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社会福祉法人宮崎県社会福祉事業団(宮崎県宮崎市)

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向陽園の概要

向陽園は、社会福祉法人宮崎県社会福祉事業団が母体となる障害福祉サービス事業所(就労移行支援事業、就労継続支援B型事業、生活介護事業、共同生活援助事業)である。その歴史は古く、1973年にまで遡る。聴覚障がいのある人たちの就職訓練の場として宮崎県が設置した施設(聴覚障害者等リハビリホーム県立向陽園)が前身である。その後2001年に身体障害者授産施設県立向陽園と名称が変わり、2006年の民間譲渡で宮崎県社会福祉事業団が運営するようになった。

向陽園の作業の中心は、設立時から続く木工作業である。現在でこそ年々増えつつある知的障がいのある利用者への対応として、野菜の選別作業や加工作業なども行うようになってきたのだが、本格的な木工作業こそが向陽園の変わらぬ伝統であり、とくに「ろくろ技術」に関しては日本セルプセンター木工部会の加盟施設からも高く評価されている。

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利用者が、宮崎県伝統工芸士に認定された!

向陽園の木工作業の技術を支えているのは、17歳から50年近く向陽園で働き続けている利用者の田村和也さんの存在だろう。設立時には作業場に6台設置されていたろくろを回せる技術者も、現在の向陽園には少なくなってしまった。そんな中で、田村さんはいまだに現役の職人として、ケヤキや水目桜などを使った丸盆、パン皿、弁当箱等の木工製品を作っている。目標工賃達成指導員の河崎愛子さんは、次のように語る。

「田村さんのろくろ技術は、専門家たちの間でも一目置かれています。ていねいな仕事が評判を呼び、県内の同業者からも名指しで仕事の依頼がくるほどです。もう一人利用者には内八重幸一さんという職人もいて、この2人が向陽園のろくろ製品を支えています」

向陽園の設立当初は、近隣にある大島授産場で作っている宮崎漆器の素地の製造を任されていたのだという。本漆で塗る最高級の漆器の土台となる素地だから、当然ながら高度な技術が要求される。そんな仕事をこなしていくうちに、長い年月をかけて向陽園の利用者たちのろくろ技術が磨かれていったのだ。最盛時の職人たちの姿は高齢化等によって年々減ってしまい、田村さんたちは伝統の技を受け継ぐ最後の職人である。その技術力の証明が、田村さんが2020年に認定された「宮崎県伝統工芸士」というわけである。田村さんは現在65歳だが、体力の続く限り頑張って働きたいと意欲を燃やしているという。

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大型家具やキッチン用品などの製品も、盛りだくさん

向陽園の作り出す木工製品は、ろくろ製品だけではない。大型家具から小さなキッチン用品まで、バラエティに富んだ各種商品を開発しているのだ。キッチン用品としては、パイン材を加工したトレー、キッチンペーパーホルダー、ひのきの香りが漂うコースター、木べら。大型家具としては靴箱、ベッド、タンス、ベンチ、等々。「楽尻(がっしり)くん」という商品名で売り出している木製ベンチが、とくに人気の商品らしい。

「以前は販売会等で、小型のキッチン用品がよく売れたのですけれど、最近はこうした自主製品の売上が減少気味です。その代わりに、法人(宮崎県社会福祉事業団)が運営する施設や幼稚園、保育園、官公庁から家具等の発注が相次いでいます。つい先日は、宮崎市役所内に設置された『おくやみコーナー』のパーテーション、看板、テーブルをご依頼いただきました。市産木材の利活用という観点で、向陽園が評価されているのかもしれません」と、河崎さん。

こうした評判が、最近になってようやく民間業者にも少しずつ広まり、国産材を使って家具等の製造を委託する工場を探すうちに、向陽園の存在に気が付いた。このような流れで、木材持ち込みによる「受託加工」というカタチの仕事も増えつつある。そのため、向陽園全体の年間売上高(約800万円)は、幸いなことに前年ベースを守っている。しかしサービス管理責任者の吉田理恵さんによると、受託の仕事にも悩みは尽きないのだという。

「現在、木工受託加工の割合は全体売上の20%を占めるようになりました。利益率は高いのでこれを伸ばしていきたい反面、納期や製品管理という観点から見ると正直なところ、難しい面もありますね。いくら技術が高いといっても、私たちは一般の事業者とは違いますから。今後はやはり、向陽園の特徴を理解した上で協力してくれる取引先を大切にしていきたいと思っています」

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新製品を続々開発

向陽園では、2019年に新製品として子ども用木工玩具「もくもくキッチン」を開発した。木製キッチンセットが収納されているケースがコンロに早変わりというアイデア商品である。宮崎県産の木材を活用し、木のぬくもりを存分に感じることができる。セットの中には木で作られた包丁、フライパン、食器、食材(野菜や魚)が入っており、口に入れても問題ないように、植物由来の安全な塗料を使用している。商品開発の背景を、黒木郁子園長は次のように説明する。

「保育の現場では、このような知育玩具が求められているようで、いくつかの施設からさっそく注文が入りました。宮崎市のふるさと納税の返礼品としても採用され、全体で年間23台もの注文がきました。製作するのは大変ですけど、うちの人気商品となっています」

「もくもくキッチン」の名前は商標登録し、「おもちゃ用ケース」も意匠登録した。まさに向陽園の全職員の英知が結集した意欲的な商品といえる。今後は引き続き、児童保育の現場で「定番の教材」となるような商品の開発を目指していくのだという。

もう一つ、2020年に売り出した「かがみもっち」もユニークである。正月に飾る鏡餅を木で作ったもので、まさにろくろ技術を売り物とする向陽園ならではの商品であり、木のぬくもり、香りに癒やされながら、毎年繰り返し飾ることができる点は、SDGsの時代にピッタリかもしれない。

最後に、黒木園長に今後の抱負を語ってもらった。

「田村さんのような職人が現役で働いてくれているうちに、少しでも若い利用者たちに技術を伝えていけたらいいですね。障がいの種類は変わっても、ここまで培ってきた木工作業という向陽園の伝統はこれからも続けていくつもりです。ろくろを回すのは難しくても、糸ノコ作業とか、サンドペーパーで製品を磨くなど、いろいろな作業工程があります。利用者の方々の作業能力を高めつつ、アイデア製品をみんなで開発して売上全体も上げていく。そんなスタイルで、私たちは工賃向上を目指したいと考えています」

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(写真提供:向陽園、文:戸原一男/Kプランニング

向陽園
https://www.m-sj.or.jp/koyoen/

関連サイト:さとふる「もくもくキッチン」取扱サイト

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2022年02月01日)のものです。予めご了承ください。