Reportage
SELP訪問ルポ
一般社団法人きぼう(宮崎県宮崎市)
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きぼうの概要
きぼうは、喜望(就労継続支援B型事業)を運営する一般社団法人である。2010年5月に、自身も透析患者であった鈴木龍之介前理事長が「週に2〜3回人工透析に時間を取られるため、仕事が見つけにくかった後輩たちが安心して働ける場所を作りたい」との強い意志で立ち上げた(現在は透析患者以外の障がい者も受け入れている)。
法人のモットーは、「生きるために働いて、楽しむために生きている」である。働いて多くのお金を稼ぐことはもちろん大切だが、楽しく生きるために働くのだという基本を忘れてほしくない。それゆえに30分に1回、5分の休憩を定期的に取るようにしている。これは、利用者の集中力が持続することをねらった配慮だという。こうした体調管理へのきめ細やかなこだわりは、透析患者を主体としてスタートした法人ならではの運営方針と言えるだろう。
主な作業内容は、企業からの受託作業(自動車部品組立、ピーマン・千切り大根の袋詰め、焼き芋自動販売機の管理)、施設外就労(ミニボートピア宮崎清掃業務)である。以前は野菜直売所の運営(惣菜製造販売)なども行っていたのだが、売上が年々低迷する中でコロナ禍に突入したこともあり、現在では販売所を縮小している。
売上の約半分は、野菜の袋詰め!
現在、喜望の作業売上の約半分を占めるのが、宮崎中央卸売市場内の青果企業から請け負っている千切り大根、ピーマンの袋詰めである。目標工賃達成指導員の濵野一成さんは、この仕事について次のように説明する。
「宮崎県は日本一の千切り大根の生産地ですから、同じ仕事をしている施設は宮崎県内にとても多いのです。千切り大根をほぐして計量し、袋に入れるという単純作業なので、どんな障がいの利用者さんでも取り組みやすいというメリットがあります。たとえば視覚障がいのある方でも、音声計量器を使えば作業に参加できます。もっとも、ゴミや不良品を取り除く作業がとても難しいですが。誰の目にも明らかに不良品と分かるような商品ではないので、どこから不良品とみなすのかという判断は個人の主観に委ねるしかないのです。できるだけ基準がぶれないように、職員と利用者が話し合いながら決めていくしかありません。あまりのんびりしていると、千切り大根は空気に触れて茶色く変色してしまいます。時間との闘いの中で、不良品の選別に毎日みんなで必死に作業を進めています」
その点、ピーマンの袋詰めは利用者たちも安心して取り組めるようだ。これは単に150g(3〜4個)を計量して、袋に詰めていくだけの作業だからである。不良品があったとしても、その判別に迷うことはない。とはいえ、1日に取り組むのは納品数にして段ボール50箱(1箱10kg)という膨大なボリュームである。朝早くに宮崎中央卸売市場に職員が大量のピーマンを取りに行き、9時から15時までひたすら利用者たちが袋詰め作業に没頭する。宮崎県はピーマンの一大産地ということもあり、ほとんど途切れることなく発注があるという。
一般的に受託作業というのは単価が低いのが悩みの種だが、取引先の中には通常よりも1.5倍程度高い単価で発注してくれる企業もある。そのため、千切り大根、ピーマンという受託作業だけで、1ヶ月に20万円〜30万円も稼ぐことができるのだ。受託作業が中心でありながら、月額平均工賃が比較的安定している要因は、こうした「理解ある企業からの安定的・良質な仕事の獲得に努めている点」にあるようだ。
焼き芋自動販売機の管理も受託する
この他、喜望では「焼き芋の自動販売機の運営管理」というユニークな仕事も請け負っている。これは和光産業という県内企業と、めだかファミリーグループという障がい者施設がタッグを組んで開発したプロジェクトである。現在、焼き芋の自動販売機は宮崎県内の高速道路サービスエリア等を中心に10台以上設置(県外にも続々増えている)されていて、喜望では宮崎市内の運営管理をまかされている。濵野さんは言う。
「作業内容としては、和光産業さんから送られてくる焼き芋を専用の缶に詰め、市内2カ所に設置された自動販売機に定期的(基本は1週間に1度)に補充しに行きます。もちろん代金回収や、専用缶の回収、自販機の清掃作業も私たちの担当業務です。焼き芋そのものは真空パックになっていて、長期保存が利く上、とてもあまくて美味しいと評判なんです。自販機には80本程度の焼き芋が収納できるのですけど、1週間もたずに売り切れてしまう時があるほどです」
自動販売機は、ホット・クール対応型である。だから焼き芋も常に2つのタイプを販売することができ、1年を通じて安定した売上を確保することができる。焼き芋というとどうしても寒い冬に焼きたてをほおばるイメージだが、熱い夏に食べるスイーツ感覚の冷たい焼き芋も最近では人気なのだ。
「この作業が有難いのは、補充作業1回につき3,000円と受託料金が決まっていることです。しかも、移動のガソリン代は別途支給されます。基本は週1回の補充ですが、商品がなくなれば補充に行き、その都度作業量をいただける契約です。私たちが担当する自動販売機は今はまだ2台だけですが、将来的にはこれを10台くらいに増やしていきたいですね」と、濵野さん。人気商品の運営管理という仕事だけに、とても大きな可能性を秘めている。喜望としても取引先である青果市場等に設置を積極的に呼びかけ、「焼き芋自動販売機管理」作業を増やす努力をしていきたい意向のようだ。
わくわくネットワークを活用して、売上拡大を図りたい
最後に、濵野さんに今後の喜望の抱負について伺ってみた。
「現在の喜望の月額平均工賃は、19,687円(令和3年度速報値)。昨年度が18,214円でしたから、コロナ禍にあっても着実に上昇しているところだと思います。心配なのは、売上の半数以上が一社からの依頼(千切り大根やピーマンの袋詰め)となっていることです。とても有難い反面、ひとつの会社に依存しすぎるのも危険です。リスク回避のためにも、他の仕事を増やしていくように努力したいと考えています」
また、齊藤武志専務理事は市内施設全体の協力関係を深めていくことも大切であると、共同受注窓口の活動強化を訴える。
「その中の一つに宮崎市には、約40カ所の事業所が加盟する「わくわくネットワーク」があります。この組織から事業所に仕事の発注や、農福連携として積極的に関係者に働きかけた結果、昨年度実績で600万円超の売上をあげたわけですから、大きな成果といえるでしょう。私自身、わくわくネットワークに関わる理事の1人として、自分の施設のことだけでなく、宮崎市全体の就労施設の売上確保のために全力を注いでいきたいですね」
今後はわくわくネットワークを活用した営業の成果が、焼き芋自動販売機の大量設置などにも繋がっていくかもしれない。地域の施設とともに歩んでいきたいという齊藤専務理事の思いが、少しずつ花開いていくことを期待したい。
(写真提供:一般社団法人きぼう、文:戸原一男/Kプランニング)
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2021年12月01日)のものです。予めご了承ください。