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社会福祉法人すてっぷ(群馬県前橋市)

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すてっぷの概要

すてっぷは、わーくはうすすてっぷ(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、とらっぱ(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、社会就労センターぴいす(就労継続支援B型事業)等の障がい者就労支援事業を運営する社会福祉法人である。

この他にもケアホームRUNやメゾンすてっぷ等のグルーブホームや福祉ホーム、Little Kid’s Club(児童発達支援)やKid’s Club(放課後等デイサービス)等の障害児通所支援事業、ヘルパーステーションすてっぷ(障害者居宅介護事業、行動援護事業、移動支援事業)、前橋市障害者生活支援センター(相談支援事業)、ワークセンターまえばし(障害者就業・生活支援センター)、サービスステーションすてっぷ(日中一時支援事業)等、さまざまな活動を行っている。

法人内の就労系事業所の中でも、事業所の中ではなく地域に出て活動しているのが社会就労センターぴいすである。2005年に開所された新しい施設だが、着実に成長を遂げている。主な作業は、群馬県立女子大学における学食、カフェ、購買、清掃業務である。この他にも、群馬県立県民健康科学大学における学食、購買業務。さらにヤマト運輸への施設外就労(クロネコDM便振り分け)、リサイクル(不要パソコンを分解し、レアメタル等に分別する)等となっている。

群馬県立女子大の各種業務を受託したきっかけ

社会就労センターぴいす(以下、ぴいす)が、群馬県立女子大学の学食業務の運営を受託したのは、2005年に施設がオープンすると同時であった。その経緯について、新井亘施設長(51歳)は次のように説明する。

「その時、大学のキャンパスは新学期が始まっていたのに学食は業者が決まっていなくて閉店している状況で、大学側も困っていたようでした。できれば今後の方針として、購買とセットで運営できる業者を探しているとのこと。私たちの法人では、焼きたてパンを販売するベーカリーカフェ(わーくはうすすてっぷ)や、前橋市総合福祉会館内のカフェの運営(とらっぱ)を行っていた事業所がありましたから、その実績を強くアピールしたのです。担当者は当初不安そうではありましたが、大学に営業に行った後、二つの現場を見学に来てくださって安心し、私たちが業務を受託できることになったのです」

これまで何度となく学食業者が撤退を繰り返してきた最大の理由は、年に3ヶ月近くある長期休暇で年間を通して採算が取れないことにあった。さらに学食と購買が別々の業者で運営されていたことにも問題はあった。二つの業者が顧客である学生を取り合ってしまうのだ。契約の関係で購買部の受託は翌年からになったが、2007年に新しく建った新館では1階にカフェも設置されることになり、こちらの運営もぴいすに任されることになった。この時は、設計段階から計画に参加し、バリアフリーの北欧風店舗にすることができたそうだ。

栄養バランスに配慮したメニュー。焼きたてパンも大好評

ぴいすが運営する学食(ぴいすきっちん)では、現在3名の利用者が働いている。1日の食堂利用者は50〜60名程度だというが、特定の時間に集中するため(営業時間は11:50〜13:20)、オープン前から厨房は目の回るような忙しさだ。メインメニューである「iLunch(愛らんち)」の主菜・副菜・サラダ等の盛りつけ。購買部で販売するお弁当や、十数種類の総菜パンの挟み込みと袋詰め。開店すると、ランチメニュー以外の単品メニュー(うどん、ラーメン、カレーライス、季節限定メニュー等)の盛りつけにも追われ、閉店後は大量の洗い物が待っている。

「安全性も高く、栄養バランスの整った食事をなるべく安く提供するというのが私たちの方針ですから、どうしても手間はかかってしまいますね。学生さんの希望で一度ビュッフェスタイルにしてみたことがあるのですが、その形式だと食事代を節約するためもあってか、主菜とみそ汁を抜いて、副菜とご飯だけとか、本当に極端な食べ方をする学生さんが多かったのでやめました。健康にも悪いですし、私たちも売上が上がらず困ってしまいます(笑)。その代わりとして、ワンプレートに主菜と数種類の副菜にデザートを付けた日替わりランチ(iLunch)を400円で提供しています。その他にも非常に安価な単品メニューを用意してますし、若い女性が好みそうな限定メニューも随時提供するようにしています。今はベトナム料理のフォーが人気ですね」と、新井施設長。

学食と隣り合わせに購買部(ぴいすしょっぷ)があり、2名の利用者が店番をしている。購買部の営業時間は、9:30〜16:30。キッチンの奥にあるパン工房で焼かれたばかりのパンや、作りたての弁当類を売っている。1日の利用客は、300〜400名程度だ。ピーク時にもベテランの二人の利用者がレジを行っている。

「学生さんたちはみんなとても優しくて、レジが混んでいてもおとなしく待っていてくださる方がほとんどです。一般の店よりも、利用者にとっては安心できる環境だと思います。4年間同じキャンパスに通う者同士ですから、お互いに親近感は生まれてきますよね。学生さんにとっても、障がい者とのふれあいは貴重な社会勉強になるはずです」

新館にあるカフェ(ぴいすカフェ)は、10:30〜13:00のオープンで1名の利用者が働いている。こちらでもパンや弁当、コーヒーを販売し、営業時間が短いながらも、一日に100〜130名の学生たちが利用する人気店となっているらしい。

大学構内の清掃業務も受託。セットで効率よい運営に

ぴいすの取り組みがユニークなのは、学食・購買・カフェの運営だけでなく、清掃業務もセットで受注しているところだろう。新井施設長は、清掃業務の受注が事業的に非常に大きかったとその成果を強調する。

「学食や購買は学生さん相手の商売ですから、どうしても低価格の商品ばかり。しかも一年のうち、三ヶ月近い夏・春休みの間は売上がなくなるので、事業としては非常に厳しいのです。それをカバーするのが、清掃業務。長期の休みには定期清掃という大がかりな館内清掃があり、売上のマイナス分を補ってくれます。この期間は学食などで働く利用者も作業があまりありませんから、キッチンのスタッフや利用者(体力的に大丈夫な方)もみんなで清掃をすることになります」

大学館内で清掃作業を行う利用者たちの姿を拝見した。館内のトイレ、廊下、教室(大教室・小教室)、図書館、体育館、中庭の草取り等々…。広いキャンパスの中で、さまざまな場所の清掃を9名の利用者が予定表に従って動いていく。大学側の授業スケジュールが優先されるため、時間はもちろん厳守であり、授業を妨げるような行動をとることも許されない。静かに講義が行われている教室の隣の部屋で、黙々とモップ掛けする利用者の姿が印象的だった。

「なにしろ若い女性ばかりの大学ですから、学生に迷惑をかけるようなことはできません。ルールを決めて利用者にしっかり守ってもらえるようスタッフが支援しながら働いてもらっていますので、問題行動を起こすことはほとんどありません。むしろ学生の投書箱には、『いつも大学を綺麗にしてくださり、有り難うございます。トイレも常に清潔なので、使用していていつも気持ちいいです』という感謝の声があったほどです。暑い日も寒い日も一生懸命働いている彼らの姿をちゃんと見てくれているとわかり、本当にうれしかったですね」

大切なのは、地域特性に合っていた仕事を考えること

ぴいすでは群馬県立女子大学だけでなく、群馬県立県民健康科学大学でも学食、購買業務を受託運営している。しかしこちらは規模がさらに小さい大学(約500名)のため、事業的には苦戦しているようだ。

「どうしても働く場所が二分されるため、職員の配置が難しくなります。群馬県立女子大学での実績を評価されたのは嬉しいことですが、学食・購買部だけの運営には限界はありますね。やはりこちらも、清掃とセットで受託できるかが今後の課題だと思います」と、新井施設長。

大学構内における学食・カフェ・購買・清掃業務を一括でこなす、ぴいすの取り組みは最近各地からも注目され始めている。施設のオープンから年々着実に事業を拡大していき、2011年度にはついに30,000円を越える平均月額工賃を達成したというのだから当然だろう。

「たまたま縁あってこのような事業スタイルになった私たちですが、結果的には大正解だったと思います。地方では、なかなか商品の販売先を見つけることは難しいですからね。大学内の仕事は、一定の顧客数が確保されていることや、ターゲット層の年齢が明確であること等が最大のメリット。これからも現状に満足せず、さらにお客さんに喜んでいただける商品を開発したり、作業を効率化することによって、さらに高い工賃を実現したいと考えています」

新井施設長の話からわかることは、地域特性にあった事業活動を考えていくことの大切さである。チャンスさえあれば、既存の組織や事業スタイルにはこだわらないで変革を遂げていく。そんな柔軟な姿勢が、新しいビジネスモデルを生み出していく。ぴいすの活動実績は、そのことを証明しているのである。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人すてっぷ(群馬県前橋市)
http://s-step.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2016年09月01日)のものです。予めご了承ください。