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社会福祉法人筑紫会(茨城県桜川市)

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筑紫会の概要

筑紫会は、真壁授産学園(就労継続支援B型事業、生活介護事業、施設入所支援事業、短期入所事業、一般相談支援事業、特定相談支援事業、障害児相談支援事業、移動支援事業、日中一時支援事業)、真壁厚生学園(生活介護事業、施設入所事業、短期入所事業、グループホーム事業、日中一時支援事業)の二つの障がい者福祉サービス事業所を運営する社会福祉法人である。

就労に特化した事業所が真壁授産学園であり、1987年の創設以来ずっと障がいのある利用者たちの「働く・楽しむ・暮らす」を一貫してサポートしてきた。作業科目としては、農業、製パン製菓、軽作業、施設外就労、創作活動の5つで構成されている。

地域貢献も含めて年々拡大してきた稲作事業

真壁授産学園の作業の大きな柱と言えるのが、農作業(主に稲作)である。現在、施設近隣に点在する約7,000坪の水田で、コシヒカリを栽培している。稲作について、吉原大樹施設長(38歳)は次のように説明する。

「もともと農作業は、施設が立ち上がったときから積極的に行っていました。大根、白菜、ネギなどの各種野菜や、お米作りが中心です。当初は入所施設の給食用につくっていたのですが、収穫量が増えるに従って地域の小中学校や道の駅などに販路が広がっていきました。最近は、高齢化に悩む農家さんから真壁授産学園に田んぼを管理してほしいという依頼が多く、米づくりが農作業の中心になりつつあります。今年はついに1万坪を超える規模になりました」

しかし収穫量が増えたからといって、決して利益が増えるわけではないのが米づくりの難しさでもある。むしろ点在する田んぼの日常管理に人手ばかりがとられ、高い工賃をめざすという本来の目的とは相反してしまうのが現実だ。これまでは地域貢献のために可能な限り要望に沿ってきたが、そろそろ考え方を変える必要があると吉原さんは語る。

「普通に米を作っても、利益はほとんどありません。そこで昨年から、農薬も肥料も一切使わない自然栽培米にチャレンジしてみました。幸いなことに1年目から無事に収穫に成功し、通常米の5倍の価格で企業に購入してもらうことができました。わずか6俵ほどの収穫量でしたけど、今後に向けた可能性を少しでも見い出せたかなと思っています」

自然栽培米は、「蝶トンボ」と名付け、ブランド化した。蝶トンボというのは準絶滅危惧種に指定する自治体も多く、清らかな土地にしか生息しないと言われている。過去30年間、施設の周りで蝶トンボを見ることはなかったが、自然栽培を始めた田んぼで久しぶりに復活した。「農薬も肥料も使わずに手間暇かけて育てたお米」の価値を象徴するような出来事である。吉原さんたちが大切にしているのは、こうしたストーリーと自然栽培米づくりへの熱い思いだ。これを「付加価値商品を求めるユーザー層」にしっかり訴えていくことで、蝶トンボの売上は確実に拡大していくと考えている。

(写真提供:筑紫会)

「揚げたて、焼きたて、出来たて」 の3タテがウリのパン工房

もう一つの作業の柱が、製パン・製菓である。施設本体から少し離れた国道7号線沿いに「溶岩窯パン工房Makapan(マカパン)」というオシャレな店を構え、ここで製造から販売までを行っている。

「この店がオープンしたのは、2012年です。当初は多種類のラインナップを揃えたものの、他店との差別化がしにくいという欠点がありました。そこで2019年くらいから打ち出したのが、『揚げたて、焼きたて、出来たて』の3タテです。商品アイテムを思い切って絞り、揚げたてのカレーパン、焼きたてピザ、注文に応じてその場で調理する作りたてコッペパン等を、前面に打ち出す営業戦略に変えたのです。これが見事に当たり、地域の人からすっかり認知される人気店になりました。パンの詰め放題サービスを実施する周年祭には、開店前から50人くらいのお客さんが並んでくださるのですよ」と、吉原さんは嬉しそうに語る。

店の中に入ると、まず目を引くのが正面に設置されたピザ窯である。日にち限定(毎週土曜&月1回開催のピザウィーク)で、焼きたてピザ(マルゲリータ、トマトウインナー、季節の野菜等)の販売を行っている。多い日には50枚以上売れる、Makapanを代表する看板商品だ。

この他にも、溶岩釜で短時間焼成するために水分量の多いもっちりした「食パン」、カスタードクリームを毎日手作りする「クリームパン」、熟成バターをたっぷり使った「焼き食パン」&焼かずにそのまま食べると美味しい「生食パン」等々、さまざまな工夫を凝らした商品が目白押しなのだ。

「私のオススメは、その場で揚げるカレーパンでしょうか。揚げたてのカレーパンを提供するパン屋さんなんて、他ではなかなかないと思います。なんと言っても、揚げたて以上に美味しいものはないですからね(笑)。生食パンと焼き食パンのセットも、よく売れています。バスケット風の化粧箱に入れても560円ですから、ちょっとしたお土産用に最適みたいです」と、事業推進室主任兼店長の飯島正美さん(38歳)

「飛ぶように売れる」 商品の開発を模索中

真壁授産学園の課題は、現在20,000円程度の月額平均工賃を大幅に向上させることにあると吉原さんは語っている。そのためには通常の製品を作って地域で細々と販売しているだけでは、限界がある。専門家の指導のもとでコンセプトワーク、ブランド開発、マーケティング実践等をしっかりおこない、付加価値ある商品を生み出していく必要がある。そこで近年は、「『飛ぶように売れる』商品開発からマーケティングの実践手法の発信を実践するワークショップ」を実施し、本格的な商品開発に挑んでいる。(日本セルプセンター製菓部会事業)

「ここ数年製菓部会の研修会で、さまざまな施設のお菓子を食べてきましたが、どれも本当に美味しいんです。つまり、美味しい商品を作る技術力はほとんどの施設がもっていることがわかりました。むしろこれから必要になってくるのは、どんなターゲットに対して商品を開発し、どう売っていくかという販売手法なのかもしれません。そこで私は日本セルプセンターの製菓部会長として、Makapanをモデルとしたワークショップに取り組んできました。プロジェクトは現在も引き続き進行中で、ようやく試作品が完成した段階です。ぜひとも新商品開発を成功に導き、学んだノウハウを他の会員施設にも提供できるように頑張っていきたいですね」

重度障がいのある利用者たちへの対応として近年スタートさせた創作活動班(生活介護事業)の活性化等、まだまだ施設としての課題は山積みだと吉原さんは語る。しかし自然栽培米の収穫を初年度から成功させたり、「揚げたて、焼きたて、出来たて」というキーワードで地域の人気店を運営する職員たちの意欲があれば、今後の発展は大いに期待できることだろう。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人筑紫会(茨城県桜川市)
https://tsukushikai.jp/

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2020年07月01日)のものです。予めご了承ください。