特定非営利活動法人日本セルプセンター

お問い合わせ

Reportage

SELP訪問ルポ

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

公開日:

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

太陽福祉会の概要

太陽福祉会は、太陽作業所(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、太陽川辺作業所(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、パン工房サンフルひだか(就労継続支援B型事業)、ワークステーションひだか(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業を展開する社会福祉法人である。

この他にも、紀中障害者就業・生活支援センターわーくねっと、通園みらい(児童発達支援センター)、通園みらいⅡ(放課後等デイサービス事業)、通園あこう(放課後等デイサービス事業)、ヘルパーステーションあおぞら、御坊・日高地域障害者生活支援センターあおぞら、太陽ホーム(共同生活援助事業:10カ所のグループホーム)等も運営する。

事業のスタートは、1977年にまで遡る。障がいがある子をもつ親たちが中心となり、養護学校(現:特別支援学校)卒業後の働く場として、太陽共同作業所を立ち上げたのが始まりだった。国立療養所和歌山病院旧看護宿舎の1室を借り、集まった利用者は3〜4名程度だったという。その後 小規模通所授産施設時代を経て、1985年に社会福祉法人の認可を取得。翌年、定員30名の通所授産施設太陽作業所が完成した。

和歌山県日高郡内には当時 障がい者の就労施設がなかったこともあり、養護学校を卒業した障がい児たちが次々と入所を希望し、ニーズに応えるために施設を増やしていった。現在は日高郡内に4つの就労支援施設を構え、障がいの種類や区分に合わせたさまざまな事業を展開する大きな法人に成長している。

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
太陽作業所
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
太陽川辺作業所
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
ワークステーションひだか
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
パン工房サンフルひだか

木工作業を中心とする「太陽作業所」

それでは、太陽福祉会が運営する4つの事業所を順番に見ていこう。初めは、もっとも古い歴史を誇る太陽作業所である。

太陽福祉会が無認可作業所だった頃、国立療養所和歌山病院旧看護宿舎の1室を借りて始まった事業所がここだ。小規模通所授産施設となった後も、数年間は和歌山病院内敷地内の一部を借用し、プレハブを建てて事業活動を行っていた。美浜町・煙樹ヶ浜に続く広大な松林に囲まれた敷地ということもあり、当初から木工作業を中心とした作業が展開されている。

現在の木工作業の中心となるのは、レーザー加工機を活用した各種グッズ製作である。名札、コースター、マグネットといった木工小物の製作から、受賞記念の盾や、家具のワンポイントとなる彫り込みまで。デザイン図案をレーザーで焼き付け、裁断まで行う特殊な機械を用い、行政や団体など幅広い顧客から仕事の依頼を受けている。建築材料(階段部品)の製造、知育玩具(積み木)の加工など、企業からの定期的な依頼も多い。

太陽作業所では木工作業の他にも、縫製作業(ふきん、ポーチ、下請け加工等)や、資源回収(新聞紙、段ボール、本、衣類)なども行われている。1つひとつは地味な作業ながら、それを積み上げることによって月額平均工賃は37,000円を達成(2018年度)。地域に根ざした活動が、着実に成果を上げている。

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

シルクスクリーン印刷がウリの「太陽川辺作業所」

太陽川辺作業所の作業の特色は、シルクスクリーン印刷だ。シルク版を6台セットできる印刷機を武器にして、開設以来ずっと大量ロットに対応できるシルクスクリーン印刷事業を展開してきた。

「この機械は作業所を開設した1995年から導入しており、当時は同業他社にも負けない生産力を誇る印刷事業として売り上げも順調でした。残念ながら最近は、インクジエットプリンターの進化によってシルク印刷の需要が激減しているのも事実です。行政主催のマラソン大会などの大きなイベントも、ほとんど開催されなくなりました。100枚を超える大量ロットの印刷需要は滅多になく、依頼されるのは十数枚単位のモノばかり。一件単価は低くなる一方ですね」と、三代栄史管理者(46歳)は苦しい胸の内を打ち明ける。

もちろんプリンター全盛の時代だからこそ、官公庁から大量ロットの記念品(タオルや布地製品への印刷)の仕事がある場合には、シルクスクリーン印刷の機械を保有する数少ない福祉施設である太陽川辺作業所が、優先調達法の扱いで入札に参加できる機会もある。最近も、165万円もの大きな案件の受注に成功したという。

せっかくここまでシルクスクリーン印刷を武器にしてきたのだから、その技術を全国に発信して受注拡大につなげたいと三代さんは強い意欲を示していた。太陽川辺作業所の月額平均工賃は、25,151円(2018年度)。法人内ではもっとも低い額となっているため、工賃向上が大きな課題だ。今後は、印刷の仕事に関われない利用者他を対象として、農福連携をテーマとした新事業への取り組みも始めている。

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

空き缶リサイクルで地域とつながる「ワークステーションひだか」

ワークステーションひだかのメイン作業は、空き缶リサイクルの回収である。地域にオリジナルの回収箱を200カ所設置し、3台の車(軽トラ2台、1トン車1台)で手分けして回収する。そして施設に運んできた空き缶を、アルミ缶・スチール缶の種別に分け、圧縮したものを業者に販売するという事業スタイルである。

「回収箱を設置している場所は、御坊市、日高町内等にあるゴミ集積所の横、個人宅等ですね。行政経由ではなく、一件ずつ自治会や住民に直接交渉して置かせてもらっています。回収するのは1カ所につき週2回を原則としていますが、夏場になると毎日回収することもしばしばです。いつもトラックの荷台が山盛りになるほど、空き缶は集まります。空き缶を落とさずに荷台にどうやって積むかが、担当者の腕の見せ所なんですよ(笑)」と語るのは、ワークステーションひだかの出口和雄管理者(76歳)だ。

アルミ・スチール金属等の価格は相場に大きく影響されるのが、この事業の最大のネック。ピーク時には130円/キロあったアルミ価格が、現在は95円にまで下落した。ひどいときには50円にまで下がったことも考慮すると、安定した収入の確保がワークステーションひだか最大のテーマだ。そのために、行政から受託するペットボトルの選別・リンク切り等のリサイクル事業や、市役所・保育所の清掃事業にも取り組んでいる。月額平均工賃は、58,025円まで上がったこともあるが、最近は下落気味。2019年度は、49,000円を目標としている。

ユニークなのが、最近実験的に始めた生芋100%こんにゃくの製造販売だろう。日高地方に古くから伝わる伝統的なコンニャクの製造法をJA女性部から伝授され、地元で長く親しまれていた「原こん」の名称を引き継いだ。試しに作って食料品店で売ってみたところ大好評だった。「昔食べていた懐かしい味が再現された」と、大きな反響を呼んだというのだ。気をよくした出口さんは、独自のブランドとして大々的に売り出し、こんにゃく製造部の立ち上げまで視野に入れた事業展開を夢見ている。味のしみやすい、コリコリした食感の「原こん」がワークステーションひだかの新たな事業の柱になる日も近いかもしれない。

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

新製品「生食パン」の開発に成功した「パン工房サンフルひだか」

最後に紹介するのが、パン工房サンフルひだかである。素材にこだわった手作りのパンと施設に隣接した菓子工房PLEIN SOLEIL(プラン ソレイユ)での焼き菓子の製造販売に特化した事業所で、年間売上高は約2,000万円。月額平均工賃は、31,088円(2018年度)となっている。高齢者施設・病院・保育所などへの受注生産を中心として、行政・企業等への訪問販売、産地直売所への委託販売、施設の店舗での直接販売などが、主な販売先だ。

「施設などの昼食に使っていただいている受注生産が、事業所売り上げの約半分を占めています。今後の課題は、なんといっても店舗や訪問販売の売り上げをもっと伸ばすこと。そこで注目される新商品を作ろうと、生食パンを最近開発しました。巷ではブームとなっている生食パンですが、私たちの地域では同業他社もまだあまり手がけていません。専門家のアドバイスに頼らず、私たちだけで3ヶ月以上かけて、ようやく納得いくパンが完成しました。「生食パン」の元祖である有名店の味にも負けない、美味しい製品が完成したと思っています」と、パン工房サンフルひだかの福田智宏管理者(50歳)は胸を張る。

パン生地に生クリームをたっぷり練り込み、日高川町産のはちみつと御坊市塩屋の天塩を加えたミニ生食パンは、プティ・ボヌール(小さな幸せ)と名付けられた。1斤500円とちょっと贅沢な逸品だが、一度食べたらほのかな甘さとふっくらした食感が病みつきになる。「生食パン」の名にふさわしく、何もつけずにぜひそのまま手でちぎって召し上がっていただきたい。パン工房サンフルひだかの自信作である。今後はこの新製品を積極的に売り込み、事業の拡大を狙っている。

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)

以上、太陽福祉会の4つの障がい者就労支援事業所の詳細を紹介してきた。どの事業所も和歌山県、全国の平均月額工賃を大きく超える実績を残しているものの、「私たちの高工賃達成への取り組みは、まだまだ。今後も事業所ごとの課題を整理し、少しずつ高い目標をめざしていきたいと思います」と、太陽福祉会の中橋彦也常務理事(64歳:太陽作業所管理者兼務)は語る。

日高郡内にはまだまだ就労系事業所が少ない状況を考えると、関係者から太陽福祉会に期待する声がますます高まっている。今後も地域ニーズをくみ取りつつ、事業拡大が期待される法人である。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人太陽祉会(和歌山県日高郡美浜町)
http://www.taiyo.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2020年05月01日)のものです。予めご了承ください。