Reportage
SELP訪問ルポ
社会福祉法人茨城補成会(茨城県東茨城郡茨城町)
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茨城補成会の概要
茨城補成会は、涸沼学園(障害児入所施設)、涸沼キッズ(障害児通所支援事業)、涸沼キッズサテライトゆうゆう、石崎学園(児童養護施設)等の児童福祉事業、涸沼学園集まれガッツ村(施設入所支援事業・生活介護事業・短期入所事業)、はたらくガッツ村(就労移行支援事業・就労継続支援B型事業)、グループホーム集まれガッツ村(共同生活援助事業)、ふぃるさぽーと(相談支援事業所)等の障がい者福祉事業を運営する社会福祉法人である。
法人の始まりは1939(昭和14)年に設立された司法保護団体の茨城農業訓練所にまで遡る。戦災遺児が自立生活を送れるようなサポートをするための施設(孤児院)を、福祉制度も整っていなかった時代に立ち上げたのだ。1954年に法人認可されると養護所を開設し、対象を障がい児にまで拡張。その後も一般棟の他に重度棟を増築するなど、事業を広げていった。
2008年からは児童施設の過齢入所者対策として、障害者支援施設涸沼学園集まれガッツ村(成人入所施設)を開設。2019年にははたらくガッツ村を立ち上げ、利用者たちの就労支援にも力を注ぐようになったのである。
はたらくガッツ村の主力事業
就労支援を目的としたはたらくガッツ村では、主に ①受注生産、②洗卵事業、③スイーツ工房、④レストランの4つの事業が展開されている。
受注生産とは、主に農作業である。畑で根菜類を中心とした野菜を栽培し、近隣スーパー等で販売するほか、農福連携の施設外就労として地域農家の手伝いにも出向いていく。収穫だけでなく、除草作業や野菜の箱詰めなど、「人手がほしい時には何でも相談ください」というスタイルを貫いているため、まちのよろず相談所としてさまざまな仕事が舞い込んでくる。
洗卵とは、まさに卵を洗う仕事である。町内にある小幡畜産という養鶏場の卵を仕入れ、ていねいに手作業で洗浄・計量分別することによって付加価値を付け、スーパーやレストランなどに卸している。餌や飼育法にこだわった特別な卵のため、都内の一流レストランや生協から大人気なのだとか。
そんなこだわり卵を使い、スイーツ工房ではシフォンケーキをメインで焼いている。添加物はもちろんのこと、特殊なフレーバーも着色料も使わない自然な味わいの各種スイーツは、大人気である。飼料用米を食べて育った白い黄身の卵「ガッツ村穂の香卵」を使うため、ケーキも美しく焼き上がるのだ。
2018年5月からスタートした事業が、レスラトンである。施設本体から少し離れた水戸市内の閑静な住宅地に、フランス料理店「ビストロ・ラ・ポルト・アミ」(就労移行支援事業所)をオープンさせ、新たな活動への第一歩を踏み出した。
住宅街にあるオシャレなフレンチレストラン
ビストロ・ラ・ポルト・アミの特色は、福祉色を一切排除したオシャレなフレンチレストランであることだろう。建物の外観は、一見するとまるで教会のよう。入口付近にはぶどう柵もあり、閑静な住宅街の中に生まれた「癒やしスポット」となっている。
料理を担当するのは、大手飲食店チェーンの総料理長をつとめた後、水戸市でフランス料理店を開業するなどの経歴をもつ齋藤義一シェフ(61歳)だ。常陸牛や地元野菜など県内産の食材を使い、素材の味を活かしたシンプルな料理を提供する。営業は火曜から土曜日の11:30〜15:00のランチタイムが中心で、カフェタイムは15:00〜18:00まで。予約があれば金・土曜日の週末のみ、ディナーにも対応する。
「おかげさまで連日、ランチは大人気です。4月16日に緊急事態宣言が発令されてから(茨城県は特別警戒都道府県)、5月末まではテイクアウト専門となっていたのですが、6月9日からレストランも再オープンし、ようやくお客さんも戻って来ました。今では以前のように毎日満席になっていて、事前に予約いただかないとご案内できないほどです」と、齋藤シェフは嬉しそうに語る。お客様は女性たちが圧倒的に多く、素敵な料理が運ばれてくるたびに歓声を上げている。それを写真に撮ってSNSにアップするため、口コミでどんどん広まり、料理の美味しさとリーズナブルな価格が知れ渡っているようなのだ。
ちなみに非常事態宣言期間中は、「テイクアウトこども食堂」をおこなった。学校休業により給食がなくなったご家庭を対象として、300円でお弁当を販売したのだ。当初は子ども支援の企画だったのだが、大人からの要望も多かったのですべて同じ低価格でのテイクアウト販売に切り替えた。
店舗再開後の感染対策にも力を入れている。現在、「いばらきアマビエちゃん」に登録することにより、ガイドラインに沿った感染防止対策が施された「安心してお食事できる店舗」として茨城県より認められているのだ。
利用者たちの仕事は、開店準備(清掃、テーブルセット)、ホールでの接客、厨房での皿洗い、等々である。一流のシェフが仕切る店だけに、求められるのは業界でも最高基準の衛生管理とサービスマナーだ。
「このレストランのモットーは、利用者の『はたらく』を支援するだけでなく、人生の扉を開くお手伝いをすることです。ここで培った技術があれば、どこに巣立っても立派に働くことができるでしょう。私たちが大切にしたいのは、人としてのベースです。障がい者福祉ではなくて『人間福祉』という観点で、彼らの教育に取り組んでいます」と、檜山太一理事長(46歳)。
(写真提供:茨城補成会)
「まちをつくる」ために社会福祉法人が担うべきこと
ビストロ・ラ・ポルト・アミでは、来店したお客様に「ガッツ村エシカルファンクラブ会員」への入会を積極的に勧めている。エシカルとは、倫理的という意味である。近年は「必要とされている社会や環境に配慮する行動」を表すようになってきた。会員募集のチラシには、「その活動が地球の未来につながります!」とあり、エシカル消費についての説明が以下のように書かれている。
「私たちが消費しているものやサービスの生産背景を知り、生産者の搾取をしないものを買ったり、環境負荷の低いものを買ったりという行動を取ることは、それ自体が社会問題の解決への貢献となる発想です。障碍者の作ったものを買う、障碍者が働く店でサービスを受ける、障碍者に仕事を発注する、というはたらくガッツ村への消費は、まさにエシカル消費なのです」
つまりビストロ・ラ・ポルト・アミは、こうした法人からの主張を訴えるための発信拠点でもあるわけだ。料理を待つ間、ホール係の利用者に説明されるとお客さんは喜んでファンクラブの会員になっていく(入会金500円)。入会すると素敵なプレゼント(穂の香卵)やポイントカードなどの特典が付くだけでなく、法人からの広報誌も届く仕組みだ。檜山理事長は言う。
「自分たちの活動理念を地域住民に伝えていく広報活動は、社会福祉法人にとって非常に重要なことだと私は思います。はたらくガッツ村では広報担当の若手職員を配置し、ホームページやSNSも活用して積極的に情報を発信しています。その結果、いろんな人たちから仕事の依頼も増え、斬新な発想をもつ優秀な人材も参加してくれるようになりました」
今後の夢は、「村」から「まち」規模への理解者の拡大だという。「はたらくガッツ村」のさまざまな活動に、何十万人もの地域住民たちが集まって来る。将来的にはそんな組織づくりをめざしている。「地域が賑わえば、必然的に福祉も発展していく。地域発展のサポートは、社会福祉法人の大切な役割だ」と語る檜山理事長の構想は、数年先の未来を見つめている。理想とする地域共生社会の実現をめざし、2022年には施設の大規模リニューアルも進められているところだ。これからのさらなる改革の行方を期待したい。
(文・写真:戸原一男/Kプランニング)
社会福祉法人茨城補成会(茨城県東茨城郡茨城町)
https://ibaraki-hoseikai.jp
関連リンク:ビストロ・ラ・ポルト・アミ
※この記事にある事業所名、役職・氏名等の内容は、公開当時(2020年08月01日)のものです。予めご了承ください。