤職員の人件費は、売上でまかなわなければならない。だからこそ、企業とはシビアに作業単価の交渉を行う必要がある。何十年も前から施設外就労に取り組んできた経験から、奥西施設長は支援体制の重要性に気づいていた。現場の生活支援を充実させれば、作業能力も向上して、企業から全幅の信頼を勝ち取ることができるはず。現在の成功は、そんな強い信念がもたらした当然の結果である。

「ミルボンのラインで働いている利用者の中には、施設内作業では能力が発揮できないような重度の障がい者もたくさんいます。でも環境が人を成長させるというのでしょうか。しっかりサポートしてあげれば、ライン作業の現場で驚くほど仕事に集中することができるのです」と、菊田さん。

彼女の説明に誇張がないのは、約70,000円という びいはいぶの現在の月額平均工賃が証明している。この数字は、B型事業所としては日本でもトップクラスの域に達している。施設外就労という事業形態を極めることによって、重度の障がい者でもこれほどの工賃を実現できることを見事に証明しているのである。

障害者就労支援のすべてのテーマが解決?

びいはいぶが取り組んでいる施設外就労。それは、障害者就労支援事業のあらゆるテーマを一挙に解決に導く可能性を秘めているのだと、松村常務理事も力説する。

「1つはもちろん、高工賃の実現です。仕事に対する評価が上がれば、企業側はしっかりした対価を保障してくれます。びいはいぶでも、まだまだ工賃向上をめざして職員たちの試行錯誤は続いていきます。

2つ目は、就職支援。ミルボンのラインで訓練していた利用者の中から、これまでに7人の人たちがミルボンへ就職しています。現在では、業務サポートチーム部門が新設され、就職した障がい者をトータルにサポートして、まるでびいはいぶで働いていたときのような職場環境を作ってくれました。利用者の支援方法については、担当者の方々と常に連携を図り、必要に応じてその方の特徴や特性を具体的に説明し、理解を得て頂いています。

3つ目が、定着支援です。一般就労を果たした後の見守り、支援はとても重要ですが、なかなか難しいテーマです。でも私たちが働いているのは、同じミルボンの工場内。いつでも相談に乗ることができるわけです。たとえば昼休みに、食堂で一緒にご飯を食べながら様子確認ができたり、少しおかしいなと思ったらすぐ声掛けできるので、とても安心ですね」

松村常務理事によると、このようなステップアップはもちろんのこと、高齢期を迎え、一般就労を終える人たちが、一般就労→A型→B型→生活介護とフェードアウトしていけるセイフティーネットの場としても、現在の施設外就労システムは力を発揮するのだという。

その昔、上野ひまわり作業所(当時は、知的障害者通所授産施設)においても施設外就労を中心に取り組んでいたとき、施設内で作業支援をしないのは授産活動に値しないと指摘され、「措置費」の返還を求められたこともあった。「施設外就労こそ就労系事業所の工賃アップの最終兵器」と、行政からも注目され始めている現在とは、まさに隔世の感がある。

ミルボンとびいはいぶが手を携えて行ってきた取り組みは、まわりの企業にも次々と波及し始めている。施設外就労には、企業の数だけ可能性がある。奥西さんたちは、この動きをさらに進めていき、いずれは日本全国に広めていくことを夢見ている。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人維雅幸育会(三重県伊賀市)
http://www.uenohimawari.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2019年05月01日)のものです。予めご了承ください。