Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人こうよう会(神奈川県横浜市)
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こうよう会の概要
こうよう会は、多機能型事業所ジャンプ(就労継続支援B型事業・生活介護事業)、多機能型事業所のぞみ(就労継続支援B型事業・就労移行支援事業)、はばたき(就労継続支援B型事業)、ウィングワークス(就労継続支援B型事業)等の障がい者支援事業所を経営する社会福祉法人である。
この他にも、5カ所のグループホーム、就労支援センター(横浜市からの受託事業/障害者就業・生活支援センターも併設)、特定相談支援事業も運営する。
その特色は、作業を中心とする就労事業所を運営することだ。原点は日野中央高等特別支援学校の親の会が、卒業後の子どもたちの働く場を求めて1997年に設立した無認可作業所「港南作業所ジャンプ」であり、地域ごとに事業所を増やしていった。
2002年に社会福祉法人となった後、ジャンプは単独のB型事業所として運営されていたのだが、現在の地に移転した時(2017年)に生活介護事業を併設した多機能型事業所となった。作業科目としては、パンの製造販売・企業からの受託作業(B型)、木工品ヤスリがけ・刺繍雑貨づくり(生活介護)である。

自家製パンを日替わりで出張販売
ジャンプの総売上の7割を占めるのが、パンの製造販売だ。専用の溶岩釜で、ウインナーロール、明太マヨ、ごぼうサラダパン、海老ポテ、オニオンベーコン等々の惣菜パン、塩キャラメル、カスタードパン、やぶ北お茶あんなどの菓子パン…を製造し、日替わりで県庁、市役所、港南区役所、近隣の地域ケアプラザ、日野中央高等特別支援学校、横浜市病院協会看護専門学校、等に出張販売する。
「基本的にはお昼ご飯用に買ってもらうパンなので、季節ごとの素材を活かした各種惣菜パンをつくるように努力しています。一番のお勧めは、毎日炊いている自家製カスタードがたっぷり詰まったクリームパンでしょうか。プレーン、シナモン、くるみといった味のキューブパン(ミニ食パン)も人気商品です」と、森山茂樹施設長。
日野中央特別支援学校では、高校生たちがいつもジャンプのパンを楽しみに待ってくれている。週2回(火・金)の販売だが、持って行くと約150個のパンはいつも15分で完売してしまう人気ぶりだ。
この他には、秋のイベントシーズンでの販売が大きいらしい。地域ケアプラザや横浜市岸根公園など、ひとつだけでもビッグイベントであるにもかかわらず、日程が重なると現場は大パニックだ。それでもせっかく売れるチャンスだからと残業・早出をいとわずに、頑張って商品を作り上げている。その結果、1日で800個以上パンを製造し、すべて売り切ったこともあるのだという。
共同受注窓口を活用した営業活動
軽作業班の売上も順調である。数字だけを比較するとパンの製造販売に及ばないものの、利益率で考えると同等以上の成果を上げている。具体的な仕事としては、ボルトネジの組み立て、古着の値札付け、チラシ折り&封入封緘等々である。この中でもボルトネジの組み立ては、月に1〜2万本の作業量が発注され、年間で約100万円もの売上が確保できるメイン作業だ。大手リサイクルチェーンから依頼される古着の値札付けも、ジャンプの利用者にはとても合っている。
こうした仕事は、神奈川県障害者共同受注窓口(はたらき隊かながわ)や横浜市障害者共同受注センター等をフル活用しているとのこと。森山さんは以前、別の障害者施設に在籍していたときに、神奈川県セルプ協や日本セルプセンターの会議に参加していたこともあり、他施設との交流も深かった。受注拡大のためにはジャンプ単独で動くよりも、仲間たちと一緒に営業活動することの効果を重要視しているのだ。
「県庁や市役所でのロビーでの販売も、複数の施設が交代で販売に訪れるからお客さんにアピールできるのだと思います。県庁は5施設が交代ですけど、市役所の販売にエントリーしているのは20数か所。おかげで市役所の販売は、1か月に1回しか順番が回ってこないのですけど…」と、森山さんは笑う。
こうした営業の成果もあり、昨年度のジャンプの月額平均工賃は29,000円となった。コロナ禍で一時は1万円以下にまで下がってしまった月額平均工賃も順調に回復し、少しずつステップアップを果たしているようだ。これは、ちょうどコロナ禍の時にジャンプの管理者として着任した森山さんの力が大きいのではないか。もちろん彼が示した方向性に対して共感・奮起し、生産性をあげながら厳しい時期を乗り越えた職員たちの努力も見逃せない。就労に特化し、少しでも高い工賃を…という法人からの求めに対し、利用者も含めたみんなの力を結集させて着実に結果を残してきたのである。
作業室の入口には、「今月の平均工賃のお知らせ」という貼り紙が、さりげなく掲示されている。これこそが、ジャンプの飛躍を支える象徴ではないだろうか。月毎の数値の変化を、職員だけでなく利用者にも情報公開し、一体となって仕事へのモチベーションを高めていくのが狙いだろう。他法人のすぐれた事例を知る森山さんは、「やはりいつかは全国の素晴らしい事業所の仲間入りができるように、5万円以上の高工賃を目指したいと思います」と意欲を語ってくれた。
生活介護にも「作業」を取り入れ、ムードを活性化
そんな森山さんだから、生活介護事業にも積極的に作業を採り入れた。その理由を、次のように語る。
「私が初めてジャンプの利用者さんを見たときの第一印象が、『この人たちなら仕事ができるのでは?』でした。実際、B型から生活介護に転籍した方や、もともと一般就労されていた方もいるのです。もちろん利用者さんの希望を優先するのは当然ですが、レクリエーションばかりでなく、できる範囲で仕事もしてほしいと思いました」
現在取り組んでいるのは、市内に住むアーティストの木工グッズのヤスリがけや、刺繍雑貨の製造である。完成した商品は、近隣のバザーに出店し、利用者たちも一緒に販売しに出かけて行く。生活介護に導入した仕事が、利用者たちの(少ないながらも)工賃を生み出し、バザーでの販売は地域住民との交流にもなっているわけだ。利用者一人ひとりに眠る能力を引き出すという意味では大きな成果であり、現場のムードも一挙に活性化した。
ジャンプの今後について、最後に森山さんは次のような夢を語ってくれた。
「地域に根ざした活動を行うためにも、たとえば地元の食材を活かした新商品の開発などにも取り組みたいと思っています。大きな夢としては、上大岡駅の近くに独立店舗をオープンできるといいですね。そのためにも売上拡大と共に、しっかりした原価計算で利益が残せるような事業を行っていきたいと思います」
こうよう会の法人ロゴの意味は、「一つ一つの丸を人に例え、こうよう会の頭文字Kの形の中で『つながり』を意識した。薄い青から濃い青へのグラデーションは、人間の成長を意識したものになっている」である。ほのぼのとした事業所の雰囲気の中でも、着実に成長を続けるジャンプの今後の発展に期待したい。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
【社会福祉法人こうよう会】
https://www.kouyou-yokohama.com
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年08月01日)のものです。予めご了承ください。