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社会福祉法人みのり会(石川県七尾市)

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みのり会の概要

 みのり会は、みのり園(就労継続支援B型事業)、みのりの里(生活介護事業)、ひまわりホーム(グループホーム)等の障がい者支援事業を行う社会福祉法人である。「みのり園の主人公は園生です」の基本理念を念頭に掲げ、個人の尊厳を大切にし、個々のニーズに沿ったサービスを提供する。

 作業種目としては、自主生産グループが①納豆、②ウエス、③ポン菓子、④漬け物・こんにゃくであり、受託生産グループが①ハーネス、②箱折り、③ルアーとなっている。

 設立は、1972年。七尾市馬出町福祉センター分館で、ミニ授産所(当時)として開設したのが始まりだ。その後1986年に知的障害者通所授産施設(当時)みのり園が誕生し、2011年に多機能型事業所みのり園(就労移行・就労継続B型・生活介護)となり、2020年に現在の形(就労継続B型・生活介護)に集約された。能登半島でもっとも古い歴史を持つ伝統ある事業所である。

主力製品の納豆の売り上げが減少し、大ピンチ

 さまざまな作業種目の中でも、主力となっている作業は納豆製造である。デカ山(大粒)、チャンコ山(小粒)、黒豆、石川県産大豆の4種類があり、一晩水に漬けた後、蒸した大豆に納豆菌を噴霧、容器に小分けして発酵室で一晩寝かせると、美味しい手づくり納豆の完成となる。国産大豆にこだわっているため、豆の味が濃いとお客さんからは大好評。その味は、和倉温泉の名だたる名旅館にも朝食として採用されるほどである。

 しかしその納豆売上が、2024年1月1日に発生した能登半島大震災以降、大きく減少した。和倉温泉の旅館の多くは海岸沿いに立っていたため、建物が壊滅的な被害を受けたのだ。施設長の田畑正村さんは、苦しい胸の内を打ち明ける。

「和倉温泉の旅館の多くは、今でも営業を中止したままです。日本を代表する高級旅館の加賀屋さんですら、再開のメドは立っていません。旅館に卸していた納豆売上がゼロになってしまったので、事業的には非常に打撃でした」

 納豆に次ぐ商品として、みのり園では十数年前から菊芋茶の製造にも取り組んでいた。菊芋に含まれる水溶性食物繊維「イヌリン」が血糖値の上昇を抑え、腸内環境も改善してくれることから、近年健康食として注目されつつある。七尾東雲高校で農業を教える教師が七尾市内での菊芋普及に力を入れていたことから、みのり園の新たな収入源として取り組みたいと手を上げた。

「芋といっても見た目は生姜みたいで、一般的には馴染みが薄い食材ですけど、栽培は比較的簡単です。最近はテレビや雑誌でも菊芋茶が健康に良いと何度も取り上げられ、ちょっとしたブームになっています。JAや道の駅でもとても売れるので作付け面積を拡大したところ、イノシシ被害に遭ってしまいました」と、田畑さん。

 せっかく納豆売上のマイナスをカバーできると目論んだのに、まさに踏んだり蹴ったり。しかし、健康食としての菊芋茶は一時的なブームではなく、今後も大きな市場になりそうだ。そこで畑のまわりに鉄柵を設け、万全のイノシシ対策を施した。昨年はほとんどイノシシに食べ尽くされてしまった菊芋も、今年はなんとか無事に収穫できるとのこと。今後はお茶だけでなく、菊芋チップスなどの新製品も開発していく予定だ。

2年の月日を経て、少しずつ仕事も増えつつある

 震災後に急激に増えた仕事が、ウエス(雑巾)作りである。家庭から持ち込まれる古着を加工し、工場や整備現場で使う雑巾として販売していたのだが、以前は原料となる古着がなかなか入手できない悩みがあった。しかし七尾市には震災で半壊した家も多く、片付けの段階で捨てざるを得ない古着が山のように集まってきたのだ。

「普段なら数十枚程度しか集まらない古着が、一時は倉庫の天井まで届くほど大量に集まってきました。さすがに最近は少し落ち着きましたが、ごらんの通りけっこうな枚数です。すべてがウエスに適した綿製品ではないとはいえ、材料が多ければ加工量も増やすことができる。ウエス部門の売上は、順調に上がっています」と、田畑さん。

 箱折りの受託作業も、回復しつつある。震災直後は、石川県そのものに観光客が集まらなくなったため、土産物の生産も激減した。金沢市には有名な菓子メーカーが軒を連ねているため、みのり園に依頼される箱折りの仕事も多かったのだが、一時期はすっかり途絶えていた。能登半島はまだ復興途中というものの、最近は金沢への観光客が戻りつつあるため、箱折りの仕事も復活し始めたのだという。

「箱折りの仕事が回復したとはいっても、そもそも単価が安いので、事業にそれほど影響があるわけではありません。でも工程を細かく分け、段ボールをセットする役割を任せるなど、重度の利用者さんにも作業に参加できる場を与えられるのが大きいです。みのり園の基本方針は、『主人公は園生です』──。個々の能力に応じた作業を提供するのが、もっとも大切だと考えています」

 現在のみのり園の月額平均工賃は、約20,000円(2024年実績)。納豆の売上減があって厳しい状況は続くものの、菊芋茶、ウエス、箱折りの他にも、アルミ缶リサイクル、梅干し・つけもの・こんにゃく、ハーネス・ゴムばり取り(受託作業)等を組み合わせることにより、なんとかこの数値以上を今後も維持していきたいとのことだ。

能登半島大震災の被害を超えて

 震災直後のことについて、改めて田畑さんに伺ってみた。

「地震があった時は正月休みだったのですが、自宅まわりでも倒壊した家がたくさんあったので、心配で事業所まで見に来ました。建物こそ無事だったものの、中に入ると天井板は何枚も崩落しているし、天井のエアコンも宙づりになったまま。壁にも亀裂が入って、見るも無惨な状況です。1月4日から事業所を再開しましたけど、当初はもちろん職員だけ。修理を依頼しようにも業者もほとんど被災している状況ですから、壁紙の張り替えとか、亀裂の補修とか、最低限のことを自分たちでやるしかありませんでした」

 利用者の状況把握にも努めたが、半分程度は自宅が倒壊しているらしく、避難所で暮らしていた。出かけている時に地震が起こったため、外出先近くの避難所に移動し、家族でさえ居場所が分からないケースもあった。全員の安否を確認できるのに、1ヶ月以上かかったという。避難所暮らしを経て、遠くの親戚の家に避難した家庭もあるため、震災前と比べると利用者の数は10名以上減っている。事業運営をする上では、大きなハンデを負ったといえるだろう。

 そんな中でも、田畑さんは必死に前を向いている。最悪の状況からは、なんとか立ち直った。あとは和倉温泉の復興を待つだけである。完全な回復にはまだまだ時間はかかるかもしれないが、できることから一歩ずつ進めていくしかない。石川県、とくに能登半島には、震災によって大きな被害を受けた福祉事業所も数多いという。みのり園がその代表として、1日でも早く立ち直り、以前の活気を取り戻すことを期待したい。

(文、写真:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人みのり会】
https://www.minorien.website

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年12月02日)のものです。予めご了承ください。