Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人徳島県手をつなぐ育成会(徳島県美馬市)
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徳島県手をつなぐ育成会の概要
徳島県手をつなぐ育成会は、「ルキーナ・うだつ」(生活介護事業・施設入所支援・短期入所支援事業・日中一時支援事業)、「スカイピア」(就労継続支援B型事業)、「ちゅうりっぷ」(就労継続支援B型事業)、「イノセント」(児童発達支援事業・放課後等デイサービス)、「相談支援センター・イノセント」(一般相談・特定支援相談・障害児相談事業)、グループホーム「フローラ」「ワン・ロック」(共同生活援助事業)等の障がい者支援事業を行う社会福祉法人である。
スカイピアは、法人として初めて取り組む就労系事業所として、2013年6月にオープンした。作業科目は、藍の栽培、Tシャツプリント、清掃作業、自動車部品組み立て等の軽作業を主力とする。地域との共存を大きなテーマとして掲げ、できる限り地域で働けるような場を用意してきた。その結果、一般就職に結びつく利用者たちも増えている(2023年度実績は、下半期だけで3名)。月額平均工賃は、32,000円。美馬市内ではでもっとも「高い工賃」を支払う事業所として、確固たる地位を確立しつつある。
人的ネットワークを駆使して営業につなげるTシャツプリント
スカイピアを代表する作業といえば、Tシャツプリントだろう。シルク印刷ではなく、カッティングマシンやホワイトインクも出力できるレーザープリンターを駆使した熱転写方式を採り入れているのが特色だ。サービス管理者の三木修さんは、次のように説明する。
「私たちの強みは、少ロットのオーダーにも強いことだと思います。当初はインクジェットプリンターを使っていたのですが、出力に時間がかかりすぎることがネックでした。レーザープリンターを導入してからは、その悩みも解決されました。ホワイトインクも出力できるため、デザインの幅が広がります。単色モノについてはカッティングマシン、カラーモノについてはレーザープリンターと使い分けています」
主なユーザーとしては、地域のスポーツクラブ、飲食店、企業等であるという。孫やペットの写真をプリントしたTシャツを1枚だけ作りたいという個人や、十数名のチーム名を入れたユニフォームを作ろうという団体、イベント用のスタッフTシャツを1,000枚作りたいという企業等、さまざまなニーズに対して柔軟に対応する。
とくに力を入れているのが、各種業界の著名人にアンバサダー(応援団)となってもらうオリジナルデザインシャツの販売だという。三木さんが現役のアームレスラーであることから世界チャンピオンともつながりがあり、スカイピアで独自にデザインしたTシャツを無償提供。チャンピオンの私服として着てもらっている。管理者の三宅浩司さんは、その営業方針を解説する。
「一般の方にはほとんど知られていない業界とはいえ、仲間たちの間では影響力はとても大きいのです。世界チャンピオンの着ているシャツをほしいという熱烈なファンは多く、SNSで広めてもらうたびに注文が舞い込みます。もちろんデザインによって当たり外れはあるのですが、多いときは1デザインで100枚以上も売れるケースもあります」
著名人を活用した同様の販売方法は、アームレスリングだけでなく音楽業界(YouTubeを舞台として活躍するバンド)にも広がっている。三木さんの人脈をフル活用し、そこに三宅さんが営業を仕掛けていく──二人のタッグによる理想的な関係が、プリント事業を着実に成功へと導いてきた。今後はさらに、ペット業界への進出も夢見ているのだという。「趣味で始めた私のTikTok動画(飼い猫)が好評で、現在7,000人のフォロワーがいます。もし10,000人を超えたら、ペット用のオリジナルグッズを作ってアピールしてみたいなと考えています」と、三宅さん。
製品への応援団を募り、彼らに広告塔となってもらう。それを見たファンがSNSを通じて、情報をどんどん拡散していく…これはまさにアンバサダーマーケティングそのものであり、実に理のかなった販売方法でもある。コロナ禍で軒並み各種イベントが中止となった時でも、これを機にユニフォームを新しくしようという新しいニーズが生まれたらしく、売上はむしろ上がったというのだから恐れ入る。事業所全体の売上の大半(約8割)を占める事業だけに、今後の営業展開が大きな鍵となるだろう。
地域文化への貢献(藍栽培)と、地域で働くことを目指す(施設外就労)
これに対して、藍の栽培は「伝統文化を守る」という地域貢献的意味合いが強いという。1年に2回、広大な畑で収穫した藍を「藍師」の元に届けるのだが、苗の植え付け、藍葉の収穫、定期的な除草作業等々、とにかく人手を要する仕事だ。なにしろ年間で、600kgもの藍葉を収穫するのである。この時ばかりは職員も利用者も全員が畑に出かけていく。
「藍染めは徳島の伝統産業であるにも関わらず、藍葉を栽培する農家は高齢化のために縮小する一方です。藍葉から『藍』の染料を作り出す藍師と呼ばれる方も、日本に7人しかいない状況です。そのうち2人が徳島県在住であり、私たちはその1人に藍葉を届けています」
最近増えつつある公共施設のトイレ清掃・庭の環境整備(草刈り等)も、地域との連携を願うスカイピアが力を入れている仕事である。
「私たちの願いは、利用者さんたちに地域で働いてもらうことです。施設外就労は、そのためのステップとしてとても効果的だと考えています。施設の中で守られて働くよりも、できれば外に出て一般就労を目指してほしい。本人や保護者さんも、みんな同じ考えを持っています。そのため、施設外就労と施設内就労では利用者たちの時間給を大幅に変えているのです(施設外は、施設内作業の倍額以上)」(三宅さん)
「外に出て働いた方が稼げることがわかってきたので、最近では暑い時期でも自ら積極的に外作業をやりたいとアピールする利用者さんも増えてきました。給料日に明細をみんなで見せ合っていることも刺激になっているようです。外で頑張って働ければ、その分高い給料がもらえて、生活レベルもあがります。その積み重ねが、仕事の経験値を上げることになり、一般就労へとつながっていくのだと思うのです」(三木さん)
高い工賃と、格好良さをめざした事業運営を
スカイピアでは、「高い工賃」を目指すという事業方針と共に、活動の「格好良さ」も追求しているという。事実、建物の玄関に入ると、高い天井のモダンな空間が広がっている。そこには地域の習字倶楽部のメンバー作という素敵な書が展示されており、地域に開放された事業所であることがわかる。建物の東側には、天気がいい日にオープンカフェができるテラスもある。今となっては幻の企画となってしまったものの、開所時イベントには「カラオケ女王」として全国区の人気を誇っていたMさんのライブも大々的に開催されることになっていた。三宅さんは、当時のことを振り返る。
「事務所の担当がたまたま私の友人だったこともあり、ダメもとで出した企画が通って日程も決まり、テレビの取材やチケット販売会社との打ち合わせも進んでいきました。1,200枚のチケットを完売すれば、歌手のギャランティーや会場設営費等も支払えます。オリジナルTシャツが売れれば十分に元が取れるというのが私の試算だったのですが、万が一のことを心配した当時の上司が『誰か、三宅を止めてくれ〜!』と心配そうに叫んでいたのを思い出します(笑)」
残念なことにその歌手には急遽、著名アニメ映画主題歌の仕事が舞い込んだため、決まっていたスケジュールはすべてキャンセルとなってしまった。三宅さんとしては「チケットは間違いなく完売できる自信があったし、イベントは成功するイメージしか見えなかった」だけに、今でも残念でならないそうだ。しかしそんな経験こそが、その後の著名人とのタッグというユニークな動きを生み出す原動力になっているのは間違いない。
スカイピアという施設名には、高台にそびえ建つ事業所に、大空の下でたくさんの仲間たち(peer/ピア)が集まるという意味が込められている。「動きだしたら止まらない/猛烈なパワーをもつ管理者」と、「優しくて力持ち/現役アームレスラーのサービス管理責任者」──この2人の絶妙なコンビが、美馬市の大自然から大きく羽ばたいていく事業を、これからも次々に生み出していくことを大いに期待したい。
(写真・文:戸原一男/Kプランニング)
【SKYPEERスカイピア】
https://skypeer.tokuiku.org
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2024年04月01日)のものです。予めご了承ください。