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社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)

公開日:

共生の丘の概要

 共生の丘は、共生の杜(救護施設)、障害者支援施設晴明(施設入所支援事業、短期入所支援事業、生活介護事業、日中一時支援事業)、就労支援事業所konomi(就労移行支援事業、就労定着支援事業、就労継続支援B型事業)、相談支援センターみつか・Ru(相談支援事業)、グループホームオーリー・テンハート(共同生活援助事業)等の障がい者支援事業を展開する社会福祉法人である。

 原点となったのは、1950年に設立された精神薄弱児施設(当時)喬晴院だった(当時の法人名は、社会福祉法人喬晴院で1952年認可)。その後鳩巣会と名称変更し、救護施設鳴鶴寮を運営していたのだが、時代の流れや利用者ニーズに即した事業を順次増やしていき、2009年には就労分野への取り組みもスタート。法人唯一の就労支援事業として、konomiは利用者数を着実に増やし続けている。

 さらに法人名を共生の丘へと変更し、現在の体制がほぼ整ったのは2011年のことである。新たな法人名が表すように、「障害を問わず、互いに人として共に生きる」という精神のもと、働くことにこだわった多様な事業展開を進めている。

社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)
社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)

事業の柱となるパン事業

 konomiの事業の柱となるのが、パン事業だという。施設長の鈴木通乃さんは、次のように説明する。

「うちのパンの特徴は、生地にこだわっているところでしょうか。菓子パン、惣菜パン、ドーナツパン…と何十種類ものパンを作っているのですが、すべて違う生地を使っています。たとえばハムチーズパンだったら、生地にバターをたっぷり練り込んで風味をよくします。チョココロネだったら、植物性の油脂を使って食感を軽くする…とか。1日に仕込む約30種類のパンは、数回に分けて異なる生地を使っているのですよ」

 こんな技が可能なのは、ミキサーもオーブンも発酵機も、すべて家庭用のような小さな機械を何台も使っているからである。生産効率を考えると信じがたい光景だが、パン教室に通ったこともある鈴木さんに言わせると「複数のパンを同時並行で作るには、かえって効率的」なのだという。開所当時のkonomiでは、小さな借家の一室をパン工房にしていたというから、その頃培ったノウハウが現在に活きているのかもしれない。

 焼き上がったパンやシフォンケーキ等は、その日のうちに1日5〜6か所、合計で30か所あまりの販売先に出張販売する。高等学校、大学、市役所、病院、銀行、デイケアセンター等の昼食用に買ってもらっているのだ。1日の出張販売による平均売上は約8万円。これにお中元・お歳暮・入園・卒園のお菓子の注文等をあわせると、パン類の年間売上は、約2,100万円となる(2023年度実績)。コロナ禍で出張販売先が軒並みなくなったときには、栃木県の補助金を活用して鹿沼のこんにゃく料理専門店と共同で、小麦粉を使わないグルテンフリーの食パン(米粉とおから蒟蒻ペーストを使用)を開発した。鈴木さんは言う。「この食パンは1斤700円と高価になってしまうため、栃木県内ではほとんど売れなかったのですが、就労移行のセミナー講師をお願いしている先生に食べてもらったら、すごく美味しいと大好評。ご主人が東京のデパ地下に出店しているらしく、そこでも取り扱ってもらえるようになりました。デパートですから、品質基準をクリアするのは本当に大変でした。途中で何度も挫折しかかったほどです。でもその甲斐あって、現在は自然食にこだわるコンビニチェーンからも商談のお話をいただいています。まだまだメイン商品と誇れる段階ではありませんが、これからの展開に期待できます」

社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)
社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)

宇都宮の観光名物・餃子づくりにも参入

 konomiの事業を紹介するときに、やはり餃子づくりに触れないわけにはいかない。事業所のある宇都宮市といえば、餃子の街である。駅前には餃子のオブジェが立ち、中心部には約30店舗の餃子専門店が軒を連ねている。毎年10月には餃子祭りも開催されるなど、宇都宮餃子は全国に知れ渡っていることは多くの方がご存じだろう。

「餃子事業は、飲食店をやりたいという前理事長の強い思いから生まれています。せっかくやるのなら、宇都宮らしい餃子づくりに取り組みたいと思いました。たまたま前事務所の近くにあった餃子専門店のご主人が、皮づくりから餡作り、焼き方に至るまですべてのノウハウを私たちに授けてくれたのです。おかげさまで宇都宮にあるどんな有名店の餃子と比較しても、遜色ありません。手づくりの皮はもっちりとして、餡はジューシーだとお客さんの評価も高く、観光客向け餃子専門店のきらっせ(本店や駅構内の土産物店)でも取り扱ってもらっています」と、鈴木さん。

 2020年1月には、事業所の角にある店舗(餃子処konomi)がリニューアルオープンし、広々とした空間で、餃子、ラーメン、炒飯等を楽しめるようになった。宇都宮駅からは少し離れているのだが(車で約20分)、観光シーズンには大谷資料館、道の駅ろまんちっく村への移動の途中に立ち寄ってくれるお客さんも増えているのだという。宇都宮餃子会にも加盟し、宇都宮餃子マップにも紹介されているからこそ、一般のお客さんが集まってくるわけだ。秋の餃子祭りにはもちろん参加し、2日間だけで毎年15,000個以上の餃子を売り尽くす。職員たちは1か月前から準備に追われ、イベント当日は鈴木さんも朝からずっと現場で餃子を焼き続けるのだそうだ。

「餃子会の会員店舗も、店主が高齢化のために少しずつ閉店するところが増えてきました。その中にあって私たちは、比較的若いスタッフが中心であるといえます。宇都宮餃子会におけるkonomiのブランド力は、今後どんどん高まってくるかもしれません」

社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)
社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)

就労移行事業にも力を入れる

 近隣企業・事業所等への施設外就労も、事業の柱である。病院でのリネンピッキング、卵焼き工場での箱組み立て・シール貼り作業、病院、JA、フラワーショップ内の清掃等の作業請負だ。事業所内で行うタオルの畳み等の軽作業と合わせると、年間で1,500万円程度の売上(純利益)となる。こうしたさまざまな作業を積み重ね、konomiの月額平均工賃は58,000円(2023年度実績)を達成した。現在、利用者36人のB型事業所として、非常に高いレベルにある。そしてもう一つ、鈴木さんが大切にしているのが就労移行事業である。

「県内では高い工賃を達成するB型事業所として評価されつつあるとはいえ、全国を見渡したら上はキリがありません。一般就労を希望される方であれば、ぜひとも外の世界にはばたいてほしいです。そこで力を入れているのが就労移行支援事業で、就労トレーニングを重要視しています。印象戦略家、アナウンスアカデミー、マネープランナーといった一流の講師をお招きし、就労マナー、身だしなみ、面接の訓練、基礎メイク学、お金の使い方など、社会人としての基本を徹底的に学んでもらうのです。就労移行は2年間が基本ですが、1年間体験してみて就労への意欲が低いと判断された方については、2年目の契約はしないルールを徹底しています。その代わり、意欲がある人にはしっかり就労サポートをしますので、終了後の就職率は100%。定着率も高く、着実に成果が生まれているといって良いでしょう」

 konomiという事業所名には、「きっとみつかる、あなたコノミのステキな居場所」という意味があるらしい。「すべての利用者さんが自分の意志を持って行動できるように」「働くことがリカバリーにつながる」という発想のもと、多方面からの就労支援を行っていく。これからも、利用者たちにとって働きやすい職場が次々と生まれていくことを期待したい。

社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)
社会福祉法人共生の丘(栃木県宇都宮市)

(写真・文:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人共生の丘】
https://www.kyouseinooka.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年08月01日)のものです。予めご了承ください。