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特定非営利活動法人アシスト(神奈川県川崎市)

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清掃作業に特化したB型事業所

アシストは、アシストワーク神木(就労継続支援B型事業)、ワンステップホーム(共同生活援助事業)を運営するNPO法人である。事業のスタートは、2000年のことであった。「知的障がいのある人たちにとって、清掃の仕事はとても適しているのではないか」という考えのもと、近隣の養護学校の先生たちと、実習生を受け入れていた清掃会社、そして障がい者就労施設で働いていた職員(先代施設長)によって、地域作業所アシストワーク神木が誕生したのである。

作業所は2005年よりNPO法人化され、現在でも当初の方針通り、清掃作業に特化した事業運営を続けている。小谷誠之施設長(53歳)は、当初の苦労を次のように打ち明ける。

「『マニュアルさえきっちり整えれば、清掃作業は知的障がいの人たちにピッタリの仕事である』という理想を掲げてみたものの、スタート時は仕事がそれほど準備できていたわけではありません。契約先は3棟ほどのマンションのみ。時間が余ってしまうので、仕方なく下請けの軽作業等も行っているのが現実でした」

このままでは理想にほど遠いと、作業所運営委員会のメンバーたちが営業活動に力を入れ、近隣企業や地主さんなどから少しずつ清掃の仕事を開拓していった。こうした積み重ねが、現在の事業を支える礎となっている。

150カ所のマンション・アパート清掃事業を受託

現在、アシストワーク神木の清掃受託先は、150カ所に増えている。近隣のマンション、アパート、福祉施設(障がい者施設、老人施設、保育園)等である。中心を占めるのは、3〜5階建ての比較的小規模な賃貸マンションからの依頼だという。誠実に仕事をこなすうちに、市内の大きな不動産会社も応援してくれるようになった。

「最近は、この会社が手がける新築物件の清掃依頼が次々に決まっています。というのも、マンションのオーナー様向けに配布しているパンフレットに、わざわざ私たちの事業案内を載せてくれているからです」と、小谷さんは嬉しそうだ。

具体的な仕事としては、マンションの共用部分の清掃が多い。廊下、階段、エントランス、駐輪場、ゴミ置き場、駐車場、敷地内植え込みの草取りなど。それぞれ月2回程度、小規模の派遣先で3〜4人、大規模だと6〜7人ほどの利用者が、職員1名(基本)とユニットになって清掃作業を行っていく。老人ホームなどの福祉施設の清掃になると、毎日派遣するケースがほとんどだ。

1日のスケジュールは、施設内の白板に担当者の分担表が掲示されている。利用者たちはこの表を見て、自分がどこの案件を担当するのかを理解するのである。派遣先は、毎日必ず交代で変えていく。担当者が誰になったとしても、同じ品質の仕事を保てるようにすることが目的だ。白板には、45名の利用者名と150件もの派遣先名(1日あたり18カ所程度)で溢れている。この賑やかさが、アシストワーク神木の仕事の繁盛ぶりを表している。

丁寧な仕事ぶりが、次々と仕事を増やしていく

アシストワーク神木では、どうしてこんなに仕事の依頼が増えてきたのだろうか? 一言で言って、丁寧な仕事ぶりに尽きると小谷さんは説明する。

「基本的には、口コミで増えてきた仕事がほとんどなんですよ。清掃中に、前を通りかかった住民の方から『ウチのマンションの清掃も頼めないかな?』という依頼を受けたこともあるくらいです(笑)。いつも利用者たちが丁寧に仕事をしている姿に感心して、わざわざ声を掛けてくれたらしいのですね」

アシストワーク神木の事業の骨格とも言える「清掃マニュアル」を、見せてもらった。これは案件ごとに作られていて、持っていく清掃道具、清掃の順番、掃き方、拭き方に至るまで細かく定義されている。この詳細なマニュアルを元にして利用者一人ひとりに、職員が清掃の仕方をしっかりレクチャーする。利用者たちは教えられた通りの清掃方法をきっちり守り、指先点検しながら1つずつ仕事をこなしていくのである。

「一般の人から見たら、ちょっと細かすぎるのでは?と思えるくらい、詳細に書き込んでいるのがウチのマニュアルの特色です。でもこれがあるからこそ、作業が標準化されて、利用者ごとの仕事のばらつきがなくなります。結果的に仕事の品質が高まって、お客さんからの信用も得ていると思うのです。マニュアルづくりは、作業所をスタートさせたときからずっと変わらない私たちの仕事の基本ですね」と、小谷さん。

川崎市のお掃除プロジェクトにも参加

アシストワーク神木の現在の月額平均工賃は、約50,000円である。全国的に見ても清掃事業に特化したB型事業所として、素晴らしい工賃額と言っていいだろう。こうした実績に注目した川崎市では、平成29年度から障害者施設職域等拡大事業(おそうじプロジェクト)をスタートした。B型事業所の工賃拡大の秘策として清掃事業の普及を掲げ、アシストワーク神木にプロジェクトリーダー役を委託したのだ。第一期(平成29年〜30年)では、市内5事業所が参加。なんと1年度で、参加施設の平均工賃が倍額になるという飛躍的な成果を残している。

「プロジェクトでは、参加施設に清掃事業のイロハを教えた後、私たちの受託先へ一緒にチームで同行してもらい、現場でOJT教育を行っています。この事業を請け負ったのは、他の施設でも積極的に清掃事業への参入を考えてほしかったからですね。川崎市内のB型事業所の平均月額工賃は、28年度実績でやっと15,742円になったにすぎません。清掃の仕事は、これからももっと需要が見込めます。ぜひたくさんの施設に参入してもらい、一緒に高い工賃をめざしてほしいと思うのです」と、小谷さん。

アシストワーク神木には、今でもひっきりなしに仕事の依頼が寄せられている。作業手順の効率化などで対応件数を増やすなどの努力はしているものの、どうしても一施設だけで対応するには限界があるという。だからこそ、複数の施設で清掃作業のネットワークを組み、地域の仕事を分担で分かち合えるような取り組みが不可欠なのである。

小谷さんたちがめざすのは、現状に満足することなく、さらに大きな目標(最低賃金)へのステップだ。「ていねい第一」をモットーとした清掃事業で、大きなチャレンジがなされることを期待したい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

特定非営利活動法人アシスト・アシストワーク神木(神奈川県川崎市)
http://www.a-w-shiboku.jp/aws/katsudou.shtml

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2019年02月01日)のものです。予めご了承ください。