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社会福祉法人のぞみの園(埼玉県深谷市)

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のぞみの園の概要

のぞみの園は、春日園(生活介護)、第2春日園(就労移行支援・就労継続支援B型)、はる工房(第2春日園の従たる事業所)、たんぽぽ作業所(生活介護・就労継続支援B型)、妻沼つくし作業所(生活介護・就労継続支援B型)、のぞみ深谷営業所(放課後等デイ・児童発達支援・居宅介護・重度訪問・生活サポート・移動支援・同行援護・相談支援)や、四棟のグループホームを運営する社会福祉法人である。

この中で就労系事業所の中心ともいえる存在が、第2春日園だ。パレット製造やフィンガー加工をおこなう木工作業から、パンや製麺などの食品加工、そしてウエスや金属プレスなどの軽作業に至るまで、その作業は多岐にわたっている。平成4年の設立時(第2春日園として春日園の通所部門が独立)には内職などの下請け仕事が中心であったのだが、就労を目的とする事業所としての位置づけを明確化し、稼げる仕事への転換を図った。その結果、現在のようなさまざまな仕事をおこなう施設へと変化していったのである。

企業相手の木工作業

第2春日園を代表する作業といえば、まずは木工作業であろう。木工作業といっても、ここで製造しているのは企業相手の大きな制作物。一つはフィンガージョイントによって作られる住宅の間柱(まばしら)だ。フィンガージョイントとは、木材製造過程で余った端材をつなぎ合わせるという製材法。40cm〜50cm程度の短い端材を何本も接着剤でつなぎ、3m〜4mの長い柱に仕上げていく。無垢材と比較すると癖がない上、木材の究極のリサイクルとしても注目されている。第2春日園は、ツーバイフォー工法の最大手・株式会社ランバーテックとの取引によって、安定的に仕事を供給してもらっている。

もう一つの木工作業が、パレット製造である。パレットとは、物流時にモノを乗せるための荷受け台のこと。工場やトラック、コンテナなどでの荷受作業を扱いやすくするために、荷物の下に敷いてある木の台である。最近では合成樹脂製が増えてきたといわれるが、生産コストや廃棄処理のことを考えると、またまだ木製パレットが主流を占めている。カラ松の仕組材に釘打ち機で釘を打ち込み、一台のパレットがあっという間に完成していく。単純だが、正確性を求められる作業であり、次々と完成した製品が山積みになっていく。成果が目に見えるため、利用者の労働意欲が継続しやすい仕事なのだという。

フィンガー加工、パレット製造を併せると、木工班の年間売上は2,000万を超えている。名実ともに第2春日園の事業の基本を支える事業なのである。

治具によって可能となったプレス加工

軽作業班では、ウエス製造や金属金具のプレス加工をおこなっている。この班で働く利用者の障害程度は第2春日園の中でもっとも重いのだが、彼らに合わせた治具の開発によって木工班にも負けない売上実績を残すことが可能になった。

代表的な例は、住宅関連企業から発注されている住宅金具だろう。通常3〜5種類の部品をセットし、プレス機にかけて一つの部品にまとめていく。部品の箱自体が重く、手に障害のある利用者もいる第2春日園では不向きな仕事ではないかと当初は思われた。しかし金具を製造していた他社工場を見学し検討を重ねた結果、独自の治具を導入することで重度の利用者でも対応可能な仕事になったのである。山崎勝園長は、その成果を誇らしげに語っている。

「他社では一人の職人さんが部品を台の上に並べ、プレス機にかけていくところを、私たちは部品をいくつも並べる台を製作し、台の棒に部品を差す人、プレスする人、それを袋詰めする人…と分担制にしてみました。するとなんと、時間当たりの製造数は職人さんよりも多くなったのですよ(笑)。もちろん職人は一人で、利用者は複数ですけれど、それにしても画期的な発明でした。この治具によって、重度の利用者でも高い工賃を稼げる仕事が確保できたのですから」

パンから製麺、さらにはトマト栽培まで

第2春日園では、食品製造事業にも力を入れている。平成23年度に埼玉県の森林整備加速化・林業再生事業を利用して建てた「はる工房」をオープン、無添加パンや埼玉県産の地粉のみを使ったうどんの製造販売をおこなっているのだ。山崎園長は、食品事業が今後大きく授産事業を拡大させるためのカギになるのだと説明する。

「パレットやフィンガー加工などの木工作業や住宅部品プレス加工などの仕事は今のところ安定していますが、景気に左右されるという不安要素も抱えています。それと比較すると、食品の製造販売はやり方によっては可能性は無限大。難しさもありますが、非常に楽しい仕事だと思うのですね」

はる工房のオープン時には、第二回日本セルプセンターデザイン支援事業を活用してオリジナルのロゴマークを作成し、商品ラベルシールやうどんパッケージ、店舗の看板、さらには第2春日園の名刺や封筒などにも活用している。可愛い「はる」のロゴが印象的なマークであり、うどんのパッケージに使われた「うどん」の文字は利用者に書いてもらった習字を使っている。

「なにしろ、人どころか車さえもなかなか通らない道沿いに建っている店舗。美味しいうどんを提供する店として評判は高いものの、商売としてはまだまだです。でも施設の近くに自分たちの商品を実際に販売する店舗をもてたことは、利用者たちのモチベーションアップにつながっているはず。あとはどうやってこの店に集客していくか。若い職員たちのアイデアに期待しています」

パンや製麺に続いて、4年前から新たにトマト栽培にも挑んでいる。養液栽培による大規模トマトハウス栽培だ。まだまだ実験的な域を出ない事業にもかかわらず、1月〜6月までの収穫時期にはハウスまでトマトを直接買い求めにやって来る固定客もつきだした。商品にならない傷物から、ジャムやケチャップなどの加工品の製造にもトライしている最中らしい。

「埼玉県一プログラム」で、県下トップの施設をめざす

これまで法人の理事長とすべての施設の代表を兼ねてきた山崎さんは、平成26年7月から第2春日園の園長に特化し、授産事業の活性化に乗り出している。就労系事業所としてめざすのはやはり、県下トップの工賃を誇る事業所である。

「20年前に施設の平均工賃が8,000円の時代に、利用者にアンケートをしたら工賃はせめて20,000円以上欲しいというのが平均的な数字でした。この結果をもとに私たちは改革を進め、一時期は30,000円を超える平均工賃を達成してきたのです。しかし現在は、少し下がってしまって昨年度の実績が27,410円(B型)でした。もう一度これを上昇させ、少なくとも埼玉県ではトップの工賃にしたいというのが『埼玉県一プログラム』なのです」

現在、職員と共に目標を達成するための具体的なアイデアを検討している最中なのだという。県下一のパン、県下一の繁盛うどん店、県下一のオリジナル商品をつくるためにはどうしたらいいのか…等々。山崎園長の手法はあくまで職員にアイデアを出させ、自分たちで問題解決にあたらせるというやり方だ。

「私たちの法人では、春日園で育った職員を別の施設の幹部職員に据えるという考え方でした。その結果、私自身が一番古株の授産事業職員になってしまった(笑)。これでは次の世代は育ちません。若い職員をもっと育て、もう一度就労事業が活性化するような組織にするのが、今の私の一番の役割でしょう」

と山崎施設長。「埼玉県一プログラム」によって、第2春日園が目標に向かって大きく前進することを期待したい。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人のぞみの園(埼玉県深谷市)
http://www.nozominosono.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2015年01月01日)のものです。予めご了承ください。