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社会福祉法人まいづる福祉会(京都府舞鶴市)

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まいづる福祉会は、ワークショップほのぼの屋(就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業)、ワークショップBONO(就労継続支援B型事業)、まいづる作業所(就労継続支援B型事業・生活介護事業)等の障害者就労系事業を展開する社会福祉法人である。

この他、まぐらゆるり(生活介護事業)、グループホームゆきなが(共同生活援助事業・短期入所事業)、ホームヘルプまいづる(居宅介護事業・移動支援事業)、障害者地域生活支援センターほのぼの屋(相談支援事業・地域活動支援センター)等の福祉サービス事業所も運営する。

活動の原点は、1977年に開設された無認可のまいづる共同作業所である。京都北部地域には市民運動によって開校が実現した与謝の海養護学校があり、舞鶴の精神科病院による地域医療展開も活発だった。そんな背景もあり、まいづる共同作業所は時代に先駆けして精神障がい者・知的障がい者の混合利用に取り組んできた。

その後1991年に法人化されたのを機に、知的障害者授産施設まいづる共同作業所(1992年)、精神障害者授産施設ワークショップほのぼの屋(2002年)が開設され、新体系を機に現在の4事業所にまとめられている。

本格的なフレンチレストランをオープン

現在のまいづる福祉会を代表する事業となっているのが、ワークショップほのぼの屋が運営するカフェレストラン「ほのぼの屋」だろう。舞鶴湾を一望できる丘の上という絶好のロケーションに位置し、吹き抜けになったオシャレな建物の中で、本格的なフランス料理を味わえるレストランなのだ。この店をオープンした理由について、材木淳志施設長(56歳)は次のように説明する。

「当時、施設の主力事業を何にしようかとみんなで議論することになりました。そんな中で気がついたのが、食べ物についてこだわりをもつ利用者たちが多いことです。普段はほとんど発言しないような人でも、話題が食べ物になると人が変わったようになります。せっかくなら彼らの特技を活かして、レストランに挑戦しようということになりました」

とはいうものの、当時はまだ障がい者の施設が飲食店を運営するのは非常に珍しかった。しかも本格的なフランス料理店を作ろうというのだから、地域の人たちが戸惑ったのも当然だろう。事前に丁寧な説明会を繰り返し、「市民の誰もが利用でき、障がい者が普通に働くレストランを作る」という運営方針に、ようやく理解が深まっていったのだという。

「もちろん、レストランでもっとも重要なのは料理の味でしょう。いくら外観や理念が優れていても、中身が伴わなければ意味がありません。建物の設計や建築がどんどん進む中、肝心のシェフはなかなか決まりませんでした。このままだと私がやるしかないと思っていたときに、事業コンサルをお願いしていた塩原勝さんが『そんな状況なら、私がやる』と手を上げて下さったのです」と、材木さん。

じつは塩原さんは、京都ロイヤルホテル、大阪ヒルトンホテルなどで総料理長を努めていた超一流シェフ(現・ホテル ルビノ京都堀川総料理長)だった。そんな方がメニューづくりからすべて関わってくれることになり、ほのぼの屋のレストラン事業は一挙にグレードアップしていったのである。もちろん、ここはあくまで地域の人たちが気軽に食べに来られることをめざす飲食店だ。そのため店名には、あえて「プチ・フレンチ」と銘打っている。

オープン当初から連日満席。夜も予約で1ヶ月先まで埋まる

一流シェフの招へいに成功し、満を持してオープン日を迎えると、想像以上の来店者が「ほのぼの屋」に押し寄せた。材木さんは当時のことを次のように思い返す。

「プレオープンとして地域の関係者を招待したのが功を奏し、開店後も連日満席の状態が続きました。開店時間になると予約の電話が鳴り止まず、駐車場も専属の整理係が必要なほど。オープンしてから半年ぐらいはずっと、夜の予約も1ヶ月先までビッシリ埋まっているという状況でしたね」

客席は、1階に24席。2階も解放すると、最大60席まで集客することができる。大きなガラス窓を通し、季節折々の風景を楽しむことができる。舞鶴湾に沈む夕日を眺めながらゆったりと過ごせる空間は、お客さんの心を虜にした。来店した方が口コミで次々と広め、多くの人たちに評判が伝わっていったのである。

「成功した秘訣は、やはり初代の塩原シェフの力が大きかったと思います。もし私が調理を担当していたら、間違いなく3ヶ月で閉店していたことでしょう」と材木さんは笑う。その後料理人は、2代目の糸井和夫シェフ(元ミレイユ料理長)、そして3代目の伊豆田知久シェフ(元ラ・ベルベーヌ料理長)へと代わったが、初代シェフの情熱も味もきちんと引き継がれている。

レストランで働いているのは、13名の利用者たちだ。厨房の調理補助、ホール係、食器洗いやグラスふき、開店準備(清掃やテーブルセッティング)、ユニフォーム洗濯、店舗まわりの清掃(草取りや雪かきなど)等々、繁盛店であるがゆえ、ここには数え切れないほどの仕事がある。精神疾患のある方が中心の職場だが、体調が優れないときにはいつでも畳で休める休憩スペースも完備した。そのため利用者たちの出勤率も非常に高く、施設全体の月額平均工賃は46,000円(B型事業所)を超えている。材木さんは語っている。

「店が繁盛することによって、利用者たちの仕事への意識がどんどん高くなっていくのが一番嬉しいですね。給料が5万円を超えた方は生活が変わりますし、8万円を超えると将来の夢を語り出す。10万円を超えると、働きぶりが明らかに変わってきます。この店にふさわしいプロフェッショナルの働き手を、これからもどんどん生み出していきたいと思います」

新聞配達・清掃・プラスチック選別などの受託業務も

ワークショップほのぼの屋では2006年から、宿泊施設「Auberge de Bono(おーぼるじゅ・ど・ぼの)」の運営にも乗り出している。1日2組限定、南フランスのコテージをイメージしたような宿泊付きレストランだ。部屋はセミスイートとジュニアスイートの2タイプ。1泊2食事付きで、1人22,000円〜(2名で40,000円〜)という価格体系となっている。夕食はレストランにてシェフのお任せコースを堪能でき、部屋やお風呂からはもちろん舞鶴湾の絶景を満喫できる。シェフの料理目当てのリピーター客が6割を占め、桜の花が美しい春先や紅葉の時期などは早くから予約で埋まるのだという。

事業所(ワークショップほのぼの屋)が手がける事業は、他にも数多い。舞鶴赤レンガパークのメンテナンス(館内・館外清掃、花壇管理)や、舞鶴市リサイクルプラザにおけるプラスチック選別、舞鶴市民新聞の配達・集金などである。ワークショップBONOのカフェ・弁当・マルシェ・米販売等の作業も合わせると、バラエティ豊かな職場が用意されている。だからこそ、利用者たちは自分に適した仕事を選択できるようになっているわけだ。

「障がい特性によって、希望する働き方はバラバラです。レストランで長時間働きたい人もいれば、短時間の肉体労働でガッチリ稼ぎたい人もいます。作業メニューの多様化によって、彼らの希望に添った職場を提供することができるようになりました。私たち援助者の主たる役割は、土を耕し、地域を耕すこと。これからも地域の人たちに愛される施設運営を手がけたいと思います」と、材木さん。

これまでに訪れた食事客は20万人以上、結婚式を挙げたカップルも300組を越えたというカフェレストラン「ほのぼの屋」。この超繁盛店を中心にして、まいづる福祉会のディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への挑戦は果てしなく続いていく。

(文・写真:戸原一男/Kプランニング

ワークショップほのぼの屋(京都府舞鶴市)
http://www.honobonoya.com

※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2019年07月01日)のものです。予めご了承ください。