Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人コスモス(大阪府堺市)
公開日:
コスモスの概要
コスモスは、大阪府堺市地域における総合的な福祉環境を市民の力で作り上げてきた社会福祉法人である。障がい者のための無認可作業所設立運動からスタートして、現在ではせんぼく障害者作業所(生活介護・就労継続支援B型・就労移行新事業)、おおはま障害者作業所(生活介護・就労継続支援B型)、堺とうぶ障害者作業所(生活介護・就労継続支援B型)、ほくぶ障害者作業所(生活介護・就労継続支援B型・就労移行支援事業)、ふれあいの里障害者かたくら(生活介護・就労継続支援B型・自立訓練事業)等の障害者就労系事業所を運営するようになった。
この他、いづみの保育園、麦の子保育園、つばさ保育園等の保育関連事業、老人デイサービスセンター結いの里等の高齢者関連事業や、19の障害者ケアホーム(グループホーム)・ショートステイ事業・ヘルパー派遣事業・相談支援事業・児童デイサービス等を運営する大きな法人である。
その中で、堺市の北・東エリアの障がい者関連事業のひとつを担っているのが「ほくぶ障害者作業所」だ。大泉緑地の緑を目の前にして、恵まれた環境のもと、豊かな地域生活と働く場を利用者たちに提供する。事業所は、ほくぶ作業所・第2ほくぶ作業所・第3ほくぶ作業所と現在3つに分かれている。具体的な作業種目は、ほくぶ作業所が配食サービス・空き缶リサイクル・オリジナル衣料(指文字グッズ)の企画制作・軽作業、第2ほくぶ作業所がクッキー&パンの製造、第3ほくぶ作業所が就労移行支援事業(ジョブサポートほくぶ)と手話カフェまごころ家の運営である。
オリジナル指文字グッズを企画制作
ほくぶ障害者作業所の名物とも呼べる商品が、「ほくぶ指文字・手話Tシャツ」等のオリジナル衣料である。この事業所はろう重複障害者の作業所からスタートしたこともあり、手話や指文字の普及に以前から務めてきた。聴覚障害者の大切なコミュニケーションのひとつである指文字は、50音を一つひとつ指の形で表現できるようになっている。たとえ手話単語が分からなくても、指文字を知っていれば聴覚障がい者との会話のきっかけ作りが可能なのだ。
オリジナル指文字グッズは、そんな指文字をもっと多くの人たちに広め、手話にも興味を持ってもらおうと企画された。Tシャツ、トレーナー、パーカー、ウインドブレーカーなど、毎年さまざまな衣料を夏・冬の年2回にわたって発売している。指文字五十音表がメインになったり、キーワード(ありがとう・お疲れさま等)を手話で表したイラストがワンポイントになったり、デザインはその年によって変えている。しかし基本となるのは、2011年に国連障害者権利条約で認められた理念「手話は言語である」をアピールすることだ。
間吾すなお施設長(53歳)は、次のように語っている。
「手話・指文字グッズは、ほくぶ障害者作業所はもちろんのこと、毎年、法人全体の力を借りて積極的に販売をおこなっています。一回の販売で、Tシャツが約1,000枚、トレーナー等が約400枚くらい売れています。売れ残りが怖いので在庫は一切持たず、注文をとりまとめてから約1ヶ月後に納品というスローペースにも関わらず、みなさん喜んで購入してくれているのですよ。今では北海道から沖縄・宮古島まで、全国から注文を頂いています。」
最新のデザインは、今年はほくぶ障害者作業所のキャラクター「ほーちゃん」を前面に出したものだ。これまでのものに較べて、可愛さを前面にだしたので、とくに女性を中心に人気を博している。今後は、ぜひ衣料品以外の指文字グッズも企画していきたいとのことだ。
専門家たちからも絶賛されるドイツ菓子ミューズリーリーゲル
ところで菓子・パンの製造を作業とする第2ほくぶ障害者作業所には、全国から注目されている話題の商品がある。それは、ドイツ菓子ミューズリーリーゲルである。サクッとしたレモン風味のクッキーを土台にして、ひまわりの種とカボチャの種とゴマを、はちみつとバターで作ったカラメルに絡めたスイーツだ。伝統的なドイツ菓子のレシピを若干アレンジして、現代日本人の好みに合うような甘さに抑えているため、一度食べるとクセになる。
2010年、日本財団が主宰する『真心絶品』審査会において、辛口スイーツ批評家たちからも次々と絶賛の声があがった。当時の議事録には、次のような記載が残されている。
- 「ひまわりの種とカボチャの種という日本人には馴染みのないナッツを、こんなに美味しく食べさせてくれるお菓子は珍しい」
- 「見た目はぎょっとするほどボリューミーなのに、いくらでも食べられてしまうのはちょうど良い甘さ加減だから。強いていえば、食べ過ぎに要注意(笑)」
- 「伝統的なドイツ菓子を、ここまで最先端のスイーツに変身させているのはお見事。アレンジ力が素晴らしい……」
事実この商品は、その後大阪授産製品コンペティションにおいても食品部門の優秀賞に輝いている。今度は製菓技術者たちからも、その確かな技術を認められたというわけだ。かくして、ほくぶ障害者作業所という小さな施設が作るお菓子が、全国に広まっていった。間吾施設長は言う。
「おかけざまでミューズリーリーゲルの名前は認知されたのですが、地元での販売実績はそれに較べるともう一つかもしれません。ちょっとマニアックな商品なので、地元のバザーで売るには少しハードルが高いのです。でも製菓技術そのものを評価していただいたのが最高の贈り物。これからもその評価に恥じないだけの人気商品を、たくさん生み出していけるように頑張ります」
思い切った挑戦により、企業とのタイアップも実現
ミューズリーリーゲルの評判の高さに自信を深めた間吾施設長は、その後インターネット通信販売を主力とする企業との取引も実現させている。そのきっかけとなったのは、クッキー製造では日本一の事業規模(セルプ訪問ルポでも以前紹介した)の社会福祉法人共生シンフォニー・がんばカンパニーに見学に行ったことであるらしい。
地域だけの販売では限界がある。そのため、がんばカンパニーでは企業とのタイアップを積極的に進めることによって売上高約2億円を誇っている。そんな話を聞いて刺激を受け、まったく知り合いもいなかった企業に「当たって砕けろ」の精神でメールで営業攻勢を掛けたというのだ。
「ほくぶ障害者作業所だけの規模では相手にされないと思ったので、法人内5事業所の製菓製造実績があることなど、少し大げさに自分たちのことをアピールしました(笑)。私たちは自分の店も持っていませんし、販売箇所といえば地元のバザーのみ。美味しいお菓子を作っている自信があってもなかなか売上が伸びないので、なんとかしたいと必死の思いでしたね」
間吾施設長のこうした努力が実り、相手から即座に検討したいとの返事が来た。こうなると商品力には自信がある。さっそく全商品を会社に持参して食べてもらった結果、どの商品も「とても美味しい」と高い評価を受け、取り引き交渉が進んだ。その後、ほくぶの製品を基本形とした通販会社用のオリジナル商品を共同で開発。通販会社のOEM商品として、まとまった量の取り扱いが決定したのである。
「もちろん相手は企業ですから、非常に薄利多売の商売になります。現場ともその旨を何度も確認し、要望される製造量をクリアできるように製造行程の見直しもおこないました。なにより一番変わったのは、現場のムードでしょうか。まるで繁盛店みたいな活気が、ほくぶ障害者作業所に生まれてきたのです。つねにフル生産で、休むヒマがないほど現場は忙しくなりましたから。自分たちの力量を考えると背伸びしすぎの仕事でしたが、効率的に作業を進められるようになって実力もついてきたと感じています。現在では、さらに他の商品も取り扱ってもらえるよう新商品も開発し、交渉に挑もうと考えています」
通販会社からは、これまでにはなかった定期的にまとまった売上額の入金がある。みんなが必死に頑張った結果である。施設の主任がそのことを職員だけでなく利用者にも目に見えるカタチで伝えたいと思い、大口の入金があると現金を銀行からわざわざおろしてきて、全体集会で大量の札束をみんなの前で数えるパフォーマンスをおこなった。大量のお札は、すなわちみんなで頑張った証しである。それ以降、利用者たちの仕事への意識が格段に変わったのだという。自分たちの頑張りが収入に結びつくことが実感できれば、誰でも仕事へのモチベーションは高まっていく。この通販会社からの発注をみんなが楽しみに待ち、たとえ猛烈に忙しくても前向きに仕事に向かえるようになったのだ。
法人内5施設による共同受注・共同生産を計画中
今後の課題は、ほくぶ障害者作業所として現在約11,000円程度の平均工賃をせめて全国平均クラスに引き上げることだと間吾施設長は言う。
「大阪府全体の平均工賃そのものが、残念なことに全国で最低と言われています(平成22年度の平均額が、9,244円)。それよりは上をいっているといっても、全国の研修とかで発表されている施設の数字にはとうてい及びません。せめて全国平均工賃(約13,000円)以上を目指さないといけませんね」
そのため現在検討しているのが、大分県(チャレンジ! おおいた福祉共同事業協議会)で取り組んでいるような防災クッキー事業であるという。社会福祉法人コスモスに所属する障害者就労系事業所は、5事業所ある。どこも菓子製造に取り組んでおり、技術的にもほぼ同レベルである。共同レシピによる製造分担の難しさは十分理解しているものの、同一法人内で実施するのなら十分可能性はあると間吾施設長は考えている。
「これまでも『コスモスまごころコレクション』と題する商品カタログを作って、法人内の事業所が協力して製品を販売する努力をしてきました。これをさらに一歩進めて、地域に必要とされる物づくり、美味しいプラスαの価値ある商品づりを目指したいと思います。そのためにも法人全体で『防災クッキー』事業を進めるような動きをしていきたいです。幸い、おおはま障害者作業所が近いうちに建て替え工事を予定しています。リニューアルの時期こそ、大がかりな機材導入のチャンスです。製造分担だけでなく、営業面も含めて本当の意味でスケールメリットを活かした事業に展開していきたいと思います」
ほくぶ障害者作業所には、「もりのパンや」「もりのおべんとうや」「森のリサイクル屋さん」「もりのおかしや」という可愛いキャラクターがある。以前、法人内の保育施設に子どもを預けていたというイラストレーター・伊トーリツコさんに描いてもらった作品だ。こんなにステキな施設のイメージキャラクターがあり、お菓子などの製品自体もコンクールでさまざまな賞を受賞するほど高いレベルを誇っている。こうした強みを活かし、さらに法人内ネットワークを有効に活用することで事業のレベルはもう一段確実にスケールアップすることだろう。比較的小規模の法人内事業所が集まって共同製品開発&共同販売をする格好の事例として、ぜひとも成功してもらいたいと思う。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人コスモス(大阪府堺市)
http://www.sakaicosmos.net
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2014年04月01日)のものです。予めご了承ください。