Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人つかさ会(長崎県諫早市)
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つかさ会の概要
つかさ会は、ノーブル(就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業)、諫早ワークス(就労継続支援B型事業)、グループホームたちばな、グループホーム平山、ホリデースクール(放課後等デイサービス事業)を運営する社会福祉法人である。
作業科目はノーブルがふくめん(手延べうどん・そうめん・そば)・ちゃんぽん・皿うどんの企画販売やクリーニング類の包装であり、諫早ワークスでは①工業用ウエスの販売、②簡易作業の請負、③オンデマンド印刷、④施設外就労となっている。
法人のモットーは、「誰かのためにはたらきたい」という思いを大切にすることである。市民のために指定ゴミ袋を作る作業、自動車整備工場のために工業用ウエスを加工する作業、愛犬家のためにペットフードを作る作業……各々の仕事には、必ずそれを求めている人たちがいる。
誰かのために働くことが、利用者たち一人ひとりの暮らしと誇りを支えることになる──つかさ会ではそのように考え、障がいがあっても活躍できる社会の実現をめざしてさまざまな事業を展開しているのだ。
安定した品質のウエスと小回りのきく簡易作業
つかさ会の中でもっとも利用者数が多い障がい者就労支援事業所が、諫早ワークスである(諫早ワークス:定員36名、ノーブル:定員20名)。では、この事業所で実施している作業を紹介してみよう。
まずは、工業用ウエスである。従来なら廃棄されてしまう中古リネンなどを裁断し、リサイクルウエスを製造販売している。クリーニング工場や日本セルプセンターを通じて入手する中古衣料やリネン類を裁断・縫製し、各種工場・建築関係・商社・塗料卸・老人ホームなどの事業者に、セルプウエスとして販売する事業だ。年間で約25トンのウエスを製造し、総売上高は約700万円を超える。取引先からは丁寧な作りが評判を呼び、リピーターも多いという。
「ウエスの原料の中心はシャツやタオル類などの中古衣料なので、タグやボタンが付いたものが混ざっていると、現場ではその選別作業に苦労するのです。その点、当施設のウエスは検品がしっかりしていますから、不良品はほぼありません。日本セルプセンター・ウエス部会の基本方針をきちんと守り、検針器を導入した異物混入防止にも努めています。民間業者のウエスと比較すると価格は若干高くなってしまいますが、不良品がないのでかえってリーズナブルだとお客さんからはとても好評です」と、谷口健目標工賃達成指導員。
簡易作業の中心は、葬儀用品卸問屋から委託される香典返しの箱折り作業だという。年間で約50,000個の箱を折っているのだが、夏場と冬場に作業の大半が集中して大忙しとなる。この他にも、サンプル作成・訂正シールの貼り付け(ペットフードメーカー)、カタログやDM案内の封入封緘(運送会社、自治体、食品メーカー)、天ぷら紙三つ折りや箸袋入れ(食品会社)など、作業内容も発注企業も多岐にわたる。後述する印刷部門から生まれるチラシの三つ折り加工や景品袋詰めなどの仕事も、簡易作業部門の利用者たちが担当することがあるという。
印刷と施設外就労によって、月額平均工賃も向上
諫早ワークスが本格的な印刷事業部を立ち上げたのは、2012年のことである。長崎県障害者工賃引き上げ設備整備事業費補助金を活用して、最先端のオンデマンドカラー印刷機を導入した。新事業の狙いについて、志賀正幸理事長は次のように説明する。
「2012年に障害者優先調達推進法が制定されました。官公庁からの発注候補リストを見て、印刷物がとても多いことに気づいたのです。そこで私たちもオンデマンド印刷機を導入すれば、印刷事業に参入することは可能では?と考えました。当初考えていたほど簡単な仕事ではありませんでしたが、官公庁以外にも地元の小中学校、自治会からも定期的に発注いただけるようになりました。新たな地域とのつながりが生まれたのが、施設としては大きな成果かもしれません」
印刷事業に取り組んだもう一つの目的が、障がいのある人の在宅就労の可能性を探ることだったという。さまざまな理由によって施設に通うことが難しい利用者でも、インターネットでつながればパソコン作業が可能になるはずだ。知的障がい者を主な対象としてきた法人だけに、(身体障がい者が中心となって各地で成功事例が生まれている)在宅就労についてはまだまだ模索段階にすぎないと謙遜するが、新たな分野に果敢に踏み込もうとする意気込みには感服する。
さらに近年、力を注いできたのが施設外就労である。印刷と施設外就労の受注拡大によって、諫早ワークスの月額平均工賃は着実に上昇している。これまでなかなか突破できなかった30,000円の壁を、2020年にようやく突破することができたのは、2つの事業を積極的に進めたからだと志賀理事長は分析する。ペットフードの製造、福祉用クッションチェアーの検品、きのこ栽培の洗浄作業、等々。職員と利用者がセットで企業に出向いて、おもに時給制(600円〜700円)で請け負うため、施設内での作業よりも圧倒的に利益率が高い仕事になる。
もちろん、施設外就労ならではの悩みもある。「現在すでに毎日2〜3カ所の定期的な出向先があるため、スポットで除草作業や官公庁に出向いた封入封緘作業を依頼されると、同行する職員のやりくりが大変です。高い工賃の獲得と人員配置のバランスをどう保っていくかが、今後の大きな課題になっています」と、神崎副管理者。
「東北応援プロジェクト」 を実施
2011年より3年間にわたり、諫早ワークスでは「東北応援プロジェクト」という活動を続けてきた。第1回は宮城県(2011年9月)、第2回は岩手県(2012年8月)、第3回は福島県(2014年6月)で実施した。プロジェクトを始めた経緯について、志賀理事長は次のように語る。
「じつは東日本大震災があった2011年の3月8日〜10日に、私たちは数人で宮城県の障がい者施設『虹の園』を訪れているのです。虹の園が移動販売を始めるにあたり、すでに実践していた吉野ヶ里町社会福祉協議会(佐賀県)を紹介したのがきっかけで交流が生まれていました。大地震が起こったのは、私たちが地元に帰ってきた翌日のこと。お世話になった施設の皆さんが被災したことを聞いて、本当に心が痛みました。昔、長崎でも雲仙普賢岳の噴火があったときに、全国の皆さんからたくさんの支援をいただいたことがありました。その恩返しの意味もあり、東北応援プロジェクトをやろうということになったのです」
法人からは3名の職員と利用者がチームとなって現地に向かい、「そうめん流し」や「長崎カステラの提供」(宮城・岩手)、「瑞宝太鼓の演奏」(福島)を行った。カステラは長崎県内の施設・ワークショップあさひの自主製品であり、瑞宝太鼓の奏者も長崎県を代表する知的障がい者によるプロの演奏隊(A型事業所利用者)である。「長崎らしいイベント」を実施することにより、少しでも被災地に元気を届けたかったのだ。
津波で大きな被害を受けた町での活動はとても喜ばれ、仮設住宅で暮らす人たちや被災した施設の職員・利用者たちと一緒に、楽しいひとときを過ごすことができたようだ。また、現地で活躍するボランティア団体との交流も深まり、彼らの活動にも大いに刺激を受けたという。飛行機移動3時間、車移動5時間というハードなスケジュールだったが、「少しでも被災地のために」という思いがプロジェクトメンバーたちを支えていた。
「『笑顔のために汗をかき、愛する喜びを分かち合い、愛される感動を得る』というのが、設立時から変わらない当法人の基本理念です。必要とされる人たちに必要なものを届ける仕事は、福祉の職員冥利に尽きます。そんな考えに同調してくれる職員たちを、これからも増やしていきたいですね」と、志賀理事長は熱く語る。その思いを引き継いでいくメンバーたちがいる限り、つかさ会の障がい福祉事業は地域に着実に根付いていくことだろう。
(写真提供:社会福祉法人つかさ会、文:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人つかさ会(長崎県諫早市)
https://www.tukasakai.net
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2022年07月01日)のものです。予めご了承ください。