Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人泉会(東京都西多摩郡日の出町)
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泉会の概要
泉会は、主に東京都世田谷エリアと日の出エリアに各種障害福祉サービスを展開する社会福祉法人である。世田谷エリアには、泉の家(就労移行支援・就労継続支援B型・生活介護・短期入所)、岡本福祉作業ホーム(就労移行支援・就労継続支援B型・生活介護)、玉堤分場(就労移行支援・就労継続支援B型)、相談支援センターおかもと(特定相談支援事業)。日の出エリアには、日の出舎(施設入所支援・生活介護・短期入所)、就労日の出舎(就労継続支援B型)、相談日の出舎(特定相談支援事業)、グループホームのぞみ(共同生活援助)という構成になっている。
1971年に日の出地区に開設した重度身体障害者授産施設(当時)日の出舎が、就労日の出舎の前身である。緑に囲まれた多摩地区の自然環境を活かし、木工作業を中心とする事業展開を進めてきた。地となる木を模様となる形にくり抜いて、そこにぴったりと違う木をはめていく木象嵌(もくぞうがん)の技術を用いた工芸品づくりはとくに有名で、昔は日の出舎の名物となっていた。
工芸品から工業製品づくりへの方針変更
就労日の出舎の中心的な仕事は現在でも木工作業が中心だが、内容は以前とは大幅に変わっている。加藤圭介支援課課長(38歳)は、その変化を次のように説明する。
「日の出舎は新体系に移行する時に、入所施設(生活介護:軽作業)と通所施設(B型事業:木工作業)に分離しました。B型事業に求められたのは、より高い工賃をめざした事業所にすることです。作業に携わる利用者の数は大幅に減ったので(70名→20名)、より効率的に仕事を進めていかなければいけません。そこで私は自主製品の製造販売から、企業や団体からの受託製品加工へと仕事の方向性を変えたのです」
当時の月額平均工賃が約10,000円程度に過ぎなかったということも、加藤さんが思い切って舵を切り替えた理由だ。1つひとつはしっかりした技術に培われた工芸品かもしれないが、それを地元のバザー等で細々と販売していても大きな利益は見込めない。時代が求めているような高い工賃を「木工作業」で実現するためには、もっと効率的に収益が上がる仕事に特化するべきだ。そんな考えから、大量ロットが見込まれる木製ノベルティなどの製品受注に切り替えていった。
官公庁からの発注拡大が、業績を後押し
就労日の出舎が製品づくりで取り扱っている木材のほとんどが多摩地区のものである。これが近年、非常に価値あることになってきた。東京都が「多摩産材の有効活用」を積極的に推進するようになったため、官公庁が製作する各種グッズづくりを日の出舎に依頼するケースが相次いでいるというのだ。とくに2015年以降の売上の伸びは順調で、月額平均工賃も2017年度は初めて30,000円を超えた。加藤さんはうれしそうに語る。
「私たちが受注しているのは、大きな企業では取り扱わないけれど、個人の木工作業所では作れないような、いわばスキマ産業みたいな仕事が多いです。でもじつはこれこそ私たちが得意としている、規模は小さいけれど、ある程度の量産にも対応できる品質の高い作業です。東京都には本格的に木工作業を行っている施設は少ない中で、森林認証を受けたり、多摩産材に力を入れていることが就労日の出舎の強みになります。お客さんからの紹介や口コミで新しい受注先はどんどん増えています」
これまでの取引実績として、民間企業のほか、東京都水道局、環境団体、森林事務所、東京都農林水産振興財団、各自治体の環境課、森林課など。東京マラソンのグッズ(応援用の拍子木)も手がけるようになったし、2020年に向けて東京オリンピック・パラリンピック関連の受注も期待している。今後の工賃拡大についても、大いに可能性がもてそうだ。
「東京都農林水産振興財団の主催で、多摩産材の利用拡大を目的とした商談会が開催されています。毎年、新宿のNSビルで開催されるフェアには私たちも参加するのですが、ここに出展すると絶大な効果があってとてもありがたいですね。『多摩産材を使って、こんな細かい仕事を国内でも加工してくれるのか』と、お客さんからとても注目されるのです」と、加藤さん。東京という地の利を活用し、これからも受注拡大に努めていきたいと意欲を語っている。
木工作業部会への参加が、意識を変えた
行政からの後押しもあり、事業はとても順調に推移する就労日の出舎だが、加藤さんが現在のように積極的な考えをもてるようになったのは、日本セルプセンター木工作業部会への参加がきっかけなのだという。加藤さんはその時の衝撃を次のように語る。
「もちろん授産施設の時代から、木工作業部会にはメンバーとしては名を連ねてはいました。でもほとんど会議には参加しない状態だったのです。初めて私が会議に参加することになり、他の施設の方々と話してみると、本当に驚くことばかりでした。木工作業部会の皆さんは、商売への意識がとても高いのです。これまでの私たちの考え方は、あまりに甘かったと反省しました」
たとえば守山作業所(愛知県)の、商品開発への意欲とアイデア満載のオリジナル治具。旭川美景園(北海道)の、外注加工を積極的に取り入れた商品づくりの発想。川本園(埼玉県)の、民間と渡り合えるような木工設備や営業活動、等々。どれも加藤さんにとっては斬新な活動ばかりであり、それらを着実に取り入れていった。その結果、現在の就労日の出舎の躍進が始まったのである。
「木工作業部会に参加している施設は、現在約40施設。仕事で分からないことや困ったことがあっても、誰かが必ずサポートしてくれます。だから今では、お客さんからの依頼を断るという発想はまったくなくなりましたね。どんな仕事であっても、どーんとこいという感じです(笑)」
全国に広がった木工作業所ネットワークがあるからこそ、みんなで力を合わせて受注拡大に努めることができる。就労日の出舎ではこれからも、木工作業を中心としてより高い工賃をめざした事業運営に挑んでいく。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人泉会・日の出舎(東京都西多摩郡日の出町)
http://hinodesha.org
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2018年11月01日)のものです。予めご了承ください。