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社会福祉法人にこにこ福祉会(広島県福山市)

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にこにこ福祉会の概要

 にこにこ福祉会は、にこにこ会(就労継続支援A型事業)、りひと(就労継続支援B型事業)、にこてらす(生活介護事業)、共同生活ほいーる(共同生活援助事業)、相談支援センターつ・き・か(指定特定計画相談事業)等の障がい者支援事業を運営する社会福祉法人である。

 始まりは、障がいのある子の親である瀬良京子さん(現理事長)を中心として就学児の放課後居場所づくりに取り組んだことだった(今でいう放課後等デイサービス。当時は自主的な活動)。その後、彼らが卒業した後の働く場として1993年に無認可作業所を開設。1997年に法人化を果たすと、翌年にはにこにこ会(当時は福祉工場)、2002年には知的障害者通所授産施設(当時)にこてらすと、障がいのある人が働く事業所を続々開所した。2019年に新体系に移行する時に、にこてらすは利用者の職業適性によって2つ(生活介護事業所とB型事業所)に分離することになり、その時に「より高い工賃を目指す」ことを目的として生まれたのが「りひと」だった。

 にこにこ福祉会といえば、無認可作業所時代から続けている地域企業のN社のプライベートブランド「焼肉のたれ」製造や、県内の学校給食にも採用されるほど地域では知名度のあるコロッケ(年間生産量93,000個、うち学校給食は38,000個)、ミンチカツの製造販売が有名だ。現在はこれらの作業はA型事業所にこにこ会の主力商品となっている。

 りひとで取り組んでいるのは、アスパラガスの栽培、米づくり、堆肥の袋詰め、各種受託作業(農作業、企業内清掃)である。月額平均工賃は、令和6年の実績が37,976 円。農業を中心とするB型事業所としては比較的優れた数値であり、他事業所にとっても大いに参考になることから、その具体的な活動を見ていこう。

アスパラガス栽培や米づくりなどの農作業

 まず中心となっているのが、アスパラガスの栽培である。約1,200平方メートルほどのビニールハウスで、毎日約50束(1束110g)を出荷する。その特色について、管理者の松岡建興さんは次のように語る。

「アスパラガスというのは、JAの規格によると、1本27〜28㎝で36g以上あれば、料亭にも出荷できる優良品だと評価されます。私たちが作っているのは、その基準に適合するものばかり。それどころか、市場を通さずに直接スーパーの店頭に並べるので競合商品とは鮮度がまったく違います。朝採りアスパラ独特のみずみずしさ、ずっしり太いのに柔らかいと、お客さんから大好評なのです。『りひとさんのアスパラ』と呼んでいただけることが多いので、3年前から『おはようアスパラ』とブランド名を付けました。店頭価格は1束で238円(税込)なのですが、とてもお買い得だと思います。同品質のアスパラだったら、通常は2倍以上しますから」

 米の栽培にも力を入れている。近隣の耕作放棄地を無償で借り受け(計2.4町)、ヒノヒカリという銘柄米を年間で約1.4トン収穫する。販売先は、個人や福祉施設、法人内施設など、少しでも利益が出るような手法を模索しているとのこと。

「米づくりに関しては、もともと地域貢献の意味合いが高かった作業です。近隣農家さんの高齢化が進み、管理しきれなくなった田んぼを任せたいという依頼が増えてきたのです。私たちが水田の管理をしていると、地域の農家さんがいつも声をかけてくれ、具体的なアドバイスもいただけます。利用者さんとの交流にもなっていますから、地域とのつながりを広めるという意味で、とても重要な仕事といえます」と、松岡さん。

 昨今の米不足の影響もあり、今年度の出荷額は通常の1.5倍強(30kgが16,000円〜18,000円)になる予定だ。ようやく運が向いてきたとも言えるが、次年度以降の米の価格動向はまったくわからない。米づくりが地域貢献を超え、収益事業へと進化するにはまだ多くのハードルがありそうだ。

堆肥の袋詰めや施設外就労

 もう一つの作業の柱が、堆肥の袋詰めである。これは無認可作業所時代から取り組む仕事だ。N社の牧場にて牛ふんへ籾殻等を混ぜ、発酵させた有機堆肥を袋詰めするのである。肥料は福山市内に複数店舗を構えるN社直営店舗で販売するほか、市内なら無料配送もする(10袋以上)。1日400袋をメドに生産し、春前やお盆過ぎにはピークを迎えるという。袋詰め作業だけで、米の年間売上に匹敵する約460万円を売り上げるほどの売れ行きである。

 この他、最近売上を伸ばしているのが、近隣農家への収穫作業の手伝いや企業内清掃作業などの「施設外就労」なのだと松岡さんは語る。

「福山市内の障がい者施設が集結し、共同受注センターなどの役割を行う組織『一般社団法人トータルライフサポートふくやま』が2010年に設立されました。この団体との連携によって、施設外就労の仕事が少しずつ増えてきています。私たちは長い間、自分たちで農作業に取り組んできたノウハウもあるため、農家さんからの評価は高いのです。収穫の手伝いだけでなく、作物の選別や出荷作業まで任せてもらえるようになるなど、仕事の幅も広がっています」

 現在の施設外就労の売上は、年間約230万円である。全体売上の中に占める割合はまだ高くはないが、「売上=純益」だから大きいはずだ。しかも松岡さんは、受託料の値上げ交渉も積極的に行っている。コロナ禍で激減した外国人労働者に変わる労働力として障がい者の存在が注目されている今、せめて「最低賃金の上昇率」に合わせて受託料の値上げもお願いしたいという提案である。自分たちの仕事に自信があるからこそ、堂々と交渉できる。こうした価格交渉力も、福祉事業所にとって工賃向上のために大切なチカラと言えそうだ。

利用者の生活を守るために、工賃アップを

 設立当初から「より高い工賃」を利用者に保障することを目標に掲げてきたりひとは、令和6年には前年比約1,000円の月額工賃アップを実現している。アスパラガスが安定的に売上を伸ばし、施設外就労の仕事が増えてきたことが要因である。さらに松岡さんは、利用者から「生活が苦しい」という訴えがあったとも語っている。

「利用者との雑談から出てきた話題ですが、『物価がどんどん上昇し、食材を買うにも大変になった。電気代もどんどん上がってきて、生活は厳しいです』と話してくれたのです。そんな悲痛な叫びを聞いてしまうと、真剣に考えないといけません。事業的に余裕があるわけではないですが、何とかしようという方針で工賃アップを決めました」

 他の障がい者事業所と同じように、りひとでも利用者の高齢化は大きな課題である。最高齢は75歳、平均年齢は46歳になるという。体力を消耗する仕事にいつまで対応できるか、難しい選択も迫られている。そんな点を考慮して、現在構想しているのは、ハウス栽培による高付加価値の農産物だという。「頭の中で漠然と構想しているだけなので、具体案はまだこれから」という松岡さんの構想がまとまったとき、どんな作業が加わっていくのか、楽しみである。

 事業所名の「りひと」とは、ドイツ語で「ひかり」という意味だという。一人ひとりのキラッと光る部分を活かした、楽しく働く場所の提供を目指してきた。これからも利用者たちが充実した時間を過ごせる作業を、ひとつでも多く見いだすことを期待したい。

(写真提供:社会福祉法人にこにこ福祉会、文:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人にこにこ福祉会】
https://nikonikofukushikai.jimdoweb.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年09月01日)のものです。予めご了承ください。