特定非営利活動法人日本セルプセンター

お問い合わせ

Reportage

SELP訪問ルポ

NPO法人コミュニティワークス(千葉県木更津市)

公開日:

コミュニティワークスの概要

コミュニティワークスは、地域作業所hana(就労継続支援B型事業)を運営するNPO法人である。法人設立は2006年5月。歴史はまだ浅く、1日20名定員の小規模事業所であり、利用者の中心は精神疾患を抱える人たちである。

作業内容は、英字新聞エコバッグ製作、農作業、天然石けん製作、フェアトレードショップ「アサンテサーナきさらづ」の運営、内職・事務作業、メール便の配達、製菓(テミルプロジェクトによるオリジナルスイーツ製造販売)となっている。

企業の障がい者雇用からスタートして現在に至るという特徴を持った法人であり、「仕事に人を当てはめるのではなく、人の個性に合わせた仕事づくり」という理念の元、若いスタッフたちがダイナミックな事業展開に挑んでいる。

「職親制度」を活用した企業の障がい者雇用が法人の前身?

理事長である筒井啓介氏(32歳)の経歴は、とてもユニークだ。法政大学人間環境学部在学中に、社会貢献型市民事業の第一人者である片岡勝氏(現・市民バンク代表)の講義を受けたのがきっかけで、木更津市の街おこしに関わることになる。具体的には、木更津駅前にあったそごうの空きフロアである8階を活用した「チャレンジショップ」事業だ。ここを拠点として市民活動団体やNPO団体への活動サポートや、市民起業家育成のための創業支援を実施するのである。事業スタートにあたり、木更津市が片岡氏に相談を持ちかけたところ、教え子だった筒井氏に声がかかったというわけだ。

そこで筒井氏は有限会社ネットビジネスを立ち上げ、市と協働で「チャレンジショップ」に関する事業運営を任される。以来、大学卒業後もずっと木更津に住みつき、創業・事業サポート活動を続けている。

そんな氏が、福祉の世界に出会うきっかけとなったのは、知的障がい児を持つ知人の存在であった。入所施設を退所後、働く場がなく在宅での生活を余儀なくされていた息子のために、ボランティアでもいいから筒井氏の元で働かせてほしいとある時依頼される。筒井氏の活動に対する支援者の一人として非常に世話になった方であっため、できる限りのことはしようと「職親制度」を活用して受け入れることになったのだ。

「ちょうど彼に一定のパソコンスキルがあったので、事務所の日々のデータ入力や簡単な事務作業をお願いしました。助成金のほとんどは給料として渡したので、月に2〜3万円程度の収入になったはずです。ご本人もご家族も、本当に喜んでくれましたね。障がい者の働く場を創ることがこんなに感激されるということを、その時初めて知りました」

その後、筒井氏の会社は職親制度を活用する企業として障がいのある方やそのご家族、関係機関に知れ渡ることになり、受け入れてほしいという問い合わせが増えていった。要望にはできるだけ協力したいという想いも強く、受け入れを続けたところ、ピーク時で5人の障がい者が働くこともあった。会社とはいっても、筒井氏+事務パート1名程度の、ほんの小さな有限会社である。彼らの日常的なサポートに追われ、本業にも支障が出始めた。職親制度の助成金といっても、支給されるのは一定期間だけ(原則として1年間。最大で3年まで更新可能)なのだ。

「せっかく毎日楽しそうに職場に通ってくれているのに、こちらの都合で一方的に中止するわけにもいきません。この先どうしようか悩んでいたときに、思い切ってNPO法人にすれば小規模作業所(当時)として事業を受託できることをアドバイスしてくれた方がいたのです。福祉のことには門外漢ではありましたが、地域住民からの要望に応えるという意味では立派な市民事業です。ちょうどアドバイスをするだけの立場に限界を感じ始めていた時期だったのも幸いでした。一人のプレーヤーとして地域の問題解決に向けた事業を展開できることに魅力を感じ、この世界に足を踏み入れることになりました」

そうと決まると、あとの動きは速かった。なにしろNPO法人を設立するのは、まさに専門中の専門である。かくして筒井氏は2006年に特定非営利活動法人コミュニティワークスを立ち上げ、精神障害者共同作業所hanaを開設。2010年には障害者自立支援法に基づく「就労継続支援B型事業」を運営する事業所として現在の地に拠点を移し、名称も「地域作業所hana」として本格的なスタートを切った。

全国のセレクトショップで販売されるオシャレな「新聞エコバッグ」

hanaの代表的商品が、英字新聞でつくった新聞エコバッグである。図書館等で読み古され、捨てられる運命にあった古新聞に新しい息吹を与え、オシャレなペーパーバッグとして蘇らせた。新聞の文字や写真は一枚一枚違うため、形状が同じでもバリエーションが無限である。持ち手には紙製のヒモを採用し、取っ手部分や底の補強もしっかりおこなっているため、持ちやすく十分な強度のある(耐荷2kg:トートバッグの場合)紙バッグに仕上がっている。

その品質やデザイン性の高さは、ノベルティデザイン製造を手掛ける株式会社ケンエレファントのバイヤーからも認められたほどである。同社の廃材を活用して新しいグッズを製造する「NEWSED(ニューズド)」という社会貢献プロジェクトの1アイテムとして、hanaの新聞エコバッグが取り扱われることになった。現在では全国チェーンのセレクトショップ「George’s(ジョージズ)」等、ファッショナブルな店舗やNEWSEDのWEBショップで販売されている。

新聞エコバッグの製造工程は、非常に細やかだ。新聞のカットから、折り込み、手提げ部分の強度補強、持ち手である紙ヒモ付けや穴あけ、そして検品に至るまですべてが完全に手作りである。

「作業所に通う方々の作業能力や障がい特性は、実にさまざまです。そのため、工程を細分化することで、できる限りたくさんの人が新聞エコバッグ作業に参加できるように配慮してきました」と、筒井理事長。きめ細やかな福祉的配慮ともいえるが、その上できちんとした高付加価値商品を開発できているのが、重要な点だろう。事業所の目的はあくまで「できる限り高い利用者工賃を支払うこと」と決めている。日頃から、職員にもそのための意識を徹底しているのだという。

高工賃の実現をめざして参加を決めた、テミルプロジェクト

筒井理事長がテミルプロジェクトに参加を決めたのは、2011年の春のことである。専門家からも評価されるほどのオリジナル商品を作り出したhanaではあったが、当時の平均利用者工賃はまだ数千円程度にすぎなかった。看板商品である新聞エコバックが各種メディアで何度も取りあげられたにも関わらず、数値的実績には乏しかったのである。

そんな時、ツイッターへの書き込みがきっかけで、株式会社テミルの船谷博生代表と知り合うことになり、テミルプロジェクトの存在を知る。テミルプロジェクトとは、障がい者施設のオリジナルスイーツの開発・製造・販売までをトータルでサポートするという壮大な企画である。福祉コンサルタントを専門としてきた株式会社テミルが、独自にスタートさせた。

基本的なポリシーは「福祉に頼らない製品づくり」である。「障がい者のことが正しく理解されていない現状の中で、商品自体に力がなければ売れるはずがない」というのが、船谷氏の考えだ。そのため、さまざまな分野の著名人が集まり、それぞれの強み(知恵や技術など)を持ち寄って、市場に通用する一流の製品づくりを支援していく。これまでに「辻口博啓シェフ+こむぎっこ(社会福祉法人はるにえの里)」「柴田武シェフ+La Barca(社会福祉法人豊生ら・ばるか)」「安藤明マイスター+モンステラ(社会福祉法人以和貴会)」等の企画を実現させている。(2012年5月現在、hanaを含めた計11施設の支援活動が進行中)

人気パティシエが製品開発に直接関わり、デパ地下などで販売しても遜色ないパッケージデザインを施したテミルスイーツは全国どこでも好評を博している。一流の商品をきちんと流通させれば、必ず高い利益を得ることができる。その結果、高い工賃が支払えるようになるはずだというのが、テミルプロジェクトのめざすところなのである。

こうしたテミルプロジェクトの考えに、筒井理事長は共鳴した。高い工賃を実現するための事業開発アイデアを探っていた氏にとって、まさに理想的ともいえる企画であった。

「民間のプロジェクトですからもちろんそれなりの参加費(コンサルティング費)はかかりますが、むしろそのビジネスライクなところが私は気に入りました。福祉色をまったく出さない製品づくりという基本姿勢が、私の考えとまったく同じでしたしね。製品の開発支援だけでなく、テミルさんが販売先を開拓してくれるというメリットも大きいと思います。新聞エコバッグも、ケンエレファント(NEWSED)さんのおかげで全国のセレクトショップに流通しているわけです。私たちのような小さな事業所では、営業代行してくださるパートナーの存在が絶対に不可欠なんですよ」


【補注】

日本セルプセンターでは、これまで製菓・製パン技術者派遣事業で株式会社テミルと協力関係を結んできた。2012年度の製菓技術者派遣事業は、企画運営全体(講義内容・講師派遣)をテミルに依頼した。

マザー牧場牛乳を使って、高木康裕シェフが産みだした素敵なスイーツ

プロジェクトへの参加が決まると、hanaを指導するシェフは、千葉県船橋市の超人気店「菓子工房アントレ」を経営する高木康裕シェフに決まった。ベルギーモンドセレクションでは何度も最高金賞を受賞し、TVチャンピオンクリスマスケーキ職人選手権優勝など、メディアでもお馴染みの超売れっ子パティシエである。テミルプロジェクトに参加するまで障がい者と触れあったこともなかったという高木シェフだが、忙しい合間を縫って施設を直接訪れ、設備や利用者・スタッフの力量を見極めた上で新製品の開発をしてくれた。

その結果、hanaで作ることになったのが、スペインの伝統的焼菓子ポルボローネとババロアであった。ポルボローネとババロアに使うミルクは、千葉県内のマザー牧場で毎日搾乳される新鮮なものである。これは、地産地消にこだわる高木シェフからの提案だ。筒井氏たちが用意した近隣牧場のミルク数ブランドの中から高木シェフ自らが厳選したものである。

(写真提供:株式会社テミル)

ところで、hanaはテミルプロジェクトの参加によって初めて食品事業をスタートさせることになったのだという。そんな事例はプロジェクトでも初めてのことだ。ほとんどの施設では、これまで(レベルはどうあれ)製パン・製菓事業に取り組んできているはずだ。まったくの素人集団が、超一流シェフのレシピを忠実に再現するなど、無謀なチャレンジではなかったのか? 製菓部門の担当スタッフである山岡徳子さん(39歳)に聞いてみた。

「初めは無理じゃないの?と、正直思いました(笑)。しかも発売が半年先と、スケジュールもしっかり決まっているのです。私自身、趣味でお菓子作りをしたことがあるくらいの力量ですから、とても一流パティシエの技術をなぞることなんてできません。何度作ってもダメの連続で、何度挫折しかかったことか…。でもここで諦めたら、せっかくのチャンスを逃すことになってしまいます。高い工賃を実現するという共通の目標があるわけですからね。必死で半年間、高木シェフの指導にくらいついていきました。最終的に『美味しいね!』って、言ってもらえた時の喜びは絶対に忘れませんよ。あんな喜びは、滅多に味わえないほどの素敵な体験でした」

高木シェフにダメ出しされた要因の多くは、技術的なことよりもむしろ、気持ちの問題だったのだと、山岡さんは語っている。

「なんど作っても上手くできないので、電話で相談したことがあったのです。忙しいシェフに電話するなんて、ホントに恐縮してしまうのですけれど…。その時言われたのが、『作っているみなさんの楽しさが伝わってこない』ということでした。心を込めてつくったお菓子は、必ず人を感動させることができるというのが高木シェフのモットーなのです。悩んでいたときに直接この言葉をいただいて、私たちも一皮剥けました。よけいなチカラが抜けたというのでしょうか。大切なのは、自分たちが楽しんで作ることなんだ。お菓子作りで一番大切なことを、シェフから学べたと感謝しています」

山岡さんの言葉が大げさでないのは、実際にhanaのポルボローネを食べてみればわかるだろう。口にほおばると、小さな小石が転げていくようにホロホロ溶けていく柔らかな食感。いくら食べても飽きないほどの、優しい甘さ。まさに「天使のお菓子」と評されるにふさわしく、食べる者を幸せにしてくれる味だ。マザー牧場のミルクがたっぷり使われたババロアも、口に入れた瞬間に広がるふんわりした淡い食感が特徴の洒落たスイーツである。

かくしてやっとの思いで利用者たちと一緒につくりあげたポルボローネは、マザー牧場、東京タワー、ナチュラルローソン、そして全国の百貨店で連続開催される「テミルプロジェクト販売会」等で販売されることになった。高木シェフのお墨付きをもらった本格的な味に加え、パッケージが絵本作家の村上康成氏の可愛いイラストで彩られている。「商品の質だけで勝負する」という関係者の理想が結実し、多い月には月間売上が100万円を超えるほどの人気商品に育ちつつある。

(写真提供:地域作業所 hana)

「最低賃金」を支払う事業所となることが最終的な目標

テミルプロジェクトの参加により、hanaの事業規模は急激に拡大することになった。2011年度の実績を見ると、製品の事業売上は前年比200%をゆうに超えている。とくにめざましいのが、製菓部門に関わる利用者工賃の大幅アップだろう。以前は数千円程度であった月間工賃が、なんと約10倍に向上する利用者が現れるなど、着実に数値的な成果に結びついている。しかし、まだまだ課題は大きく、事業はスタートしたばかりだと筒井理事長は言う。

「現在の最大の課題は、量産体制の確立です。テミルさんから要望される生産量を、コンスタントに確保できていないのが実状ですから。賞味期限が短く、作り置きがあまりできない菓子なので、現在の設備や人員では限界があるのも事実です。しかしできる限り、要望にはきちんと応えていきたいですね。せめて、あと3倍の生産量をめざすべきでしょう。商品が3倍売れれば、単純計算で工賃も3倍になる。そうすれば、最低賃金(時給748円:千葉県の場合)を払うことだって不可能ではないと思うのです」

筒井理事長が最低賃金にこだわるのには理由がある。hanaに通っている精神障がい者のなかには、工賃の安さに耐えきれず、自らアルバイト先を見つけて退所してしまう人が少なくないというのだ。

「精神疾患の方の場合、一般の人からはほとんど障がいのあるなしは判断できません。そのため、コンビニのアルバイト面接を受けると簡単に受かってしまうことが多いわけです。一般的なコンビニの時給は、800円程度でしょ? 金額だけ比較したら、hanaとは比べものになりませんから、彼らは勇んで出て行きます。でも困るのは、実際に仕事を始めた後のこと。仕事に対するプレッシャーや人間関係等の理由から体調を崩して、結果的に症状を悪化させてしまうということも日常茶飯事です。結局仕事は、長くは続かず、入院生活に戻ってしまうケースもあります。彼らにこんな失敗を繰り返してほしくないので、コンビニの時給に匹敵する工賃を支払えるようになりたいのです」

まだまだ歴史の浅い地域作業所hanaが、多くの利用者に最低賃金を支給するなど、常識的には難しいことのように思える。「人に仕事を合わせる」という基本コンセプトゆえ、事業品目が多すぎて収益事業に集中できない欠点も、企業コンサルであった筒井理事長ならば十分理解しているはずだ。しかしまさにこれからが、プレーヤーとしての経営センスの見せ所といえるだろう。テミルプロジェクトへの参加に続く「次なる一手」はいかなるものになるのか。若きリーダーのダイナミックな動きに、今後も注目していきたい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

NPO法人コミュニティワークス・地域作業所hana(千葉県木更津市)
http://www.npo-cw.net
facebook

NEWSED(ニューズド)
http://newsed.jp
テミルプロジェクト
http://www.temil-project.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2012年06月01日)のものです。予めご了承ください。