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社会福祉法人ほしづきの里(神奈川県鎌倉市)

公開日:

社会福祉法人ほしづきの里の概要

ほしづきの里は、障害者サービス事業所・工房ひしめきを中心にして「就労移行支援事業」「就労移行継続支援B型事業」「生活介護事業」「第1号職場適応援助者派遣事業」等をおこなう社会福祉法人である。

具体的な事業内容は、「就労移行支援事業」で清掃事業や味噌製造、「就労移行継続支援B型事業」では弁当やケーキの製造、手芸(アンパンマン指人形)、紙工(牛乳パックリサイクル品)等、多様な作業品目が用意されている。この他、「第1号職場適応援助者派遣事業」として他の事業所にジョブコーチを派遣することで、障害者及び事業主に対して雇用の前後を通じ、障害特性を踏まえた直接的かつ専門的な援助を実施したり、ケアサービスセンター、ケアホーム(四棟)、障害者活動支援センター、生活介護事業「日日クラブ」の運営なども実施している。

鎌倉山の麓に位置する工房ひしめきの施設は、緑に囲まれた古都・鎌倉のイメージそのものの絶好のロケーションである。事実、老舗カフェ「マウンテン」やホルトハウス房子の店「House of Flavors」、廻遊式庭園で有名な鎌倉山「らい亭」、八雲神社など、施設の周りにはガイドブックにも名を連ねる有名な観光地や店舗が次々と並んでいる。

子どもたちに大人気のアンパンマン指人形

そんな工房ひしめきで作られている製品の中でも、全国的にとくに人気が高いのは、手芸班が制作しているアンパンマン指人形であろう。説明するまでもなく、子供たちなら誰もがご存じの大人気アニメのキャラクターである。アンパンマン、ばいきんまん、ドキンちゃん、ジャムおじさん、しょくぱんまん、カレーパンマン、メロンパンナちゃん、ロールパンナ、バタコさん、めいけんチーズと続く人気アニメの登場人物たち。そんな彼らを、カラフルな数種類のフェルトだけを使って手作りで縫い合わせた、実にシンプルな商品だ。

© やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV

町のおもちゃ屋さんでは、プラスチックでできた精巧なアンパンマンの立体人形が勢揃いする中、実にレトロな昔ながらの手づくりおもちゃと言わざるを得ない。しかし、逆にそのシンプルさが子どもたちの心をつかむのかもしれない。全国の保育施設関係者を対象としておもちゃを販売する日本セルプセンターでの出張販売では、ダントツの人気ナンバーワン製品となっているし、工房ひしめきが参加する地域のバザーでもアンパンマン指人形の人気は非常に高いという。

「ある子どもがバザーで指人形を買いに来てくれたときに、前に買ったヤツはこんなになっちゃいました、と見せてくれたことがありました。わんぱくな男の子だったので、本当にボロボロになるまで遊んでくれたみたいなんですね。ああいうのを見ていると、作っている私たちは嬉しくなってしまいます」と、林美枝子施設長は語っている。

保育施設の関係者(幼稚園の先生)たちも、なるべく多くのキャラクターがないとお話しができないので、10キャラクター全てが揃ったセットで買っていくことが多い。一体だと470円にすぎない商品だが、セットになると4,700円である。そんなセットが保育施設関係者の研修会での出張販売会では、「先生方が奪い合うように買っていく(日本セルプセンター販売担当談)」そうなのだ。現在では、月に平均して400枚程度が販売されており、販売会が重なる秋のハイシーズンになると、製造が注文に間に合わない状況が続くこともあるという。

日本テレビ音楽株式会社と、キャラクター使用許可を正式に締結

施設が作るキャラクター商品というと、「使用許可をきちんと得ているのですか?」と疑問視する向きも多いだろう。しかし、心配は無用である。工房ひしめきでは、アンパンマン指人形を制作することを決めたときから、「それいけ!アンパンマン」の版権管理をおこなう日本テレビ音楽株式会社と、正式にキャラクター使用契約を締結している。同じようにアンパンマンの木工パズルを作っていた施設の紹介でアプローチしたとのことだが、当時はまだ無認可作業所の時代だ。地域のバザーで売る程度のことなら「無許可で販売しても許されるだろう」と甘えがちな福祉関係者が多い中にあって、非常に評価できる行動だと思う。

当時の契約自体は、施設の規模や製作予定数を伝えると「その場でオッケーです」という実に曖昧なものだった。その当時は書面も何も交わしていなかった。というのも、キャラクター使用権というのは基本的には月に2,000個以上販売する商品をターゲットとしている権利事業であって、「年に2,000枚も制作できるかどうか」という工房ひしめきの事業規模は、本来なら相手にもならないレベルだったからである。にもかかわらず使用を許可してくれた日本テレビ音楽株式会社の対応は、業界常識からは考えられぬほどの好意的なものである。

多分そこには作者であるやなせたかし氏が持つ「アンパンマンを愛してくれる子どもたちへの温かな愛情」が影響しているのかもしれない。町中のパン屋さんで「アンパンマン」を形作った手づくりキャラクターパンをよく見かけるが、厳密に言えばあれも権利侵害である。しかしやなせ氏は、商業ベースで販売している企業を除けばこのような事例も「アンパンマンの広報活動」の一環として、できる限り寛容視するよう権利会社に依頼しているという。こうした作者の考え方が、アンパンマン指人形のような福祉施設製品への使用権許可にも影響しているに違いない。

アンパンマンキャラクターの正規商品であることを証明する「NTV承認済」シール。

そうはいっても、日本テレビ音楽株式会社はキャラクター使用権を守る立場の会社である。そして工房ひしめきも、(当時はともかく)今や社会福祉法人ほしづきの里という立派な認可法人だ。そのため現在では日本テレビ音楽株式会社ときちんと「キャラクター使用契約」を毎年締結し、販売する商品には提供された「NTV承認済」というシールを一枚一枚貼ることが義務づけられている。このシールは事前に年度製作予定数を申請することによって日本テレビから無償提供され、年末には販売実数をきちんと報告することになっている。販売先はあくまで福祉ショップか地元のバザーというのが取り決めであり、それ以外の一般市場への流通は許可されていない。昨年度の具体的な販売実数は、日本セルプセンターで1,844枚、障害者作業連絡協議会で565枚、地元のバザー関係で701枚、合計で3,110枚であった。

他施設との連携も模索して、制作体制をあげていきたい。

作業現場を見学すると、一枚一枚本当に丁寧に手づくりされている姿に驚かされる。機械化されているのは、フェルト生地からパーツをカットする初期段階だけである。機械がない時代はパーツカットさえ、型紙を元にはさみで切り抜いていたという。ボランティア頼みの人海戦術である。当然ながら精度は落ち、一つひとつのサイズが微妙に異なっている。「人形は目が命」だと言われるように、目玉のパーツの大きさに少しでも違いがあると、愛らしさがなくなってしまう。胴体の形にズレが生じると、さらにシビアな問題がある。表と裏を縫い合わせたときにぴったり重ならないので、最後にはさみで微調整のためカットするという手間のかかる余計な作業が発生してしまうのだ。

アンパンマン指人形の基本型紙をデザインしたのは、林施設長であるという。色とりどりのキャラクターたちを限られたフェルト生地の人形に作り替えるためには思い切ったデフォルメも必要であるし、現場の縫製技術を想定した上で工程をできるかぎり簡素化する必要もある。

「縫製技術的には、縦まつりとアウトラインだけしか使っていないんです。後はミシンが使えれば誰でも作れるデザインにしてあります。手芸品としては、本当に簡単な製品ですよね。キャラクターの種類が多い分、パーツも多いから、手作業の工程が多くて、なかなか大量生産はできませんけど。一度日本セルプセンターからの依頼で1ヶ月に1,000枚生産したことがありましたけど、あれが本当に精一杯。もし毎月だったら、大変なことになっちゃいますよ(笑)

そうはいっても日本テレビ音楽株式会社との契約は、月に2,000枚以内。逆に言うと、年間で24,000枚までは現状の製品を生産販売して良いことになっている。日本中の子どもたちにこれほど人気があるキャラクターの使用権を公式に持っている商品などというのは、施設製品としても希有の存在だ。林施設長もそのことは十分承知しており、「今後は自分たちだけの生産力で考えないで、他施設との連携も考えていかないといけないと思います」とのことであった。

木工作業や食品では少しずつ始まっている施設間連携を、手芸作業でも取り組みたいという考えだ。「福祉施設といえども、新しい時代に対応した発想の展開をしないと生き残っていけない」との危機感が、こうした考えを生み出しているのだろう。他の施設にとっても、「作れば間違いなく売れる製品」の生産に関われるのは魅力的な話であるに違いない。

リサイクルの考えから生まれた商品、「くじらと仲間たち」

アンパンマン指人形が大量に売れるのは嬉しいが、唯一頭が痛いのは、フェルト生地の余りくずが大量に発生することだという。多いときは段ボールで十数箱になる。ゴミとして捨てるのにもお金がかかるし、これを有効活用できないか?と考えてつくられたのが「くじらと仲間たち」という商品らしい。

これは本当に可愛い鯨の人形だ。おなかにポケットがついていて、チャックを開けると海に住む小さな魚たちが大量に入っている。イカ、タコ、トビ魚、カエル、カメ、貝、サメ、等々。鯨に食べられた海の仲間たちが、おなかを開けると次々飛び出してくるという設定である。これだけでも子どもたちは自由にストーリーを作って人形遊びをすることができるが、魚たちにはボタンがついているので、服のボタンの開け閉めを練習できるという知育玩具にもなっている。

魚たちの小さな人形は、すべてアンパンマン指人形の余りくずを使って作られている。そして鯨のお腹を膨らませている「あんこ」は、その他のすべてのフェルトくずなのだ。まさに製品くずのリサイクル。「くじらと仲間たち」を作ることによって、これまで大量に発生していたゴミがまったくなくなったのだという。

「こんなに小さなパーツの集まりなので、一度に大量の数はできませんけど、1ヶ月に50個程度の限定生産なら、ゴミの有効利用のためにももう少し販売に力を入れていきたいですね」と、林施設長。この人形の発案もデザインも、実は施設長の手によるもの。「こういうのを考えるのが、実は一番好きなんですよ」と笑う。大手知育玩具メーカーも取り扱った実績を持つほど、商品としてのレベルも十分である。

法人全体の中に占める手芸部門売上の割合はまたまだ多くはないというものの(メインとなる事業は、法人が運営する施設の給食として販売するお弁当の製造だ)、このような商品アイテムを増やしていくことによって、少しずつ事業の活性化が図られていくに違いない。アンパンマン指人形のキャラクター使用権という優れたソフトを持つ施設であるだけに、工房ひしめき・手芸部門の今後の展開が非常に気になるところである。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

社会福祉法人ほしづきの里・工房ひしめき(神奈川県鎌倉市)
http://www.hoshiduki.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2010年03月04日)のものです。予めご了承ください。