Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人征峯会(茨城県筑西市)
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征峯会の概要
征峯会は、障害者支援施設ピアしらとり(就労継続支援B型事業、生活介護事業、施設入所支援事業、短期入所事業、共同生活援助事業、日中一時支援事業、相談支援事業)を運営する社会福祉法人である。
この他、特別養護老人ホームしらとり、しらとりハワイアンデイ(大型デイサービス)等の高齢者施設も運営する。
施設の始まりは、昭和62年に設立された知的障害者入所更生施設しらとり更生園(定員50名)だった。平成5年にはさらに50名の定員増(計100名)となっている。更生施設でありながら重度障がい者の就労支援に対する意識も強く、一般就労を果たした利用者のためのグループホーム建設にも早くから着手している。平成17年よりスタートした特別養護老人ホームの運営も、「親なき後の入所施設利用者の安住の場」を求める保護者の声に応えた結果だ。
法人のモットーは、「最高の笑顔をあなたに」である。①垣根を越えたコミュニティーの創造、②「居がい」の追求、③「まごころ」と「笑顔」があふれる風土づくり、の三本の柱を基本方針として経営されている。地域密着も大きなテーマであり、時代を先取りしてきた法人であると言える。
さまざまなピアしらとりの就労支援活動
ピアしらとりでは、さまざまな作業に取り組んでいる。施設長の石井浩之さん(47歳)は、その内容を次のように説明する。
「更生施設の時代は工場の下請け作業を中心に行ってきましたが、少しずつ自主製品への転換を図ってきました。平成元年に味噌づくりを始めたのをきっかけとして、さをり織り、パン製造などにも取り組むようになりました。現在はこの他にもクリーニング班、園芸班、農業班、工業班、エコロジー班など、利用者の特性に合わせた多様な仕事を用意しています」
なかでも代表的な作業となっているのは、パンとさをり織りだという。平成10年、施設の前にオープンしたベーカリーショップ「花水木」(平成29年10月閉店)は、入所施設利用者たちの社会訓練を兼ねた店舗でもあった。入所施設に長い間暮らしていると、店に出かけて買い物をするという習慣がどうしても欠如しがちである。一般就労やグループホームでの自立生活をめざすピアしらとりとしては、「花水木」を訓練施設としても活用したかったのだ。
さをり織り班では、利用者たちが自分の感性に従って自由な色使いで織り上げた生地を元にして、小物や衣類などの製品に加工。1年に一度、イオンモール下妻店において大々的な「さをり織り展」を開催するなど、販売活動にも力を入れている。茨城県のナイスハートバザールでも、ピアしらとりのさをり織りグッズはお客さんから注目を集める人気商品の1つだ。
麹から手づくりしている「しらとり味噌」も、自慢の自主製品。昔ながらの味が好評で固定客も多く、今では毎年、大きな樽に60ケ仕込むほど生産量は拡大してきた。特養老人ホームや入所施設での需要も多いのだという。
地域に密着した「カフェラパン」
平成27年4月には、パン事業をさらに拡大することを目的としてパン工房・カフェラパンを新築している。施設の前に建っていた「花水木」のパンの味は地域住民にも少しずつ浸透してきたものの、市街地ではないためどうしても限られた顧客が中心となる。地域の人たちにもっと気軽に購入してもらえるカフェスタイルの店舗を作ることは、長い間の夢だったのだ。
「特養ホームとハワイアンデイが建っている土地の一角に、念願だった店を構えることができました。コンセプトは、福祉施設が運営しているとは思えない店づくり。建物の外観や内装はもちろん、店に並べるパンの種類、味、そして営業時間に至るまで、普通のパン屋さんをイメージして運営しています」
店舗を拝見すると、石井さんがそう語るのも納得できる。明るく広い陳列スペースに、約80種類ものパンが並んでいるのだ。クリームパン、カレーパン、あんぱんといった定番の菓子パン以外にも、自家製コロッケバーガー、メンチカツバーガー、三元豚バーガー、サンドイッチなどの惣菜パンも多数揃っている。ドイツ岩塩をアクセントとして効かせた各種チャバタ、じゃこパン、ごまきな粉パン、一番人気のイギリスパン、等々。見ているだけで選ぶのに悩んでしまうほどのラインアップだ。ベーカリー班の責任者で就労支援課長の近藤誠さん(33歳)によると、土日に隣の運動場でサッカーの練習試合があると、親子連れで店内は大いににぎわうのだという。
「先日には大きなサッカーの大会があったので、予想以上の来店者でした。午前中に店内のパンが、ほとんど売り切れてしまったほど。子どもたちにはガッツリ系のバーガー類が人気で、多い日には200個以上売れています。ハワイアンデイの厨房で手づくりするコロッケバーガーは、本当に美味しいと評判になっています」
開店時間は、朝の10:00から夕方の6:00まで。定休日は、月曜日のみ(年末年始、夏期休暇あり)。土日もしっかりオープンするという、本格的な営業スタイルである。パンだけでなく、パスタやピザを提供するカフェレストランも併設している。すべてにおいて、普通の店づくりに徹底しているのだ。1日の売上は、約10 万円。土日になると20万円を超える日もあるという。
地域共生型施設をめざして
地域との共存を掲げる征峯会では、開設当初から地域貢献活動にも積極的に取り組んできた。具体的には、しらとり太鼓の演奏活動、ねぶた愛好会によるお祭り参加、そして毎年11月に2日間開催するしらとり祭り等である。とくにしらとり祭りは年々その規模を拡大し、2日間で地域の人たちが1万人以上も集まる大イベントになっている。理事長の渡辺和成さん(45歳)は、こうした活動の狙いを次のように語る。
「法人を立ち上げた私の父・創設者渡辺征男がめざしていたのが、『地域に開かれた施設らしくない施設づくり』『子どもから高齢者までのびのびと楽しく生活できる福祉の郷づくり』でした。老人ホームを立ち上げたのも、地域住民を対象としたベーカリーショップをオープンしたのも、そんな考えに基づいています。しらとり祭りは現在、特別養護老人ホームとハワイアンデイの敷地で開催し、駐車場から会場までシャトルバスも運行しています。小学校・中学校の管弦楽部の演奏会や、歌謡ショーなど、楽しいプログラムが満載で、地域でも有名なお祭りになりました。お年寄り、障害者、子ども、地域の皆さん・・・さまざまな人たちがステージを楽しみながら、和気あいあいと食事を食べている様子は、まさに創設者がめざしていた理想郷そのもの。これからも法人が中心となった福祉の町づくりをすすめていきたいと思います」
(写真提供:社会福祉法人征峯会)
定員200名規模の大型デイサービスしらとりハワイアンデイを見学させてもらった。南国リゾートをテーマとして、250種類以上のリハビリプログラムを用意。食事は毎日が豪華バイキングで、陶板浴や大浴場、カフェスペース、ミニシアター、パチンコ、カジノルームも完備。職員たちはみな、アロハシャツを着て、館内にはつねに南国の音楽が流れている。いわゆる高齢者のデイサービス施設とはまったく思えない素晴らしい環境である。征峯会の最終的なねらいは、あらゆる人たちが一緒に楽しく暮らせる街を生み出すことだ。「最高の笑顔をあなたに」をめざす法人の活動は、これからも着実に進められていく。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人征峯会(茨城県筑西市)
http://seihoukai-group.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年05月01日)のものです。予めご了承ください。