Reportage
SELP訪問ルポ
特定非営利活動法人カラフル・コネクターズ(東京都墨田区)
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カラフル・コネクターズの概要
カラフル・コネクターズは、就労継続支援B型事業所カラコネオフィス(以下、カラコネ)を運営するNPO法人である。最大の特色は、東京都屈指の集客力を誇るという老舗銭湯・御谷湯の5階建てビルの2階に事務所を構えているところにある。その経緯について、代表理事のボーン・クロイドさんは次のように語る。
「私は以前、他の障がい者就労事業所に勤めていた時に、御谷湯さんから清掃作業を受託していました。2015年に御谷湯が老朽化のためビルを建て替えるにあたり、オーナーから『2階に事務所も用意するから、銭湯の清掃作業を中心にした障がい者の事業所を作ってみては?』とお声がけいただき、カラコネオフィスを立ち上げることにしたのです」
運営目標として、①20,000円以上の高い工賃の実現、②一般就労にも力を入れる、③地域貢献ボランティアを活発に実施、④お楽しみ行事も欠かさない、という4つの柱を建てた。地域コミュニティの象徴ともいえる銭湯を舞台にして、障がいのある人たちと地域住民たちが自然に触れあい、多様性を認め合う社会づくりをめざし、さまざまな活動が展開されている。
御谷湯の清掃作業
中心となる仕事が、銭湯の清掃である。墨田区内にある「御谷湯」と「薬師湯」という2つの銭湯から業務を任されているのだ。サービス管理責任者の小嶋康之さんによると、利用者たちの1日のスケジュールは次のようになっているそうだ。
まず利用者たち(現員は18名)が出勤すると、朝礼でその日の担当が告げられ、2班に分かれていく。「御谷湯」は事務所と同じビルの1、3〜5階にあるのだが、「薬師湯」へは車で移動することになる。
職場に着くと、さっそく清掃の始まりだ。浴槽や床、ポスト(洗い場の鏡周り)、トイレ、脱衣室床、ロッカー等、毎日綺麗にしなければいけない設備は、銭湯には山のようにある。大きな浴槽内にしゃがみ込んで手作業で垢を落とす、あるいは広い洗い場の床をポリッシャーで磨くという作業は、想像以上に体力を消耗する仕事だ。とくに洗剤で洗ったあと、湯をバケツに汲んで流していくのが、もっともきついらしい。全体を洗い終えたら、今度は水垢が残らないように丁寧にから拭きする仕事が残っている。パワーとダイナミックさに加え、繊細さも求められる難しい仕事なのだ。
「本来、銭湯の清掃作業というのは営業後、まだお湯が冷めないうちに行うのが主流なのですが、御谷湯さんではオーナーの方針で営業前に行っていました。開店の15時半までに準備をすればいいので、私たちの仕事として最適だったのです。机に座ったままの事務仕事よりも、体を使う仕事を好んでいた利用者さんが多かったことも、この仕事に特化できた大きな要因でした」と、小嶋さん。
全国的に、一般公衆浴場(銭湯)の数は年々減少していると言われている。顧客数の減少、燃料費の高騰、設備の老朽化等が主な原因だが、事業者自身の高齢化も大きい。清掃作業に相当な体力を使うため、後継ぎがなかなか見つからない状態なのだ。その点、カラコネには体力のある労働者が多数いた。仕事を発注したい銭湯と、仕事を探している障がい者事業所。いわばWin−Winの関係で、2つの組織のコラボが実現した。
もちろん、銭湯の清掃以外の仕事も数多い。近隣ビル、居酒屋、福祉施設、町内会館など約10カ所の施設外清掃も請け負っているし、地域情報紙のポスティング、畑作業、内職作業といった作業もある。銭湯内で販売するカプセルトイグッズ用のオリジナル景品として、「サウナの神様・トントゥ粘土人形」、「サウナバッヂ」、「アクリルスタンド」、「クリアポーチ」、「ペンケース」なども製作する。こうしたカプセルトイグッズは大人気で、2週間単位で景品を新たなものに入れ替える必要があるほど、完売してしまうことも多いという。
1/4の利用者たちがめざす一般就労
カラコネのもう一つの特徴は、就労継続支援B型事業所にも関わらず一般就労に力を入れているところにある。利用者の中から「一般就労をめざしたい」という希望が寄せられた場合(あるいは入所時)には、就職に向けた独自のプログラムをスタートさせる。就労移行支援や定着支援等の事業を運営しているわけでもないのに、3人ものジョブコーチを配置しているのだ。その結果、毎年4名前後が地域の企業に就職し、職場の定着率も100%。就労移行支援体制加算(※)が付くため、事業収入の安定にもつながっている。
「一般就労にこだわっているのは、昔から私がジョブコーチの仕事に関わってきたことが大きいです。結果もしっかり残してきました。大袈裟に言うと、その人の人生が変わっていく瞬間に立ち会えるので、どうしてもこれはやりたかったのです。当初は就労移行とB型を併せた多機能型を検討しましたが、制度に縛られたシステムになる可能性があるため見直しました。私たちのプログラムは2年という時間制限はありませんから、その人にとって無理ないスケジュールで進められます。もちろん大半の方は6ヶ月で、就職へとステップアップしています」
ここにこそ、カラコネを設立したボーンさんの基本理念があるのかもしれない。3万円以上の月額平均工賃を目指すと目標を掲げつつも、その数値をさらにあげることはめざしていない。もっと高い工賃(給料)を希望する方には一般企業への就職を促し、それをサポートするのが自分たちの役割だと考えているわけだ。
現在、カラコネの利用者のうち、約1/4の人たちが一般就労コースを選択し、就職に向けた各種プログラムに取り組んでいる。就労先としては、商品のピッキングを行う倉庫作業、高齢者介護施設の支援員補助、清掃会社、さらには事務系の仕事もあるという。もともとハローワーク経由で利用者が紹介されてくることが多いため、担当者同士で本人の職業適性についての共通理解が出来ている。1人ひとりに適した仕事の確保(ハローワーク)と職業教育(カラコネ)が連携しあっているからこそ、これだけの就労実績を残しているのだろう。
(※)就労移行支援体制加算……就労継続支援B型の利用者が企業などに就職し、そのうち1人以上が雇用継続6か月に達する(6か月間雇用される)と、その翌年度の1年間、事業所の利用者全員に対して基準に準じた加算額が付与される。
地域交流こそ、障がい者福祉の原点だ
地域交流活動への参加も積極的だ。ボーンさんは、その意図を次のように説明する。
「私は、障がいのある人でも地域社会の担い手になれることを知ってもらいたいと考えています。障がいのある人は、まわりに助けてもらいながら生きていくと思われがちですが、そんなことはありません。あくまでギブ・アンド・テイクの関係を構築したかったのです。今の時代、生きづらさを抱えているのは、自分たちだけではないはずです。地域の中でより困っている人たちに対して、障がいのある人自身も手を差し伸べていく──そんなボランティア活動を利用者さんと一緒にいくのが、設立当時からの方針でした」
事業所がある石原地区というのは、墨田区の中でも地域活動が盛んなのだという。そのため、牛嶋神社例大祭、夏祭り、ラジオ体操、消防団、地域清掃等への参加はもちろん、NPO法人てらたま協議会とも連携し、寺島なす復活プロジェクト、皆がつながるプロジェクト、まちなか農園プロジェクト等、まわりと一緒になってまちづくりに取り組んでいるのだ。今では利用者たちの顔は地域住民にもお馴染みとなり、カラコネの名前もすっかり定着した。
御谷湯と共同開催する「施浴」も、大切なボランティア活動だ。高齢化が進み1人では外出できなくなった方、認知症の方、車いすの方等々にも銭湯を楽しんでもらおうと、墨田区社会福祉協議会、地域ボランティアの協力によって定期的に開催している。要支援または障がい者手帳を持った方を対象とする「福祉型家族風呂」を備えている御谷湯だからこそ、このような活動が実施できるのだろう。開催日は銭湯の定休日となる土曜日だが、利用者も職員も喜んで出勤するという。
日常業務以外にもこうした地域交流活動を積極的に展開するのは、代表であるボーンさんの信念によるところが大きいだろう。横浜で育ったというボーンさんは、小さい頃から日本社会の中で自分がマイノリティであることを意識しながら育ってきた。30代になってから仏教系の大学で死生学を学び、人の尊厳や人権、よく生きることの意味を探求するようになってから、福祉の仕事を志したのだという。
「障がいのある人への差別と偏見は、なぜ起きるのか。それは彼らが地域社会に溶け込む機会がないからです」と熱く語るボーンさん。だからこそ、仕事でもボランティアでも、利用者たちが地域の人たちと交流を持つ機会を増やすことを大切にする。カラフル・コネクターズという法人名には『多様性を認め合える寛容な社会を目指す』という意味が込められている。福祉を変えたいとうカラコネの熱い思いは銭湯の熱い湯のように、これからも沸々とわき上がっていくことだろう。
(写真提供:NPO法人カラフル・コネクターズ、取材:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人カラフル・コネクターズ】
http://colorful2015.starfree.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年03月01日)のものです。予めご了承ください。