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社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)

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社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)

こがね福祉会の概要

 こがね福祉会は、こがね園(就労継続支援B型事業、生活介護事業、相談支援事業)を運営する社会福祉法人である。B型事業所の作業の中心は、電子部品製造過程で使われるリールのほどき作業となっている。2000年の事業所設立当初は、リユースリール作業(取引先毎に仕分ける選別、ラベルはがし、検査)等に取り組み、県内有数の高い月額工賃を誇る事業所として知られていた。しかし、リーマンショック、東日本大震災等を経て需要は急激に減少し、工賃はいつの間にか10,000円台へと落ち込んでいった。設立当初までとはいかずとも、障がいのある人たちが障害年金を含めて自立生活を営める最低ラインの30,000円という目標を達成するために、2019年より運営を引き継いだ理事長の中島香織さんの挑戦が始まったのである。

社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)
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工賃向上のために取り組んださまざまな試み

「ここ十数年、工賃向上のために、あらゆることに取り組みました。バイオディーゼル燃料精製、施設外就労、さをり織り、他施設製品の仕入れ販売、農業…等々です。でもバイオディーゼル燃料はフィルターが詰まりやすくて、安定的に購入してもらえないことに加え、ディーゼル燃料の下落で、利益はほとんど出なくなりました。農業も含めた施設外就労は、身体障がい者が中心のこがね園の利用者には向きません。さをり織りは素敵な反物はできても、糸代が高くて高価な商品となり、地方ではなかなか売れません。仕入れ販売にも取り組みましたが、利益はあまり出ませんでした」と、中島さんは過去の苦労を語る。

 他の施設に見学に行き、さまざまな工賃向上研修に参加して、あらゆることを試してみたものの、こがね園での工賃向上にはつながらなかった。そこでもう一度、請け負っていた下請け作業に着目した。こがね園は完全バリアフリーの環境となっているため、利用者にとっては外に出かけるよりも園内の方が作業するには向いている。そこで取引企業に対し、他にも仕事がないかを打診。じつはその会社の中核的な仕事に電子部品製造過程で使われる大きなリールのほどき作業があることが判明した。それまでこがね園が受託していたのは、仕事の一部にすぎなかったのだ。

 そこで中島さんは「こがね園でも頑張って仕事を覚えますから、ぜひほどき作業も発注してください」と直訴。リールの大きさもまったく違い、作業内容も非常に緻密さが要求される作業に取り組むことにしたのである。

社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)
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ほどき作業への特化によって大幅に利益率は向上

 とはいうものの、やはり当初は新しい仕事への変化に、現場は戸惑ったという。具体的な作業としては、①トラックで運搬されてきた大きな段ボールをリフトで降ろす、②段ボールの中からリールを取り出す、③リールを綺麗に磨く、④リールが傷ついている場合には補修する、⑤再出荷できる状態になっているかを検査、⑥段ボール箱をガムテープで修正、⑦リールと一緒に同封するビニール袋折り、⑧リールを段ボールに戻す…という工程になる。このあと段ボールは再びリフトでトラックに積まれ、納品に向かうのである。

「何しろ大きな荷物ですから、ものを動かすだけでも体力が必要です。あまりの仕事の変化に、現場からもさまざまな意見がありました。落ち着くまでには5年ほどかかったでしょうか。とにかく利用者工賃を30,000円以上にあげることに必死で、生産効率が安定してからは積極的に取引先との価格交渉も行っていきました」と、中島さん。

 たとえば単価計算である。企業がパートさんを雇った場合、1時間で何個作業できるかを逆算し、そこから1個あたりの単価を試算して提案していく。こがね園での作業が認められ、今後はこの仕事を全面的に任せたいとの声が上がるようになると、「利用者30名に対して最低30,000円の月額工賃を出すには、1ヶ月で100万円以上の仕事量を保障してほしい」と交渉。作業費に加えて電気代、場所代、運送費、リフトリース代まで獲得することに成功した。

 かくして2023年1月から、ほどき作業に全面移行を決定する。B型事業所の利用者は、全員がこの仕事に取り組むことになったのである。前出したようにほどき作業にはさまざまな工程があるが、工程ごとに異なる工賃額も設定した。少しでも高い工賃を希望する利用者には、(本人の適性も考慮しつつ)難しい工程を担当してもらう。お金よりも作業に参加することを優先する方には、袋折りなどの比較的優しい工程を担当してもらう。こうした改革によって現場の意識はさらに高まり、中島さんが目指した月額平均工賃30,000円の壁は一挙に超えた。ついには35,000円を超えるまでになったのである(2024年実績)。

社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)
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地域との交流もこがね園の大きな特徴

 こがね園のもう一つの特色は、地域との交流を積極的に展開しているところにある。たとえば2021年に開所したグループホーム・すまいるには、多目的ホールを併設。地域の自治会や高齢者グループたちに無料貸出している。こうした方針が功を奏し、グループホームの世話人はすべて徒歩圏内の方にお願いできているという。近隣住民が障がいのある人たちの生活を支えるという、理想的な環境といえる。

 取材後、事業所の玄関にグリーンコープの移動販売車がやって来た。1人では買い物に出かけることのできないこがね園の利用者たちは、大喜びで買い物を楽しんでいる。近隣住民たちも続々と集まって来た。こがね園の玄関が、移動販売車の定期販売所となっているのである。グリーンコープの担当者が移動販売の新たな停留所を探している話を聞き、中島さんが「ぜひこがね園の玄関を使ってください」と提案したのだという。利用者も地域住民も買い物を楽しめるし、さまざまな人たちが交流できる楽しい時間となる。こうした暖かい雰囲気こそが、この事業所の運営方針を代弁しているように感じた。

 こがね園では、さをり織りの製造や、「芋焼酎自立」の販売にも取り組んでいる(福岡県内9施設共同参加による「まごころ製品プロジェクト」)。畑で栽培したサツマイモを醸造会社に持ち込んで焼酎に加工してもらい、オリジナル製品として販売するのである。ラベルには福岡県内の障がい者アーティストの絵が採用されている。

 今後の課題は、ほどき作業に特化した仕事の他にもいくつかの柱を作っていくことだと中島さんは言う。今のところ受注量は安定的に確保できており、売上が急激に下がる心配はなさそうだが、万が一の時に備えた準備は怠らない方がいい。「まごころ製品プロジェクト」への参加も、そんな考えから進めているに違いない。工賃向上を目指してもがき続けた結果、3倍以上の月額平均工賃を達成した実績は、他事業所にとっても大いに参考になるはずだ。これからも、さらなる飛躍を期待したいと思う。

社会福祉法人こがね福祉会(福岡県朝倉市)
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(文、写真:戸原一男/Kプランニング

【社会福祉法人こがね福祉会】
https://www.gakuseikai.or.jp

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2025年06月01日)のものです。予めご了承ください。