Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人けやきの村(福島県福島市)
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けやきの村の概要
けやきの村は、けやきの村(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援事業・短期入所事業)、青松苑(就労継続支援B型事業・生活介護事業・施設入所支援事業)、静心園(生活介護事業・施設入所支援事業・短期入所事業)等の障害者支援施設を運営する社会福祉法人である。この他、デイサービスセンター桃の里、地域包括支援センター等の高齢者の施設・事業も運営する。
法人の設立は1972年に遡る。重度身体障害者入所授産施設(定員30名)からスタートし、1975年には定員80名に増員するとともに2005年には通所定員も18名に拡大した。さらに1980年には定員50名の青松苑、1982年年には定員50名の静心園(身体障害者療護施設)を併設するなど、要望に応じて入所施設の規模を拡大してきた。新体系移行後も引き続き80名(けやきの村)、40名(青松苑)、50名(静心園)という入所定員を維持している。
施設の周りはリンゴ・ナシ・桃・ブドウなどの果樹園で覆われている。1年の半分は果物の花や実がなって甘い香りが漂う、素晴らしい景観だ。そんな中で、けやきの村では重度の障害者たちでも自立した生活が営めるような支援活動が繰り広げられている。
利用者の特性を活かしたさまざまな就労事業
けやきの村で行われている主な作業種目は、ヘルメット組立、野菜カット、自動車部品組立、軽印刷、施設外就労(清掃・農作業)などである。メインとなるヘルメット組立の仕事は、2004年頃から始まった。けやきの村園長の舟山信悟さん(60歳)によると、以前は設立当時から電化製品の基板組立等の仕事が中心だったのだという。
「1990年代から国内企業は海外へとこうした組立作業をシフトしていき、2000年代に入ると完全になくなってしまいました。5年ほどの空白期間は、本当に大変でしたね。代わりに受注できたのが、ヘルメット内部の部品を組み立てる作業。東日本大震災以降、自治体や企業の防災意識が高まっているので、ここ数年はとても順調に売上が伸びています。オリンピックに向けて公共工事も増えており、ヘルメットの需要が当分は安定して見込める模様です」
もう一つの柱が、野菜のカット作業だ。こちらは学校給食に使う野菜(ジャガイモ、ニンジン)等の皮むきやカット(型抜き)やピーマンの種取りなどを行っている。高級自動車の内部にセットされる部品の準備作業なども、現在のけやきの村の中心となる作業だ。
「一つひとつの作業は、とても地味な仕事です。国内ではなかなか担い手が集まらないようなスキマ分野を狙って、仕事を増やしてきました。高齢化の進む利用者や地域特性を考えると、自主製品販売などのまったく新しい職種を開拓するよりも、現在受注している仕事の担当範囲を広めることが大切だと考えています」と、舟山さんは語る。
一般就労を視野に、清掃事業を伸ばしたい
就労移行支援事業の分野で、けやきの村が力を入れ始めたのが施設外就労としての清掃事業だという。現在は不動産会社からの委託で、6カ所のアパートの清掃を任されている。敷地内清掃や駐車場の雑草とりなどである。今年度からは高圧洗浄機などを取り扱え「特別清掃」も行っている。また、現在は外部業者に委託している施設内の清掃業務もB型事業で請け負えるようにしたいし、そこで培った技術をもとにして一般就労への道も見えてくるはず、というのが舟山さんの考えだ。
「ホテルや公共施設などから仕事の依頼は増えているのに、働く人がなかなか集まりにくいという話を、清掃会社の人からよく聞きます。私はここに新しい可能性があると感じています」
すでに特別支援学校高等部では、授業で就労訓練のためのビルクリーニングを取り入れているところがある。せっかく学校でこのような実戦訓練を行っているならば、地域の学校や企業ともっと積極的に連携を図り、学校で訓練を受けてきた生徒をけやきの村の就労移行支援事業で職業人として育成し、企業への就職に繋げる、そんな未来を描いている。
「一般企業への就労実績が増えていけば、もっとたくさんの障害者たちがウチの就労移行を希望してくれるでしょう。現在は10名の定員に対して、3人しか集まっていないのです。地域のネットワークを活かしながら、就労実績を増やしていきたいですね」
けやきの村では、3年後に向けてグループホームの建設計画も進んでいる。1人で暮らせるようなB型利用者たちは、施設から出て一人でも多く生活の場を地域に移行していくべきだという考えだ。そのためには、少しでも高い工賃を稼げる仕事を確保する必要がある。舟山さんたちの試行錯誤は、今後も続いていく。
積極的に展開する地域貢献活動
最後に、けやきの村が行っている地域貢献活動についても触れておきたい。ご存じの通り社会福祉法人には現在、公益的活動が強く求められている。2016年3月末に施行された改正社会福祉法において、「公益的な取組を実施する責務」があると明確に位置づけられたのだ。求められているのは、地域で必要とされているニーズを把握してサービスを提供すること。けやきの村では、法律改正をきっかけにして専門委員会を作り、地域活動の充実を図っている。
「もちろんこれまでも地域密着の活動を行っていたつもりでした。8月には納涼盆踊り大会、9月にはけやき祭りを開催するなど、住民との交流が図れる場を用意してきたのです。地域支援推進委員会では、さらに一歩進んだ活動とは何かを議論し、やれることはなんでもやってみようという精神で取り組んでいます」と、舟山さん。
現在では、「なかのPTCA活動」と呼ばれる、小学校行事への参加(児童数の減少によってPTAの代わりに地域住民たちが運営協力する活動)、地区の体育大会・小学校と共催で実施する大運動会、「飯坂ファイヤーまつり」への団体参加(37名が揃って、飯坂温泉街の踊り手として参加)など、多くの行事に関わるようになってきた。
また2017年11月には、福祉避難所として開設・受入訓練を実施している。福島市と災害発生時における福祉避難所の協定は以前から締結しているのだが、実際に災害が起こった時のことを具体的に想定したことはなかった。万が一の際には、市から福祉避難所の開設を要請され、早急に準備を開始し、受入れを行わなければならない。そこで法人と市が連携して「一般避難所に避難した障害者が避難所での対応が困難と判断され、けやきの村への受け入れ要請が出された」後の動きを実際に行ったのだという。訓練には、福島県北地区障がい福祉連絡協議会の構成団体にも協力を仰ぎ、要配慮者役として障害当事者の皆さんにも参加してもらった。
「実際にマニュアル通りにやってみると、いくつもムダな動きがあることがわかりました。これでは本当の災害時に混乱するのは目に見えています。共催した市の関係者にも好評で、今後も定期的に実施する方向で検討していただけるとのことです。次回はさらに一歩進んで、みんなが日常業務を行う中で訓練してみようという話になっています。いざという時に本当に役立つ避難訓練にしていくつもりです」
こうした公益的取り組みの積み重ねによって、法人の名は地域社会の中で認められ、今後の活動がさらに進めやすくなるのは言うまでもない。「地域とともに、地域の支えに」をテーマとし、けやきの村ではさらに深く地域に根を張った動きを進めていく予定だ。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人けやきの村(福島県福島市)
http://keyakinomura.jp
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年04月01日)のものです。予めご了承ください。